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ニュース・トピックス

不妊治療保険適用から半年
相談現場の現状と今後の課題

第824号

 2022年4月より不妊治療が保険適用となり、半年が過ぎた。9月20日の東京都議会では、小池都知事が所信表明演説で、先進医療費の一部助成の方針を示すなど、不妊治療支援は拡充が進んでいる。今まで高額治療費を負担していた方にとっては朗報となった一方で、すべての治療が保険適用になったわけではなく、また治療のハードルが下がったことによって生じる悩みなど、医療現場や当事者には少なからず、混乱や不安が生じている。今回は、「東京都不妊・不育ホットライン」での電話相談を担当している相談員にインタビューを行い、当事者から寄せられた質問や意見などから、現状と今後の課題について考えていきたい。

①保険適用後の相談内容の変化

 昨年2021年度は、毎週火曜日の10時から16時まで相談を受け付けており、年間で485件(うち、不妊407件、不育78件)の相談が寄せられた。最も多い相談項目は「検査・治療について」、次いで「家族に関すること」という結果であった。今年度は、治療と仕事の両立サポートと保険適用化に伴って、相談時間を19時まで延長、新たに毎月第3土曜日も開設することで対応時間が拡大され、4月から9月末までで505件(うち、不妊442件、不育63件)の相談が寄せられている。相談内容の内訳については、下記の通りとなった。







 具体的な相談内容を見てみると、
●不妊治療が保険適用となったが、自分の場合は適用となるのか?
●保険適用と助成金のどちらがお金がかからないか?

など、一般論的な質問よりも、現在行っている治療やこれから行おうとする治療が保険適用になるか、「私のこの場合はどうなるの?」といった個別のケースの質問・相談が増えてきている。
 また、
●妊活したいけど何からどうはじめて良いかわからない
といった相談も増えており、不妊治療のハードルが下がったことで、今まで治療を考えていなかった方、経済的な理由であきらめていた方に光が差した側面がある。しかし他方で、保険適用外の治療を受けていた方によっては、保険適用になったことで助成金が廃止となり、結果自己負担が増えてしまったというケースもあるなど、全てにおいて負担軽減につながっているとは言えない現状も存在する。
 さらに、
●保険適用の範囲について医師や病院に聞いても答えてくれない・よく分からないと言われた
●保険適用になると聞いて治療を受けたが、後に健康保険組合から保険適用にならないと言われトラブルになった

といった声もあり、現場も混乱している様子が垣間見えた。

②相談現場から見る、保険適用のメリット・デメリット

 まずメリットとしては、
●金銭的にも心理的にも、不妊治療への抵抗感が低くなっている
●費用面で治療出来なかった方ができるようになった
●不妊治療について、受ける立場の人から“標準治療的なもの”が見えやすくなった
●子どもについて考えるきっかけになっている

などが挙げられ、費用面でのハードルが下がったことが最も多かった。
 一方デメリットとしては、
●保険適用により今までと同等の治療ができない場合がある
●以前使えていた薬が保険適用外となり、全額自由診療になるので困っている人たちがいる
●選択肢が増えて、治療を受ける当事者を迷わせている面がある
●何年も治療してきてうまくいかず、もう辞めたいと本人が思っているのに、夫など周囲が保険でできるうちは続けてほしいと言われ、やめられなくなったとおっしゃる方がいた

 相談内容の変化にもあるように、保険適用・助成金・自由診療の狭間で混乱が生じており、その中で自己負担が増加している方がいる現状は、今後検討・見直しの余地があるといえる。
 また、治療の継続に悩みを抱えている方にとっては、保険適用が必ずしも良い方向に働いているとは限らず、不妊治療が金銭的な負担だけでなく心身にも負担があることを、本人はもちろん社会全体に理解・浸透させていくことの重要性が感じられた。

③相談現場から国・行政・医療機関に望むこと

 聞き取りを行った「東京都不妊・不育ホットライン」は、かつて不妊や不育症で悩んだ経験のある女性がピアカウンセラーとして対応しており、相談者の気持ちに寄り添い、支えとなるべく相談に応じたり、情報提供を行っている。ときに個別のケースに対して医療的なアドバイスを求められることがあるが、相談者からの情報のみをもとに的確なアドバイスを行うことは医療従事者であっても難しい。

●どのような方法が保険適用となり、費用負担が少ないか、わかりやすく明確にして欲しい
●不妊治療に詳しい医療者の相談場所、医療現場とトラブルになった時に医療者側からのアドバイスを聞ける場所があると良い

といったニーズは、相談員だけでなく一般の方からも寄せられており、今後増加する可能性のあるトラブルに対する受け皿の必要性が示された。
 更に、不妊治療に臨む前段階の課題として、
●「妊娠・出産のしくみ」について学ぶ機会がないまま大人になった方が多いと思う。すでに治療を受けていても理解できていない方は少なくない
●女性も男性も「年齢が妊娠に大きく影響する」ということをしっかり知っておいて欲しい。不妊治療で出産した有名人のニュースなどを見て、「今の進んでいる医学であれば大丈夫」と根拠のない安心感を持ってしまうのは心配
●知識が乏しいことで、病院に言われるがまま治療を進め、精神的・身体的な負担を負ってしまう方が増えてくるのではないかと危惧している
●しっかり知識をもって考えた上で治療を受けても、様々な負担が生じるもの。流れに乗って治療を受けるのではなく、その都度自分たちはどうするかを考える、考えられるだけの知識を持つことが必要だと思う
●妊娠・出産についての知識を、若者に知らせる機会をたくさん持ってほしい。その瞬間でなくても、数年後に「そういえば聞いたことがある」と思い出すことができる機会をたくさん作ってほしいと思う

といった、妊娠・出産の知識の普及・啓発のさらなる充実を望む声も多く寄せられた。

 近年は、「プレコンセプションケア」(いずれ子どもを持ちたいと考えている男女のみならず、全ての人が現在の自身の健康に関心を持ってもらうこと)という考え方がリプロダクティブヘルスの領域では主流となっている。
 国や行政には、不妊治療の保険適用開始後に見えてきた様々な課題に目を向けるのはもちろんのこと、誰もが「自分が自分らしく生きるための選択肢が与えられ、自己決定できる社会の実現」に向けた更に積極的な取り組みに期待したい。



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