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職域保健の現場から

職域保健の現場から<54>
ウィズコロナ時代に展開した治療と仕事の両立支援事業

第829号

京都産業保健総合支援センター 産業保健専門職(保健師)松田 雅子

 本連載では、職域保健の現場で活躍されている方にさまざまな取り組みをご寄稿いただいています。今回は、産業保健専門職として「治療と仕事の両立支援事業」などを行っている、京都産業保健総合支援センターの松田雅子さんに、行政と連携した両立支援事業、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)流行下の訪問活動、医療機関とのネットワークづくりなどについてご紹介いただきます。(編集部)

両立支援事業紹介

 京都産業保健総合支援センター(以下、弊センター)の「治療と仕事の両立支援事業」は、2017年に開始しました。事業内容は、①労働者や事業場からの「相談対応」②両立支援についての「意識啓発セミナー」③事業場を訪問して両立支援制度の導入などの助言をする「個別訪問支援」④事業場を訪問し、労働者の復職支援への助言を行う「個別調整支援」が主とした活動です。また、京都府下のがん診療連携拠点病院等と協定を結び「両立支援出張相談窓口」を設置しています。
 行政などとの連携では、京都労働局が事務局をしている「両立支援推進チーム」のメンバーとして、使用者団体、医師会、社会保険労務士会、労働組合、京都府や市などの各種機関とつながっています。それを機に、京都府健康福祉部健康対策課がん対策係にお声掛けいただき、「がん予防委員派遣事業」として、50人未満の事業場を訪問し、両立支援のセミナーを行っています。
 私はまだ、両立支援事業を担当して4年と経験が浅いため、労働者(患者)、事業場、医療スタッフ、それぞれの立場で「何が原因で困っているのか?」を電話や面談でお聴きし、両立支援を取り巻く現状を把握しようとしている途中です。そして、その話から、少しずつ掴めてきた課題があります。
 両立支援は大企業では当たり前に行われていることかもしれません。しかし、日本で99.7%を占める中小企業では、労働者ががんや脳卒中などの病気になるというイベントの発生確率が低いため、労使双方がどうしてよいか分からず、不十分なコミュニケーションにより退職に至るということが起こっています。メール連絡での表現力、マナーの欠如から感情的な労使対立につながることもありました。また、労働者には「労働契約」という認識がない人が多いと感じています。
 病院の医師をはじめ医療スタッフの方々(ソーシャルワーカー、看護師など)からは、「今までは治療のケアばかりで、患者さんの仕事内容を尋ねたり、一緒に考えたりする、という支援はしていなかった」という声を聞きます。医療の現場では、「就業規則」「休職制度」「復職支援プログラム」などの産業保健の考え方が、あまり知られていないと感じています。

緊急事態宣言による訪問活動自粛

 新型コロナ感染拡大による20年4月の緊急事態宣言以降、弊センターも病院への出張相談はもちろん、事業場への訪問、啓発セミナーも一旦中止とし、それまで行ってきた「現場へ足を運び、顔を合わせて情報交換する」という活動が一切できなくなってしまいました。
 17年に京都大学医学部附属病院、京都府立医科大学附属病院の2病院との協定から始まった出張相談窓口は、11病院まで増やしていました(現在13病院)。そうは言っても、両立支援の相談は年間0件という病院も多かったため、6か月に1回のペースで各病院を訪問し、医療スタッフとの情報交換を行い、両立支援を意識していただく活動を行っていましたが、それもストップしてしまいました。

産業保健と医療機関のネットワークづくり

 ココロナ時代になる前から、病院を訪問したり、医療スタッフの方から両立支援の相談をいただいたりした際に「病院内では、こんな工夫や苦労をされているんだな」と学ぶ機会が多くあり、その情報を、今悩んでいる他の病院にもお伝えしたいと考えていました。そこに新型コロナによる行動制限が始まり、医療との連携が途絶えてしまうことを危惧しました。
 そこで、「両立支援相談窓口連絡会議」と題して、月1回、毎月第3火曜日の15〜16時に、「事前参加予約不要、途中参加・途中退出OK」のZoom会議を開催することにしました。医療スタッフはいつも多忙なため、なるべく参加しやすい時間帯、ルールで開催しました。
 取り上げたテーマは、「教職員の両立支援の難しさ」「脳疾患治療後の車の運転許可の判断」「両立支援がうまくいかなかった事例、退職した事例は?」「就労の相談が少ないです。他の病院ではどんな働きかけをしていますか?」など、各病院から他の病院に聞いてみたいことの問いかけや、産業保健の立場からの情報提供を行っています。2月には、ある病院から「がん相談支援センターにはどんな本を置いていますか?」という投げかけをいただき、交流会に参加した8病院が、それぞれのがん相談支援センターの現状を報告してくれました。弊センターとしては、「病院によって体制や規模がこんなにも違うのだな」と認識した、とても貴重な機会となりました。この交流会は、弊センターと各病院がお互いを知る貴重な場であると感じています。

今後の展望

 新型コロナ感染拡大により行動が制限されたことで、医療と産業保健のネットワークづくりをスタートすることができました。振り返りアンケートでは、参加いただいた病院から「院内の他の部署にも参加してもらいたい」「病院だけでなく、事業場や他の支援機関ともっとつながりたい」などの前向きなご意見を頂いています。私ももっと地域保健や行政と顔の見える関係づくりを広げ、労働者やご家族、事業場への「途切れのない支援」を目指していきたいと考えています。

両立支援窓口連絡会議(交流会)の内容

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