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職域保健の現場から

職域保健の現場から<47>
海外渡航関係の感染症対策

第803号

日本航空株式会社 人財本部健康管理部 サトウ 菜保子

 本連載では、職域保健の現場で活躍されている方にさまざまな取り組みをご寄稿いただいています。今回は、海外との窓口ともいえる航空会社における社員への感染症情報の発信・教育をはじめとする感染症対策について、日本航空株式会社人財本部健康管理部のサトウ菜保子さんにご紹介いただきます。 (編集部)

 私は総合商社で海外渡航者の健康支援を経験した後、自身も海外生活を重ね、帰国後に日本航空株式会社に入社しました。客室乗務員担当を8年、現在は運航乗務員を担当し14年目になります。
 2000年以降、SARS、新型インフルエンザ、デング熱、エボラ出血熱、MERS、ジカ熱、そして新型コロナウイルスと途切れることなく世界で感染症の流行が発生し、社会問題となっています。これらの感染症は感染者が航空機を利用し短時間で世界各国に移動することにより、感染を加速させていると言われています。
 日本航空は1954年に国際線を就航以来、世界に路線を広げ、現在は60路線を有しています。昨年より運航数は激減していますが、日本と世界を結ぶ翼であり、日本の空の玄関としての役割を担っているため、海外渡航関係の感染症については、運航乗務員、客室乗務員、海外赴任者、海外出張者だけではなく、国内空港スタッフを含めた全社員が留意しておかなければならないと考えています。今回は社内の感染症対策の一部をご紹介させていただきます。

全社員に向けた感染症情報の発信・教育

 不定期ですが、「知識のワクチン」と名付けた感染症情報を提供しています。今年度は新型コロナウイルス対策本部が新型コロナウイルスに関する「知識のワクチン」を11回発信し、世界保健機関(WHO)や政府の方針など、具体的に社員に説明しました。また健康管理部とリスク管理部危機管理センターは、社内で感染疑い者や感染者が発生した場合の対応についてガイドラインを発行しています。
 また全社員対象に「自分を守る・仲間を守る・お客様を守る」ために必要な「感染症対策」教育を実施しています。

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訓練施設のあるビルに入館する際は、手指消毒と検温を行い、37.5°C以上の場合は再検温を実施

サービスフロントスタッフへの予防接種

 2016年の関西国際空港を中心とする海外由来の麻疹の集団感染事例により、空港でのお客様対応時にも感染症のリスクがあることが明るみになりました。コロナ禍以前、訪日外国人が急増したこと、またオリンピック・パラリンピックを契機とした政府の特別対策もあり、空港スタッフ、客室乗務員、運航乗務員を対象に、健康診断時に麻疹・風疹の抗体検査を実施し、抗体価が不十分な場合は、予防接種を推奨し、会社が費用を負担しています。
 なお、インフルエンザ予防接種については、社内で接種日を設けたり、会社が費用負担をするなど、接種しやすい体制を整えています。(全社員対象)

海外駐在員のための感染症対策

 私が担当している海外赴任前セミナーでは、新型コロナウイルスの感染状況や赴任先特有の感染症について予防対策を説明しています。
 予防接種は、厚生労働省検疫所(FORTH)「海外渡航で検討する予防接種の種類の目安」に掲載されている内容であれば、社員と帯同家族は会社負担で受けることが出来ます。
接種スケージュールを確認し、早めにトラベルクリニックの受診を勧めています。なお、新型コロナウイルス対策として各国の入国条件に沿い、指定医療機関でのPCR検査、陰性証明などの準備なども実施してきましたが、現在は各部門の担当者にお任せしています。
 また健康管理部では、例年、感染症などヘルスリスクの高い就航地に医療巡回を実施しています。社員や家族との面談、医療施設の視察、医務官との情報交換などから感染症を含む健康課題をアセスメントし、支援に取り組んでいます。
 弊社は新型インフルエンザ特別措置法の指定公共機関であり、事業継続の観点からも海外駐在社員の一部は帰国することができません。日々の健康問題や感染症の相談等はZoomを利用し、顔の見える支援を心掛けています。

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食堂にはパーティションを設置し、テーブルの前にはメッセージを掲示

医療アシスタンスサービスの利用

 海外出張者、運航乗務員、客室乗務員は医療アシスタンス会社から海外の感染症情報や予防対策のメールを受信しています。また海外でも受診相談が受けられる体制を整えています。
 現在、新型コロナウイルス対策の各国の入国条件や日本帰国時の防疫体制が日々変化しています。国内外の社員から感染症に関する相談が増え、対応に追われる日もあります。常に情報をアップデートし、正しい情報を持って社員に寄り添った対応を心掛けていきたいと思います。

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