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OC/LEPが私の医師人生をどう変えたか

OC/LEPが私の医師人生をどう変えたか<28>
課題と人、その広がりをくれたOC/LEP

第825号


やすひウイメンズヘルスクリニック(長崎県長崎市) 安日 泰子

当院の歴史=血栓症との戦い

 当院は不妊治療・妊娠・出産・中絶以外を守備範囲とした地域の婦人科で、2003年に開業しました。1999年自費ピル(OC)認可、2008年保険低用量ピル(LEP)認可、日本でのピルの認可・普及とともに歩んできた当院です。
 一方でそれは、ピルの最大合併症である血栓症との戦いの小史とも言えます。14年、LEPによる血栓症死亡例が日本で初めて報告されました。12年と13年に血栓症例発症が当院でもあり、医薬品副作用被害救済制度(PMDA)※対象としてその証明書を提出しました。他科との連携の重要性、被害者ご本人に対する誠意の重要性、カルテの記載の重要性、この3点が大きな反省となりました。

忘れられない血栓症例

 後者の症例では、私自身から証明書作成を申し出ました。脳底静脈血栓症を起こし、結果的に構語障害を残し、PMDAの認定により、ご本人は障害者手帳を持つことになりました。しかしながら失職され、当該製薬会社のMRの方にそのことを報告すると、「僕、市役所で障害者年金がいくらぐらいか調べてきます! 僕たちの世代でも失職することは他人事ではないんです」と、そのMRの方のシンパシーの持ち方と責任感に、ある種清々しさを感じました。またその患者さんは現在も定期検診に来てくださっている事実に、「誠実に対応する」ことの大切さを教えられ、これらのエピソードは忘れられない私の財産となりました。

ピルカンファレンス

 LEP時代に入ると、院外薬剤師との連携が必要となり、12年にピルカンファレンスを開始しました。当院スタッフ(看護師・受付)、当院のLEP処方に興味を持ってくださる薬剤師さんたちと、休憩時間30分(毎月~隔月)で行うカンファレンスです。コロナ感染流行以降は中断していますが、のべ268件(6年間)の症例を扱いました(図参照)。受付スタッフの対応は格段に合理的になり、薬剤師研修生も臨床感覚を磨いています。


ピルからプレコンセプションケア(PCC)

 コロナ感染波状流行の隙間で「やっと結婚式」「来年ぐらい妊娠希望」「ピルを止めるタイミングは?」そんなピルユーザーのご質問が増えています。プレコンセプションケア(PCC)のチャンスです。葉酸摂取や体重コントロールの必要性など説明できます。PCCは「いつ誰が行うのか」が課題ですが、ピル処方はシームレスかつ自然なPCCの場を提供することができます。

コメディカルなどとの連携・協働

 当院は、19年より助産師院生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻助産師養成コース)、21年より総合診療医(国立行政法人国立病院機構長崎医療センター)研修のフィールドとなっています。
 助産師は妊娠出産に限定された研修内容の傾向があり、当院でのピル処方を中心とする診療見学により視野の広がりを獲得できているようです。総合診療研修医はウィメンズヘルス領域に強い関心があり、ピル処方はその中心的課題です。長崎県は離島を抱えており、産婦人科医療の充足は長年の課題です。婦人科医不足のもと、総合診療医が離島の全世代の女性たちを引き受けてくださるという意志表明は、とても嬉しいことです。

 本稿を書きながら、日本でのOC/LEPの認可と普及について、日本家族計画協会そして北村邦夫会長のフロンティアとしてなされた役割の大きさ、またそのバックアップの安心感に支えられてきたことを、実感いたしました。

※医薬品副作用被害救済制度(PMDA):
 医薬品を適正に使用したにもかかわらず、その副作用により入院治療が必要になる程重篤な健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う公的な制度。 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構 HPより)


今月の人

安日 泰子(やすひ・やすこ)
東京女子医科大学卒業後、2003年長崎市で開業。2013年日本家族計画協会会長賞。2014年厚生労働大臣賞。2016年堀口雅子賞。


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