職域保健の現場から

職域保健の現場から<66>女性活躍推進を支える健康づくり ~子宮頸がん検診受診率向上への挑戦~ ブラザー工業株式会社 保健師 日笠 ちはる


 職域保健の現場で活躍されている方に、さまざまな取り組みをご寄稿いただいている本連載。今回は、ブラザー工業株式会社 保健師 日笠ちはるさんに、社内で展開している子宮頸がん検診受診率向上への取り組みについてご紹介いただきました。ぜひご覧ください。(編集部)


弊社の紹介

 ブラザー工業株式会社は、愛知県名古屋市瑞穂区に本社を置く製造業です。約4,000人の従業員(単体)が在籍し、主にプリンター・複合機、産業用プリンター、工作機械などを開発・製造しています。2016年9月に「ブラザーグループ健康経営理念」を策定し、最高健康責任者(CHO:Chief Health Officer)のもと、さまざまな活動に戦略的に取り組んでいます。
 女性活躍推進が重要な経営課題の一つとなる中、育児との両立支援やキャリア形成支援に加え、女性特有の健康課題への支援も重要なテーマとなっています。中でも子宮頸がんは20~40歳代の女性に多くみられ、女性のライフキャリア形成に影響を及ぼす可能性のある疾患です。
 弊社では女性活躍推進を支える健康施策の一つとして、若年女性従業員の子宮頸がん検診受診率向上に取り組んできました。本稿では、その取り組みを通じて得られた学びや保健師として感じたことをご紹介します。

若年世代の受診率が低いという課題

 弊社では、女性の健康支援の一環として、子宮頸がんに関する教育を継続してきました。子宮頸がんに関するセミナーの開催や情報発信に加え、HPVワクチンのキャッチアップ接種対象世代への接種勧奨などを実施しました。しかし、こうした取り組みにもかかわらず、子宮頸がん検診の受診率は期待したほど向上しませんでした。
 受診状況を確認すると、年齢層によって受診機会に大きな違いがあることが分かりました。35歳以上の女性従業員は、国が推奨するがん検診を定期健康診断とあわせて受診できる仕組みがあり、比較的高い受診率を維持していました。一方、35歳未満の女性従業員は、医療機関で個別に婦人科検診を受け、その費用を健保が補助する仕組みでした。そのため、自ら医療機関を探して予約し、受診日程を確保する必要がありました。
 このような仕組みの違いが、受診率の差につながっている可能性があると考えました。特に若年世代は、業務やプライベートで多忙な時期でもあり、受診のための時間確保や予約手続きが負担になりやすいと考えられます。保健師が面談や健康相談で従業員の声を聴く中でも、「必要性は理解しているが受診できていない」「受診しようと思いながら後回しになっている」といった声が少なくありませんでした。
 また、子宮頸がん検診は婦人科で受診する必要があるため、「婦人科を受診することに抵抗がある」「受診するきっかけがない」といった心理的なハードルも、受診行動に影響していると考えられました。こうしたことから、受診率向上には知識や意識への働きかけだけでなく、受診しやすい機会を提供することが重要だと考えるようになりました。
 20~30歳代はキャリア形成に加え、結婚や妊娠・出産などライフイベントとも重なる時期です。女性が安心して将来のライフプランを描きながら働き続けるためにも、若いうちから自身の健康に目を向ける機会を提供することが重要であると考えました。

検診の仕組みそのものを見直す

 そこで、検診の仕組みそのものを見直すこととしました。従来の医療機関受診方式から、定期健康診断の機会を活用し、子宮頸がん検診を受診できる仕組みへ変更しました。
 制度変更にあたっては、健診機関や社内関係部署と調整を重ね、検診枠の確保や運用方法を検討しました。受診に必要な手間をできるだけ減らし、定期健診の流れの中でスムーズに受診できる環境を整えました。
 また、新たな仕組みの導入に当たっては、単に案内文を配信するだけではなく、保健師が作成した動画教材を活用して情報提供を行いました。子宮頸がんの特徴や検診の必要性、検査方法などを分かりやすく伝えることで、不安や疑問の軽減を図りました。

受診率向上という成果

 35歳未満の子宮頸がん検診受診率は16.6%から54.1%へと大きく向上しました。
 この結果から、検診の必要性を理解してもらうことに加え、「受診しやすい環境を整えること」が極めて重要であると改めて実感しました。これまで私たちは、受診しない理由を知識不足や関心の低さに求めがちでした。しかし実際には、受診したい気持ちはあっても、忙しさや手続きの煩雑さ、婦人科受診への心理的な抵抗感が、行動に移す妨げになっていました。
 今回の取り組みを通じて、従業員の声に耳を傾けながら課題を整理し、仕組みの改善につなげることの大切さを改めて認識しました。

働く女性の未来を支えるために

 女性活躍推進というと、育児支援制度や柔軟な働き方に注目が集まりがちですが、それらの制度を十分に活用しながら長く働き続けるためには、健康であることが前提となります。
 産業保健師の役割は、健康問題が発生した後の支援だけではなく、予防的な視点から健康づくりを支援することにあります。今後も、女性一人一人が自身の健康と向き合い、安心して働き続けられる職場づくりに取り組んでいきたいと考えています。そして、健康支援を通じて、女性活躍推進やライフキャリア形成を支える一助となることを目指しています。

動画教材の一部

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