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第807号

東京都不妊・不育ホットライン相談員 赤城 惠子

 東京都不妊・不育ホットラインでは流産に関する相談も少なくありません。忘れられないのは、妊娠5か月で3回目の流産に直面した女性との対話です。すでに女の子がいましたが、何代も続く商家の嫁として長男誕生を期待されていました。
 ところが、1週間前に流産。強い衝撃を受け、泣き崩れていました。個人情報保護のため一部状況を変えましたが、その時のやりとりは次のようなものでした。

相談者:「5か月の子はもう、おなかの中で動いていたんです(号泣)……それなのに心臓、止めてしまって、ごめんなさい、苦しかったでしょって、私、その子に謝るしかなかった」

―うん……ごめんなさいって……。

相談者:「本当なら命を生み出す体なのに、私の体は殺してしまう体…生きている価値がない」

―殺してしまう体……そう思うのはつらい、つらいですね……。

相談者:「流産するたびに夫の両親は火葬にしてくれてたんですね。すごく申し訳なくて『ここに私が来たばっかりに、お墓を傷つけてごめんなさい』って今日、謝ったんです。そうしたら『気の毒だったね』って、言ってはくれました。でも、夫は跡取りなので、重いです」

―そういう重さを、ずっとずっと、抱えてこられたんですね……。

相談者:「すごく重い……重いです。もう、簡単に死ねるものなら死にたい。この状況から逃げ出したい」

―うん……死にたいほど、逃げ出したいほど……。

相談者:「(長い沈黙)でも……娘のために元気なお母さんをやっていかなくちゃって、思うんですよね」

―お嬢さんのために……。

相談者:「はい。それと、死んだ子には、毎日ずっと手を合わせてるんですね」

―ああ、毎日手を……お母さんの思い、きっと伝わってますよね。殺してしまう体どころか、おなかの子をいとおしんで、いとおしんで、生まれてくることを心から祈っていたんですものね。

相談者:「ありがとうございます……今はまだ自分がどう救われるか、何にも見出せないんですけど、でも話を聴いてもらえただけで救われます。それに今回、初めて夫に支えられた思いがするんです」

―初めて支えられた……。

相談者:「今まではまるで支えてくれなくて、離婚も考えてたんですね。でも今回私の気持、よくわかってくれて、離婚しなくてよかったって思える。それだけはつかめた思いなんです」

―ああ、それだけはしっかりとつかめた思い。気持ちが通じ合えたんですね。

相談者:「はい、それだけは。まだずっとつらいと思うけど話してよかったです」

 話を聴きながら、血のにじむような悲しみもわずかに和らぎ、失った体験だけではなく、大切にしたいことや得られたことにも目を向けていかれた心の流れを感じとることができました。相談員になって間もない頃のことでしたが、語ることによって回復していく人間の力を教えられ、励まされたことがよみがえります。

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