海外情報クリップ 米国の妊娠中絶―自己管理型妊娠中絶の拡大
米国民の間では、人工妊娠中絶に対する考え方の分断が続いており、最高裁が中絶の権利を認めた判決(ロー対ウェイド事件1973年)が2022年に再び覆されました。その影響から、これまでより規制や罰則を強化し始めた州に住む女性にとっては大きな不安を与えています。このような環境の変化でますます医療支援から遠のく当事者の女性らはどう対処しようとしているのか。まずは当事者の女性やその知人からの声を聴く目的で、カリフォルニア大学産婦人科のグループは、中絶に最も厳しい8つの州から国勢調査に沿って選んだ約500人の内54人の男女に電話インタビューを行いました。それによると、以前から知られているさまざまな方法を試みた、あるいは試みようとした実態が見えてきました。例えば、ある種の植物エキス(ハーブ)、アルコールの大量摂取、器具を使う、階段から落ちる、腹を蹴るなど、危険極まりない方法(コートハンガー中絶と呼ばれている)でした。
一方で、すでに承認されてから20年が経つ人工妊娠中絶薬は、貧困層の間でも少しずつ認知されるようになりましたが、問題は身体面だけでなく心理面の影響が大きいことが挙げられました。
談話の一例は、次のようでした。「中絶すると決めたことは私にとって大きなトラウマでした。しかし周囲の人からの猛反対と叱責(しっせき)がさらに私を苦しめました」「ある保健施設へ受診しました。が、その時の耐え難い屈辱感を覚え、普通じゃない患者と見られました」などと、中絶を選択することは精神面の甚大な苦痛も伴います。その点、自身で中絶薬を入手して自宅で使用する限り、安全性への不安はあってもプライバシーは守られます。
患者に寄り添った中絶医療へのアクセスがますます難しくなった米国では、中絶薬をオンラインで入手することは精神的な不安を少しでも軽減できる選択肢となっています。
参考:Schroender R et al.Perspectives on Sexual and Reproductive Health.2025
(翻訳・編集=オブジン)