ピル承認秘話―わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)―第91話 ピルの発売日に感じたこと
米国に遅れること40年。遂に我が国でもピルが発売された。筆者のクリニックでは、1999年9月2日10時から12時という時間帯に、ピル使用者と発売を祝うことになった。当日は中用量ピルを低用量ピルに交換する儀式となった。集まった服用者は総勢11人、パートナーを含めて15人。
当日、メディアからの質問の中心は、「ピルの発売日を迎えての感想は?」「今後のピルの動向は?」等々。調子に乗った僕の口から出てきた言葉が、「医療改革が起こるかもしれない」だった。要処方箋薬の扱いを受けたピル。医療機関を受診しても保険適応にならない薬剤。薬価が決められていない薬剤。バイアグラとピルだけではないだろうか。中には、保険制度によらない自由診療を既に行っている医師はいるが、普通の医者は、保険制度を主に行ってきたわけだから戸惑いは隠せない。そのために、発売日当日を迎えるにあたり、まずしなければならなかったことは価格を設定することだった。以下、参考までに、僕のクリニックでの価格表を示そう。
保健指導料は初回のみ5,000円、以降は相談時間や相談内容などを加味して2,500円、3,500円の2段階。薬剤料は仕入価+管理料10%、9月1日時点での仕入価は1,380円から1,460円程度だったので、暫定的に1,500円とした。処方料500円。検査料は検査機関に支払う金額+判断料。服用者の希望と同意の中で行うのは当然だ。
薬価差益だの検査料差益に収入を上げる時代は既に終わり、医者が目指す道は、保健指導料というソフトで稼ぐ時代だという観点から決めた価格だった。領収書には、明細を記載し理解を得た。服用者からも評価は概ね良好。中には、「以前のピルよりもどうして安いの」の指摘もあったが、中用量ピルを避妊のために処方していたのは、僕たち医師の判断と責任によるものであって、これによる事件が起こっても、製薬企業も国も責任をとる立場にはなかったこと、仕入価300円程度の中用量ピルを3,000円と評価してきたのは、僕たち医者が負うリスクに対する保険だったと説明した。 「先生が出してくれたピルのおかげで、彼との関係がとてもよくなりました。計画外の妊娠に対する不安も消え心から感謝しています。先生のところでみていただいているので、安心してピルを使うことができます」と言われようものなら、保健指導料は1万でも2万でもいいって考えただけでわくわくしてくる。どちらがいいかは別にして、駅前のステーキ屋ではなく、有名ホテルでのステーキ屋になれるかもしれない。もちろん、金銭負担が叶わない服用者に対する配慮を忘れることなく。