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職域保健の現場から

職域保健の現場から<55>
(株)資生堂での産業保健活動

第832号

株式会社資生堂 人財本部人財企画室ウェルネスサポートグループ 岸 美代子

 本連載では、職域保健の現場で活躍されている方に様々な取り組みをご寄稿いただいています。今回は、株式会社資生堂本社の健康管理部門にて労働衛生活動、産業保健活動に携わっている、岸美代子さんに、新型コロナウイルス感染症流行下の職域接種、女性の健康施策、今後の活動などについてご紹介いただきます。(編集部)

会社紹介

 株式会社資生堂は、日本を代表する化粧品メーカーです。1872年に創業し、昨年150周年を迎えました。現在国内で約24,000人(グループ会社連結)、世界で約48,000人の従業員が活躍しています。「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」を企業使命に掲げ、日本初のグローバルビューティーカンパニーを目指し、美を通じて世界中の人々の心と身体に活力と希望を与え、持続可能な社会の実現への貢献に取り組んでいます。

職域接種の実施

 私は、2021年4月にキャリア採用で入社しました。資生堂グループには、本社、販売、研究所、生産技術等々多数の事業部門がありますが、私は主に汐留にある本社部門(従業員約1,300名)を担当しています。資生堂では、「資生堂ハイブリッドワークスタイル」と題した、主にオフィスワーカー向けの施策として、オフィスとリモートのそれぞれの良さを活用する働き方を導入しています。
 入社当時はコロナ禍ということもあり、多くの本社従業員はフルリモートでした。入社式を含む社内の各種会議や研修は、全てオンラインで、健康管理部門の健康相談や復職面談なども、ほとんど全てオンラインを活用していました。入社間もなくして印象的だったことは、新型コロナウイルス感染症のワクチン職域接種の実施です。急遽プロジェクトが立ち上がり、健康管理部門が主体となり、実施に向けた運用がスタートしました。ノウハウがない中、厚生労働省との調整や、接種会場・スケジュール・人員・ワクチン・物品等各種手配、予約システム調整、社内周知、実際の接種運営等々、通常の産業保健業務を行いながらの実施は、想像以上に膨大な工程を要しました。途中、報道にもあったワクチンの異物混入によるリスク対応などもありましたが、全国6会場にて、約2万人の方々に接種を実施しました。関係者一丸となって実施した職域接種は、多くの従業員やご家族、接種会場近隣の他企業の従業員の方々にもご利用いただき、この取り組みは社内でも評価され、22年に社長賞を受賞しました。

女性の健康施策

 弊社グループの従業員構成は、平均年齢が約41歳、8割以上が女性です。過去には、産業医や婦人科専門医によるオンラインセミナーなども実施しましたが、継続的・体系的な取り組みができておらず、単発的な情報提供で終了していました。昨年、実態把握や課題抽出等、現状の見直しと検討を重ね、23年から3か年計画で、1年間を通じて一つのテーマを重点的に取り上げ、従業員のヘルスリテラシー向上等に取り組むことにしました。
 今年は「私らしく、エイジング」キャンペーンと称し、「更年期」にフォーカスしています。国の調査や社内アンケート結果を元に着目した課題は3つです。①「更年期症状・障害」の正しい知識を得る機会がないこと、②不調があっても約8割が我慢し受診等に至っていないこと、③健康管理部門等、社内外相談窓口の認知度が低いことです。また、「更年期」自体にネガティブな印象があることも、受診や相談のしづらさを助長する要因の一つと考えます。そこで、弊社産業医や外部婦人科専門医によるセミナーに加え、女性役員によるトークイベントの開催、また、相談窓口周知の一環として健康管理部門のマスコットキャラクターを作成し、啓発活動をしています。
 今年3月にハイブリッド開催した女性役員による更年期トークイベントは、トップマネージャーが身近な健康に関する話題をオープンに話すことで、役員と従業員、また、参加者同士の交流の機会にもなり大変好評でした。次回7月、10月とイベントを開催予定です。まだ男性従業員の参加が少なく、性別・役職問わずより多くの従業員に参加してもらえる仕掛けや、管理職対象へのアプローチを現在検討中です。

今後の活動に向けて

 弊社では、法令に基づく労働衛生活動のほか、①生活習慣、②禁煙、③がん(治療と就業の両立支援含む)、④女性の健康、⑤メンタルヘルスの、5つの健康施策を中心に、産業保健活動に取り組んでいます。
 従業員の職種は、企画事務職、研究職、美容職、営業職、生産技術職等あり、働く場所もオフィス、店頭、工場など様々です。店頭や工場など多くの従業員は、コロナ禍も、また5類感染症に移行した現在も、感染症対策に細心の注意を払いつつ、お客様応対や製造などフロントラインで活躍しています。職種や部門によって抱える健康課題も違い、国内全ての従業員に隅々まで確実に届く健康支援は非常に難しく、正直いまだ手探りです。新型コロナウイルス感染症を機に、利便性の高いツールの活用が一気に広がり、会議、面談、セミナー等、オンラインでできることも増えました。また、時代に応じてワークエンゲージメント(※注1)や、最近ではウェルビーイング(※注2)等々、様々な概念も入り、社会的にも経営視点からも、以前に比べより健康への関心は高まっているように感じます。ただ、耳あたりの良い言葉だけが一人歩きし従業員は疲弊している、といった乖離ができるだけないように、本当にやるべきことは何かを振り返り考え込むこともしばしばです。昔、まだ在宅勤務という言葉すらなく、出社が当たり前だったころ、先輩保健師から教わった「ノート1冊持って、現場に足を運べ」という言葉の重要性を、今更ながら再認識しています。ついPCばかり睨んで、苦手なITを駆使することに翻弄されることも度々ありますが、今後は直接従業員が働く場所に赴き、個や組織を自らの目で確かめる機会を増やしたいと考えています。
 そして、従業員が健康に関して気になることがあれば、気軽に相談できる身近な専門職になれるよう、保健師として“変わらないために変わり続ける”柔軟性と成長意識を大切に、他の企画職や産業保健スタッフと協働しながら真摯に活動に取り組んでいきたいと思います。
編集部注
※注1 ワークエンゲージメント:仕事や職務に対する従業員の情熱、意欲、関与の程度を表す概念。
※注2 ウェルビーイング:個人が身体的な健康や心理的な幸福感、社会的なつながり、生活の充実感など、総合的な幸福と満足感を感じる状態。



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