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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第35話>ピルを解禁すれば、エイズが大流行する

第803号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 1992年3月18日の読売新聞の記事に衝撃を受けたが、一方で、朝日新聞ウィークリー・アエラ2月4日号に掲載されたボー・グンナーソンさん(※)の「ピルが解禁すれば、エイズが大流行する コンドームの使用が日本でエイズを防いできた その防護壁が失われてしまう」が注目を集めていた。それは、「30年もの長い間、頑として経口避妊薬(ピル)を容認しなかった日本の厚生省が、その方針を大きく転換した」という出足から始まる。
 「人口10万人あたりのエイズ・ウイルス感染者数は、血友病患者を除くと、日本はスウェーデンの30分の1以下と、極めて少ない。日本では避妊にコンドームを使う率が高いことに負う所が大きい。ピルの解禁は、エイズの流行を欧米よりも6~7年も遅らせてきた日本社会のこの土壌を、突き崩すことになるだろう。日本の若い世代がとんでもない危険にさらされる、という自殺行為にも等しいものといえよう」と警告を発する。「1960年代、欧米諸国でピルは『女性解放』のイメージを与え『セックス革命』とまでいわれていたものだ。女性はピルによって自分の体を管理できるようになり、望まない妊娠と、その結果としての中絶から身を守れるようになったのは事実だ。しかし、真の女性解放をもたらしたとは決していえない。男たちはピルを素早く利用し、避妊のための肉体的負担を、すべて女性に押しつけたのだ」
 記事の中に登場する、東京大学医学部の大井玄教授は、「エイズが他の国ほど重大な問題になっていないため、コンドームを使う目的の第一は避妊で、性病の予防を意識していない」という。
 記者は、わが国の性教育の立ち後れも問題だと指摘する。スウェーデンでは83年以来、女性が医師からピルを出してもらう時に、ステディな関係でない限り、必ずコンドームを併用するように指導すると紹介している。「厚生省と文部省の責任は重大である。日本政府の取り組み不足と無頓着さに、外国のエイズ研究家たちはあきれかえっている違いない」と指摘する。
 この記事では最後に、「ピルはいまや、時代遅れのものとなってしまっているのが現実だ。それを服用するのは、信頼できる二人の間だけか、コンドームとの併用に限るべきなのである」と結んでいる。
 当時を知る筆者としては、このアエラの記事が、日本の政治家、メディアや一般の方々に少なからず影響を及ぼしたことは否定できない。
※1937年スウェーデン生まれ。スウェーデンの日刊紙のアジア特派員として在日経験約15年。



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