はたがや日和~JFPA相談室へようこそ~ 【869号】
東京都不妊・不育ホットライン相談員 横尾 澄香
不妊治療を考え始めたとき、多くの人が「まず何から始めればいいのか」という最初の壁にぶつかります。特に「30代後半」という年齢は、ネットに溢れる膨大な情報は、安心材料になるどころか、かえって焦りを増幅させる原因になりかねません。卵子の質の変化やタイムリミットという現実的な数字が頭をよぎるなか、「失敗したくない」「遠回りしたくない」という心理が働き、最初の一歩が重くなってしまうこともあります。相談現場に求められるのは、そうした焦りに寄り添いながらも、具体的で迷わない「ファーストステップのロードマップ」を分かりやすく提示することです。
妊活を始めて半年の37歳の女性Aさんは、「年齢的にもそろそろ病院へ」と考えつつも、何から始めたら良いのか迷っていました。「普通の産婦人科でいいのか? それとも専門クリニックに行った方がいいのか?」「病院によって何が違うのか」「働きながら通うにはどこがいいのか?」。調べれば調べるほど、分からなくなってきました。夫は、「協力はしてくれますが、妊活を始めて、まだ半年だし」と積極的ではありません。と、スタートラインに立つこと自体にどこか孤独感とハードルを感じていました。
Aさんのように「迷って動けない」「何から始めたらいいのか分からない」状態は、決して珍しくありません。Aさんが求めているのは、自分たちに合った「病院選びの基準」と夫婦で最初の一歩を踏み出すための具体的な後押しなのです。
病院選びにおいて伝えておきたい3つの視点があります。
第一に「一般産婦人科」か「不妊専門クリニック」かの選択です。30代後半という年齢を考えると、タイミング法から体外受精までシームレスに移行できる「専門クリニック」の方が、結果的に遠回りを妨げることにつながるケースもあります。「一般産婦人科」「不妊専門クリニック」を選んだ時のメリットとデメリットを知っておくことが必要です。
第二に「通いやすさ」という現実的な条件です。不妊治療、特に排卵周期に合わせた通院は、月に何度も、しかも急な指定で行われます。職場や自宅の近く、予約の取りやすさ、夜間・土日の診療の有無は、治療を継続するための重要な要因の一つになります。
最後に「夫婦で受診できる環境」です。男性側の検査も初期段階で不可欠であるため、男性が入りやすい雰囲気かどうかも夫婦の温度差を埋める大きな鍵になります。ご夫婦によっては男性外来の有無の選択肢の一つになるかもしれません。
ファーストステップを明快にすることは重要ですが、私たち相談員が忘れてはならないのは「結果が出なかったらどうしよう」という心理的に追われる切迫感のケアです。病院選びという具体的な行動をナビゲートする一方で、心の面では「まずは検査で自分たちの現在地を知ることからはじめましょう」「もし合わない病院なら途中で変えてもいいんですよ」と選択の柔軟性を伝えます。そして、すぐに良い結果は出ずとも、当事者たちが自分なりの方法で回復し、前に進めるようサポートしていく温かな受容が大切だと感じています。
