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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第54話>ピル認可、国民の声を聞くの矛盾

第822号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 「ピル審査情報公開へ 審議経過、資料も 国民の意見求める 厚生省方針」。1997年6月24日の朝日新聞の記事を見つけ、怒りがこみ上げてきた。筆者は居ても立ってもいられず、中薬審の委員数人にファックスを送った。その概要は下記の通り。

 1987年から始まった、5千人の女性の7万周期にもおよぶ大規模な低用量経口避妊薬(ピル)の治験を終了して、製薬会社各社が認可を申請したのが1990年。以来、7年を経てもなお結論が出せない薬事行政の怠慢さは、ついにここまで来たかとの印象を拭うことはできない。米国に遅れること37年。ようやくピルの認可に向けた審議が中薬審の議題に上ることに期待をかけていた矢先の、「国民の意見を求める」という厚生省の狙いは一体どこにあるのだろう。
 6月16日、わが国の薬事史上、極めて異例ともいえる、中薬審が他の審議会に意見を求めるという公開審議を傍聴した。「ピルの使用がHIV感染症をはじめとした性感染症の拡大に及ぼす影響」についての意見を求められた公衆衛生審は、「ピルの認可がコンドームの使用を減らし、結果としてエイズを含む性感染症の拡大の恐れがある」ことに懸念を表明しながらも、「コンドームの積極的な利用を促すエイズ予防キャンペーンの推進」を課題に挙げて、ピル認可の方向に一応の理解を示していた。(中略)今まで固く閉ざされてきた審議内容の公開を決めたことは手放しで評価したい。しかし、専門家がピルの認可申請後7年もかけて審議し、さらにエイズに係る臨床・研究分野の専門家の議論を経てきたピルについて、改めて国民の声を聞くことでピル認可までの時間稼ぎをしているように思えて仕方ない。結局は、薬害エイズ問題で恐れをなした官僚の責任逃れのアイデアではないだろうか。今受けのいい「国民の声を聞く」という背景に潜む何かわけのわからぬ存在に不安を感じるのは私だけだろうか。(中略)最近、日本産科婦人科学会、日本エイズ学会など学際的6団体の手で、「低用量ピル使用に関するガイドライン」の最終案をまとめた。ピルが認可された後、処方する医師の心得を説いたものである。(中略)
 感情論でピルの早期認可を訴えているわけではない。「避妊に失敗しても中絶すれば済むじゃないか」というような、わが国でとられてきた長い間の悪習を断ち切りたいのだ。そのためにも、中薬審での審議が速やかに終了し、わが国の避妊法の選択肢の中にピルが加わる日が訪れることを期待したい。もういいかげん、ピル鎖国時代の終焉を迎えてもいいのではないだろうか。



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