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ニュース・トピックス

コロナ禍における妊娠・不妊治療

第804号

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公益社団法人日本母性衛生学会常務理事/京都大学名誉教授/
名古屋学芸大学看護学部教授 菅沼 信彦

 新型コロナウイルス感染症拡大により、いまだ10都府県において緊急事態宣言が続いております(2月現在)。今回は公益社団法人日本母性衛生学会常務理事菅沼信彦氏に、コロナ禍がもたらしている妊娠・出産や不妊治療への影響を、日本や米国の調査研究、諸団体の声明なども交えながら解説いただきました。 (編集部)

新型コロナウイルス感染症(COVID―19)のまん延

 2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に全世界をパンデミックに陥れ、感染者数が1億人を超え、死者数は246万人に達している(2月21日現在)。これは世界三大感染症である結核、エイズ、マラリアの死亡例をはるかに凌駕(りょうが)しており、この新感染症が人類にとっていかに脅威であるかを示している。わが国においても42万人以上の感染者、7492人の死亡が報告され、地域においては緊急事態宣言が発出され継続している。このようなコロナ禍での妊産への対応を考察する。

妊婦に対する感染ならびに重症化リスク

 昨年6月までに新型コロナウイルスに感染した1万1千人の妊婦を対象とした世界の調査では、同年代の妊娠していない新型コロナウイルス感染者に比べ、①集中治療室(ICU)に入室する割合が1・62倍②人工呼吸器管理となるリスクが1・88倍―と報告されている。同様に米国において、昨年1月22日から10月3日の間に新型コロナウイルスに感染した15~44歳の41万人(妊婦2万人、非妊婦39万人)の女性においては、妊婦は非妊婦に比して①5・4倍入院しやすい②3・0倍集中治療が必要となる③2・9倍人工呼吸器が必要となる④2・4倍体外式膜型人工肺(ECMO)が必要となる⑤1・7倍死亡しやすい―とのデータが示されている。
 これらの結果から米国疾病予防管理センター(CDC)では、「妊娠」は糖尿病などの他の合併症と同様に「重症化リスクの高い状態」としている(20年11月5日、表1)。これに対し、日本の厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの「新型コロナウイルス感染症(COVID―19)診療の手引き・第4版」(20年12月4日)によれば、「妊婦」は「評価中の要注意な基礎疾患など」にとどまっている(表1)。

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 このように妊婦がハイリスクであることは間違いないが、CDCの統計では、昨年1月22日~12月28日に5万1396人の妊婦が新型コロナウイルスに感染したが、その内死者数は60人のみで、死亡率は0・117%であった。一方、同期間の全米の感染者数は約2千万人で、死者数は約35万人、死亡率は1・69%と報告されている。
 すなわち、妊婦の死亡率は一般の16分の1で、同様に重症化率も低値と推測される。これは妊婦の年齢分布が主に20~30歳代に分布することに起因すると考えられる(図1)。

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流早産ならびに胎児・新生児へのリスク

 米国における昨年3月29日より10月14日までに新型コロナウイルス感染妊婦から生まれた新生児3912人の調査では、①早産(妊娠37週未満の出生)率が12・9%で、通常の10・2%より高かった②12週以降の流産が32人あった③198人が妊娠週数と比較して小さかった④9人が死亡した⑤16人の乳児がPCR検査により新型コロナウイルス陽性であった―と報告されている。また世界の妊娠第3期の新型コロナ感染妊婦936人から生まれた新生児の調査では、22人が新型コロナウイルスのPCR検査が陽性であった。ほとんどが出生後に母親からの飛沫または接触感染によって感染した事例と推測されたが、2例は出生前にすでに感染が成立していたと考えられた。
 すなわち、新型コロナウイルス感染による流早産ならびに胎児・新生児へのリスクは、多大なものではないにせよ否定できないと推測される。

妊婦に対する予防ワクチン接種の可否

 妊娠が新型コロナウイルス感染症のハイリスク因子であることに疑問の余地はないが、現在のワクチンの臨床試験において妊婦は対象から除外されていたことから、安全性・有効性が実証されておらず、厚生労働省は「妊婦の接種順位を上位に位置づける積極的な知見はない」としている。しかしながら世界ではすでに数万人の妊婦へのワクチン投与が行われており、そのデータが集積されることにより、予防ワクチンの必要性や安全性が明らかになることが期待される。

不妊治療

 昨年4月1日、日本生殖医学会は、会員に対し「国内でのCOVID―19感染の急速な拡大の危険性がなくなるまで、あるいは妊娠時に使用できるCOVID―19予防薬や治療薬が開発されるまでを目安として、不妊治療の延期を選択肢として患者さんに提示」するように通知した。特に当時、治療薬としてアビガンが注目をされていたが、胎児への催奇形性が指摘され、妊婦への投与は禁忌であったため、積極的な不妊治療に歯止めをかけた訳である。その結果も含め、全国民的に妊娠への手控えが生じ、昨年5〜7月の妊娠届数が前年より11・4%の下落、すなわち少産少子化にますますの拍車が掛かる結果となった。
 しかしながら徐々にこの新型コロナウイルスの実態が明らかになり、昨年5月18日には同学会から「不妊治療の延期を選択肢として受け入れた患者さんに対して、COVID― 19 感染防御と感染拡大防止の対策を可能な限り施行した上で(中略)不妊治療の再開を考慮してください」との通知がなされた。
 世界においても、米国・欧州・国際の三つの生殖医療系学会が「生殖医療は社会の幸福と、多くの国で低下しているといわれる出生率を維持するために不可欠のものである。パンデミックの間、生殖医学の専門医は次のこと(種々の感染対策を行った上での不妊治療)を継続することが望まれる」との声明を昨年5月29日に発表している。すなわちウィズコロナの中で、不妊症診療を継続していく必要性に言及したことになった。

情報入手

 新型コロナウイルスはつい1年ほど前までは全く未知のウイルスであり、その情報は日々刻々集積され、変化している。本稿に記載した内容も2月21日現在のもので、「妊娠とコロナ」の関連も常に最新情報を入手することが理想的ではあるが、現実問題では困難と言わざるを得ない。「厚生労働省」「内閣府」「日本産婦人科医会」「日本産科婦人科学会」「日本生殖医学会」「日本産婦人科感染症学会」「日本感染症学会」などのホームページから妊産婦や不妊症対象の提言を知ることはできるが、密の回避とかマスクや手洗いの励行など一般的な注意も多く、知りたい情報にたどり着くことが難しい場合もある。
 個人的には、例えば「国立成育医療研究センター」の「妊婦さんの新型コロナウイルス感染症に関するFAQ」や、「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」のページも参考になると思われる。
 要は「正しい情報を正しく判断」し、「最善を願いつつ、最悪の状態に備える」ことであり、われわれ産婦人科医はこのコロナ禍においても、妊産婦をはじめとする全女性の健康管理のお手伝いをしたく思っている。

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