はたがや日和

はたがや日和~JFPA相談室へようこそ~【860号】

東京都不妊・不育ホットライン 横尾 澄香

 「東京都不妊・不育ホットライン」では、子どもを望むカップルやご夫婦からの相談が寄せられています。特に、不妊治療と仕事の両立は、現代社会において切実なテーマになっており、多くの方がその難しさに直面します。実際に寄せられた相談事例を交えながら、この問題について考えてみたいと思います。

 不妊治療は、体力的・精神的・経済的な負担に加え「時間との闘い」という側面も持っています。排卵日や採卵・移植の日程は、仕事のスケジュールとは無関係に決まることが多く、急な有給取得を余儀なくされることも稀ではありませんし、悩みも多岐にわたることがあります。

 「会社の不妊治療休職制度を使って不妊治療をしています。もうすぐ休職期間が終わってしまいます。今後、休職期間が終わったらどうしたら良いのでしょうか」「現在、責任のある立場で仕事をしていて仕事も面白くなってきました。年齢のことを考えると不妊治療を始めた方が良いのは分かっています。でも、治療のために仕事を休むと現在の職場での立場から降ろされてしまうかもしれません。そのことを考えると治療をする決意ができません」「治療をしていますが、なかなか妊娠をしません。仕事を辞めて治療に専念した方がよいのでしょうか。上司は治療経験があり、とても協力的ですが、職場には理解してもらえない人も少なくありません。夫は忙しく、仕事を辞めると会話をする人がいなくなるのではと不安になります」。

 以前に比べ、職場の不妊治療への理解を示したり、休職制度を設けたりする会社が増えたように感じます。それでも治療期間が長くなればなるほど仕事と治療との両立の折り合いが難しくなったり、妊娠しない理由を仕事に求めてしまったりというケースは起こるようです。

 職場に開示する際は、治療の全てを話す必要はありません。信頼できる上司や人事担当者など、に限定的に伝え、職場の制度を確認してもらい利用できるものがないか調べてみることも助けになるかもしれません。また、仕事も治療も100%を目指し、自分自身を追い詰めてしまうことがないようにすることも、心身を守る上で大切です。仕事も治療も頑張っている自分を認め、一緒に考えてくれる支援者を持って、悩みを抱え込まないでほしいと願っています。

 不妊治療と仕事の両立は、決して一人で乗り越えられる問題ではありません。国や自治体の支援制度、職場の理解、そして何よりも相談窓口の存在をぜひ知っていただきたいと思っています。

不妊・不育ホットラインでは、職場への伝え方を一緒に考えるだけではなく、治療への不安、夫婦関係の悩みなど、あらゆる不育や不妊に関係する話を聞かせていただいています。ご自身のつらさを一人で抱え込むのではなく、誰かと共有することで楽になることを知っていただきたいと思っています。

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