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一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<22>ココカラウィメンズクリニック(愛知県名古屋市) 伊藤 加奈子

2017年01月 公開
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伊藤 加奈子
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その22

「性」の知識は、自分の人「生」につながるもの



ココカラウィメンズクリニック(愛知県名古屋市) 伊藤 加奈子



性教育への道のり


 2007年に女性の健康指導、病気の啓発のためのNPO法人ウーマンリビングサポートを設立し、その流れの中で、はり・きゅうやアロマセラピー、カウンセリングといった代替療法を取り入れた統合医療クリニックを08年に設立しました。この当時は、女性に多い病気についての基礎知識を伝える講座などがメインで、性の健康教育に関する活動は行っていませんでした。
 設立時から避妊用ピルの取り扱いを開始しましたが、私自身、ピルについての知識が全くなく、情報は製薬会社の方にお聞きするしかないという不安な状態でした。そのような中、避妊教育に熱心な先輩医師とつながりができた後、ピルや性教育についての重要な知識を身に付け、性教育の現状や若者の性に関する問題を知ることができました。
 その後、緊急避妊ピルが発売され、当院でも処方機会が増え、患者さんの性が絡む問題に多く出会うようになりました。
 未受診のまま妊娠後期を迎えた10代の妊婦、祖父母に虐待を受け、本番ありの風俗で働き妊娠した大学生、避妊をしてほしいとパートナーに言えない多くの女性たち―多くの患者さんと出会い、彼女たちの人生に関わり、性について話をする中で、今の思春期世代を含む若い女性はもちろん、自分と同じような子育てをする30~40代の女性にも性に関する知識が全くと言っていいほどないことに驚かされました。しかし、私自身が受けた性教育を振り返ってみても、月経のことがメインで、あとはコンドームについてほんの少し聞いたかな...というような記憶しかありませんでした。


まずは大人の性教育から


 私自身は、小中高校で行われる性教育の講師として出向く機会はほとんどありません。講演の多くは、その保護者や働く女性を対象としたものになります。ですので、性教育の対象者は、患者さんを含め、大人が大半です。前述したように、大人たちは性教育をほとんど受けていません。
 以前、高校生の親御さんたちの集会で講演する機会がありました。「正しい避妊方法は?」と問い掛けると、コンドームよりピルを選択する方はほぼなし。避妊の主導権も女性ではなく、男性と思っている方がほとんど。グループワークで、避妊についてディスカッションをすると、「恥ずかしい」「話してはいけないこと」「子どもには話せない」「こんなことを話すのは教育上よくない」と、驚くような言葉が耳に入ってきました。「大人が変わらなければ、大人がまず正しい知識を持たなければ、子どもたちの性も守られない!」と危機感を持った瞬間でした。
 以来、講演があるといつも、「『性』の知識は、よりよい人生につながる大切なものです!」と叫び続けています。


アウトリーチの性教育


 今、私はアウトリーチを行うNPOにも理事として関わっています。ここでは大学生ボランティアが主になって、ネオン街に近い駅付近で街頭に立ち、制服姿のまま夜の街を徘徊する子どもたちや、大きな荷物を抱え駅付近に座り込んでいる子どもたちなどに声を掛けています。関係性に乏しい彼らと、居場所づくりを通じて関係を築き、JKビジネスをはじめとした風俗業、援助交際などの売春の世界へ入っていかないよう、また、暴力や事件に巻き込まれないよう、生きていくことに絶望した子どもたちを守るために活動しています。
 このNPOで私は、医療や支援が必要な子どもたちを自身のクリニックや行政につなげていく支援をしています。
 今後は、街角相談や彼らがアウトリーチした子どもたちと個別に話しながら地道に性に関する健康教育をしていきたいと思っています。
 子どもたちの人生が絶望につながらないよう、子どもたちが幸せな人生をつかみ取れるよう、性教育に愛を込め、本気で向き合っていきます。


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伊藤氏の講演会風景



【今月の人】 伊藤 加奈子

愛知医科大学医学部卒。東京女子医科大学病院、愛知医科大学病院勤務を経て、個人開業産婦人科で非常勤勤務を経験。2007年、NPO法人ウーマンリビングサポートを設立。08年、名古屋市東区にココカラウィメンズクリニック開院。

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