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ニュース・トピックス

寄稿「新型コロナウイルス感染症流行下における人工妊娠中絶、ならびに性暴力被害者支援ワンストップセンターの実態調査」を終えて

第811号

安達知子
社会福祉法人恩賜財団母子愛育会総合母子保健センター愛育病院 院長 安達 知子

はじめに

 令和2年度 厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「新型コロナウイルス感染症流行下の自粛の影響―予期せぬ妊娠等に関する実態調査と女性の健康に対する適切な支援提供体制構築のための研究」は6つの研究から構成されているが、これを研究代表者として統合し、かつ分担研究者として担当した研究「COVID-19の流行下における人工妊娠中絶の実態調査」および「性暴力被害者支援ワンストップセンターの実態調査」を通して見えてきたものを紹介する。

研究開始時の社会情勢と予想

 2020年の上半期は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴い、これまでに経験したことのない状況―所得減少、他者との接触の制限、自宅滞在時間の増加等―が発生した。特に20年3~5月(感染拡大の第1波)の自粛期間は、国際的な女性への暴力の増加や自粛下の孤独や貧困、失業などの進行等が報道された。
 以上のことから、コロナ禍において、性暴力被害(DVを含む)の増加、予期せぬ妊娠/人工妊娠中絶の増加(妊娠中期の人工妊娠中絶件数の増加)等が懸念され、女性のリプロダクティブ・ヘルスの悪化や子どもたちの健やかな成長の阻害が予想された。

COVID-19の流行下における人工妊娠中絶の実態調査

[方法] 各都道府県産婦人科医会長より母体保護法指定施設3~8施設を推薦いただき、192施設に研究協力依頼を行い、同意を得た施設に調査を行った。
1)19年1~12月および20年1~9月における人工妊娠中絶件数と人工妊娠中絶選択に対するCOVID-19流行および性暴力やDVなどの影響についての意識調査を182施設に行った。
2)20年10月15日~11月14日までの1か月間における人工妊娠中絶手術患者へ、年齢、週数、妊娠・分娩回数、婚姻状況、避妊法・緊急避妊使用の有無、人工妊娠中絶を選択した背景等をCOVID-19流行の影響も含めて、178施設に対し、医療者からの聞き取りによる調査を行った。
 対象施設の19年の人工妊娠中絶件数(31,309件)は、19年度の国の統計からみた全国の人工妊娠中絶件数の約20%を占め、その年齢分布も国の統計の分布と同様であったことから、国の動向を示す信頼のおける調査と考えられた。
[結果]
1)2020年(1~9月)の人工妊娠中絶件数は、どの月においても前年と比較して有意に減少した(図1)。
 なお、厚生労働省衛生行政報告例(母体保護関係)によれば、人工妊娠中絶件数は毎年減少しており、その毎年の平均減少率(2013~2019年)は2.67%と算出されるが、今回の平均減少率12.8%は、この平均減少率に比較して大きく、特に5~7月は著明であった。


図1

 また、厚生労働省母子保健課の全国調査で20年5~7月に妊娠の届け出件数(母子健康手帳取得者数)が大幅に減少したことから、出生数は減少しつつも予期せぬ妊娠等による人工妊娠中絶件数の増加が懸念されていたが、本研究による調査結果は予想とは異なるものであった。これは一般男女がパートナーとの性交や妊活を控え、さらに不妊治療も抑制したことに影響を受けたものと推測された(本研究班の北村邦夫分担研究:COVID-19の流行下における、妊娠、避妊に対する意識と行動の実態調査、ならびに安達知子-堤治研究協力者担当分担研究:COVID-19の流行下における妊活中の患者および不妊治療施設における生殖医療に対する意識と実態の調査より)。
2)妊娠12週以後のいわゆる中期人工妊娠中絶件数については、図2に、1か月間の個別症例からの調査で示すが、むしろ減少した。通勤、通学の制約が緩くなったことにより、受診週数はむしろ早くなったことも一因と推測された。一方、19歳以下の若年女性の人工妊娠中絶は、例年同様に、他の年齢層に比較して、妊娠週数が進んでから人工妊娠中絶する割合が高かった。


図2

 なお、人工妊娠中絶を選択した女性たちの避妊実施率は、人工妊娠中絶に至った妊娠時に避妊ありは35.4%で、19年国連報告における日本人の避妊実施率39.8%と同等の避妊実施率であり、避妊法としてほとんどがコンドームと腟外射精の不確実な避妊法を使用しており、既報告の日本人全体の使用避妊法と同様であった。緊急避妊については、全体の2.7%が使用していた。
 人工妊娠中絶選択に対するコロナ禍の影響はなしが77.6%で、ありは7.7%と少なかった。しかし、ありと回答したものにおけるその理由は失職や収入減少などの経済的理由が多く、DV等暴力によるものはコロナの影響に結び付いていなかった。

COVID-19の流行下における性暴力被害者支援ワンストップセンターの実態調査

 全国のワンストップセンターへのアンケート調査では、電話相談はやや増加していたが、地域のCOVID-19発生状況やこれに対応する自治体の感染対策の方針などにより、被害相談件数の増減は影響を受けたと考えられた。また、大阪のワンストップセンターのSACHICOに対する聞き取り調査では、前年と比較して、新規来所件数や強制性交等被害者数に差はなく、外出先での強制性交等被害はむしろ減少しているものの、SNSで知り合った相手による相手宅などでの被害やDVや虐待による性被害増加の可能性が示された。
 アンケート調査で、ワンストップセンターはメールやLINE等による相談を受け付けていないところが半数以上あることやDVを扱っていないところがあることなども明らかとなった。一方で、身近に加害者がいることを危惧したコメントも複数見られたことより、特にDV等の被害者はワンストップセンターへはアクセスしにくいこと、これらの被害者は逆に妊娠SOSなどへはアクセスすること、学校閉鎖などの影響で若者には学校や養護教諭への直接の相談がしにくいことなどが明らかとなった。
 また、上記研究から、予期せぬ妊娠に関連したそれぞれの適切な相談窓口を、機能的にわかりやすく知らせるための冊子を作成した。医療機関や薬局、学校等で使用でき、予期せぬ妊娠等への不安、避妊相談、養育不安や人工妊娠中絶の相談、性暴力、虐待への適切な相談窓口に繋げることができるが、各相談窓口間の連携のためにも、ぜひ活用していただきたい。


冊子「予期せぬ妊娠相談窓口のご案内」
冊子「予期せぬ妊娠相談窓口のご案内」

まとめ

 新型コロナウイルス感染症および自粛の影響による人工妊娠中絶件数等への影響は予想とは異なり大幅に減少し、いわゆる中期中絶件数の増加は認めず、強制性交等被害件数も増加は認められなかった。一方で、このような状況下では特に、予期せぬ妊娠等を防ぐことはリプロダクティブ・ヘルスの観点から重要であるが、適切な性教育や情報提供がなされておらず、リアルタイムに相談できる環境にはなかったことも明らかとなった。
 また、このような感染症パンデミックや大災害時には、弱い立場の女性や子どもたちに暴力などは向かいやすいことが危惧された。
 以上より、人間関係性を大切にし、コミュニケーション能力を養い、自身を守り、自尊心を育成することも網羅する「包括的性教育」をわが国でも整備し、実践していくことは重要である。



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