職域保健の現場から<65>働き世代の睡眠支援~制度・教育・個別支援の3つの視点から~ TIS株式会社 保健師 山崎 彩
職域保健の現場で活躍されている方に、さまざまな取り組みをご寄稿いただいている本連載。今回は、TIS株式会社 健康相談室 保健師 山崎 彩さんに、社内で展開している働き世代の睡眠支援についてご紹介いただきました。ぜひご覧ください。(編集部)
当社の紹介
TIS株式会社は、金融・製造・公共・通信など幅広い分野で、システム開発から運用までを一貫して支援する総合ITサービス企業です。約6,000人の社員(単体)が在籍し、平均年齢は40.5歳(グループ会社社員を含む)で、若手からベテランまで幅広い世代が活躍しています。東京・名古屋・大阪の3拠点には健康相談室を設置し、産業医と看護職が連携しながら社員の健康を支援しています。また、「健康経営優良法人(ホワイト500)」に8年連続で認定されており、「心身の健康」「生活力の向上」「働きがいの向上」を柱に、社員一人一人のQOL向上とWell-beingの実現に取り組んでいます。
睡眠に関する現状
当社では、毎年実施しているストレスチェックに独自の設問を追加し、社員の睡眠状況を継続的に把握しています。健康日本21(第三次)では、「睡眠で十分に休養がとれている者」の目標値は80%、「十分な睡眠時間を確保できている者」の目標値は60%とされています。当社でも、睡眠時間については一定程度確保できている社員が多い一方で、「睡眠で十分に休養がとれている」と回答した社員は全体の約4割にとどまっており、睡眠時間の確保に加え、心身の回復につながる睡眠を支援していくことの重要性を感じています。
IT企業では、夜間の障害対応やリリース作業、納期前の繁忙などの業務特性上、生活リズムが乱れやすい傾向があります。だからこそ、「睡眠を整えることはセルフケアの基盤である」というメッセージを、さまざまな機会を通じて繰り返し発信することが重要だと考えています。
睡眠支援の取り組み
1.勤務間インターバル制度
2019年度から、「勤務間インターバル制度」を導入しています。これは、勤務終了から翌日の勤務開始までに11時間以上の休息時間を確保することを目指す制度です。「労働時間の長さ」を規制するのではなく、「休息時間」を確保することで、社員の睡眠や心身の回復につなげることを目的としています。
また、組織ごとのインターバル取得状況や時間外労働時間を公開するとともに、勤怠システム上でインターバル不足を検知するアラート機能も整備しました。こうした「見える化」の積み重ねにより、社員の間でも、「睡眠は仕事のパフォーマンスに関わる重要な要素である」という認識が少しずつ広がってきていると感じています。
2. e-ラーニングによる睡眠教育
2024年度には、全社員を対象としたヘルスリテラシー向上e-ラーニングの中で、「睡眠」をテーマに取り上げました。ストレスチェックの独自設問で把握している社員の睡眠状況に関するデータを示しながら、睡眠時間の確保だけでなく、「睡眠で十分に休養がとれている」と感じられる睡眠の重要性について伝える構成としました。
e-ラーニングでは、睡眠環境の整え方(光・温度・音)、生活習慣の工夫、カフェインやアルコールとの付き合い方、効果的な仮眠の方法、さらに睡眠障害の基礎知識まで、幅広いテーマを取り上げました。図やイラストも活用しながら、忙しい社員でも端的に理解し、日常の中で実践につなげやすい内容となるよう工夫しています。また、自社のデータを示すことで、「自分ごと」として受け止めてもらいやすくなったのではないかと感じています。
3. 新入社員への睡眠教育
毎年4月に新入社員を対象として実施している入門研修では、「働くための心と身体のセルフメンテナンス」をテーマに、体内時計のしくみや、朝の光によるリセット、質の良い睡眠のためのポイントなどを伝えています。
また、入社1年目の後半には「セルフケア研修」を実施しており、ここでも睡眠は欠かせないテーマの1つです。研修では、同期同士のグループワークを通じて、生活リズムが崩れたときにどう立て直すか、困ったときに誰に相談するかなどについて、一緒に考えられる構成としています。
学生から社会人になったばかりの時期は、生活環境や働き方が大きく変化し、睡眠リズムも崩しやすくなります。「眠れない状態が続く場合は、心身の不調のサインである」と社会人生活の早い段階で伝えておくことで、自分自身で不調のサインに気づき、早めにセルフケアを行ったり、必要なときに相談できたりすることにつながればと思っています。

産業保健活動を通じて感じていること
睡眠支援に取り組む中で感じているのは「1回の情報提供だけで行動を変えるのは難しい」ということです。e-ラーニング、研修、衛生委員会での講話、社内ポータルサイトでの情報発信、個別面談など、さまざまな場面で繰り返し睡眠について触れていくことで、少しずつ睡眠を整えることも仕事のパフォーマンスや健康管理の一部であることを意識してもらいやすくなるのではないかと思います。
また、睡眠は業務状況や生活背景、人それぞれの価値観にも大きく影響を受けます。当社でも、夜間の障害対応や繁忙対応など、業務特性上、睡眠をとりたくても十分に確保しづらい状況が発生することがあります。そのため、知識や理想を一方的に伝えるだけではなく、社員一人一人の状況に耳を傾けながら、「今の環境の中で、少しでも良い休養につなげるにはどうしたらよいか」を一緒に考えていくことが大切だと感じています。
産業保健職として、制度や情報提供を通じて全体へ働きかける視点と、個別面談を通じて社員一人一人や職場の状況に応じた支援を行う視点の両方を大切にしながら、これからも睡眠支援に取り組んでいきたいと思っています。
