機関紙

【第677号】 平成22年8月1日発行(2010年)

2010年08月 公開
8月号の目次
編集帖

山田邦子さんがゲストに・・。家族計画自由集会(埼玉県)プログラム決定

・教育現場での気づき ~被虐待児の発見とチーム支援~

思春期からの子宮頸がん予防
・スウェーデン性教育協会訪問記
避妊教育ネットワークリレートーク<5>社団法人いはらき思春期保健協会 和田 由香

 

 

 編集帖

 

  ▼「お父さんが母を殺したんだ」。18回目の妊娠後50歳という若さでこの世を去ったのは、「ピルの母」と呼ばれ、国際家族計画連盟の設立に尽力した、あのマーガレット・サンガーの母親のことだ。カトリック教徒の両親のもとに生まれ、母の死に直面した時、彼女は自分の父親に向かってこう叫んだという。以来、一貫してバースコントロール運動に邁進した彼女の話が、英文TIME誌5月号に掲載されていた。
▼経口避妊薬(ピル)が米国で承認されたのが1960年5月9日。以来50年の記念特集なのだろう。表紙の「THE?PILL」の文字と写真に目を奪われた。ダイヤル型のケースにピルが50個整然と並べられ、1960から2010までの番号が付されている。そしてこう書かれていた。「So?small. So powerful. And?so misunderstood.」
▼発売から僅か10年のわが国であればいざ知らず、50年の歴史を持つ米国でもピルは誤解に満ちた薬剤だった。しかし、ピルに向けられていた偏見や誤解が今、解かれようとしている。TIME誌にもあるが、ピルを服用したことのある女性は長生きだというのだ。
▼英国一般医協会が1968年5月から、2万3千人のピル服用者と同数のピル非服用者について実施した前向き調査の結果が注目を集めている。これによれば、年齢、出産回数、喫煙の有無、社会階層で補正した結果、死亡相対リスクはピル服用経験を有する女性は非服用者に比べて約12%低いという。これに寄与しているのが、大腸、直腸、子宮体部、卵巣などの各種がんや虚血性心疾患などである。世界では1億人近くの女性がピルを服用しているが、私たちの声が小さいのか、その恩恵に浴する機会を逸している日本人女性が大勢いることに責任を感じずにはおれない。(KK)

 

 

 山田邦子さんがゲストに・・。平成22年度家族計画自由集会プログラム決定 「子宮頸がん予防とHPVワクチン」テーマに

 

   来る11月11日、本会がさいたま市で主催する「平成22年度家族計画自由集会」のプログラムが決まった。今回のテーマは「子宮頸がん予防とHPVワクチン」。わが国でもヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種が始まり、指導者にとって必須の知識となった子宮頸がんの最新情報を、タレントの山田邦子さんとともに楽しく学ぶ。
 
◆最新の情報を提供
 第一部では、「子宮頸がんとその予防」をテーマに、北村邦夫本会家族計画研究センター所長が子宮頸がんの現状、検査方法、治療法、HPVワクチンについて講演する。
 わが国では、1年間に約1万5千人が子宮頸がんを発症し、約3千5百人が亡くなっている。近年は特に、20代、30代で増加しており、リプロダクティブ・ヘルスの観点からも、その対策が急務となっている。
 わが国でも昨年12月、子宮頸がんを予防するHPVワクチンが承認され、本会クリニックでも接種が開始された。しかし、7月7日に厚生労働省が発表した調査結果では、接種費用の公費助成のある自治体は、まだ114市町村(全体の6・5%)に留まり、その普及には課題が残されている。
 わが国で現在使用されているHPVワクチンは、HPV16型と18型を予防する2価ワクチンだが、さらに尖圭コンジローマも予防できる4価ワクチンの承認も待たれている。
 本講演では、子宮頸がんの行政検診を推進する保健師、子宮頸がん検診やワクチン接種を担う医療従事者、性教育を行う助産師、養護教諭をはじめ、広く一般に向けて、最新情報を提供する。
 
   
   
◆ゲストに山田邦子さん
 第二部では、タレントの山田邦子さんを招き、「ワクチンでがんが予防できるなんてすごい!」をテーマに、山田さんと北村所長がトークを繰り広げる。
 山田さんは、自身の乳がんの闘病体験から、がんに関する啓発活動を精力的に行っている。平成20年からは、厚労省の「がんに関する普及啓発懇談会」委員、チャリティ組織の「スター混声合唱団」の団長を務め、がんに関する正しい知識の普及に努めている。

 

◆「スター」も登場
 第三部では、山田さんが団長を務める「スター混声合唱団」が登場し、歌声を披露する。多数の著名人がシークレットゲストとして登場する予定。

***
 家族計画自由集会は、平成22年度「健やか親子21全国大会」(母子保健家族計画全国大会)の併設集会として開催されます。参加費は無料ですが、事前のお申し込みが必要です。お誘いあわせのうえ、奮ってご参加ください。

《開催要項》
【日 時】 11月11日木曜日 18時開場、18時30分~20時30分
【会 場】 埼玉会館大ホール(さいたま市浦和区高砂3―1―4)
【参加費】 無 料
【参加方法】 ファクス、電話のいずれかでお申し込みください。ファクスの場合は次の内容を明記し、事務局へお送りください。①代表者名②参加人数③「11/11自由集会希望」
【事務局】 日本家族計画協会 家族計画自由集会係 電話03(3269)4785 FAX03(3267)2658

 
 

 

 ワクチンと検診で子宮頸がん予防

 

 
基調講演 思春期からの子宮頸がん (第8回思春期保健相談士学術研究大会より)

自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 教授 今野  良

   
   

 「思春期からの子宮頸がん予防」をメインテーマとした第8回思春期保健相談士学術研究大会(大会長=荒堀憲二・市立伊東市民病院院長)が6月5日、東京・新宿区の日本青年館ホテルで開催された(主催=本会、後援=厚生労働省・文部科学省他。前号で既報)。今号では、今野良・自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授による基調講演の概要を紹介する。

50年前からある子宮頸がん検診

 毎年、年間1万5千人の人が子宮頸がんと診断され、3千5百人が亡くなっています。1日に10人が子宮頸がんで亡くなっているということです。
 子宮頸がんは自覚症状が出ないのが普通ですが、症状がなくても予防はできます。なぜかというと、がん検診を受けて見つかるのは、ほとんどが「前がん病変」です。もちろん、がんになった人も見つかりますが、がんになる前で見つけることができる。これが子宮頸がん検診の素晴らしい実力です。
 前がん病変、また皮1枚だけがんになった上皮内がんという状態であれば、100%治ります。妊娠・出産も、大抵の場合は問題なく済みます。
 日本における子宮頸がん検診は、1950年代後半から行われています。1982年には老人保健法という法律ができ、30歳以上を対象に検診が始まりました。50年前、あるいは30年前からがん検診がある国はほとんどありません。その点では、日本は先進国と言えます。
 がん検診がなかった時代、がんの死亡は10万人当たり12人でした。しかし、がん検診の受診率が30%になると、死亡率は12から4に減った。つまり7割ぐらいの死亡を減らすことができました。これも子宮頸がん検診の実力です。
 一般に、開発途上国や検診がきちんと行われていない国では、子宮頸がんは高齢者のがんです。しかし英国のような先進国では、30歳、40歳以降のがんの発生は横ばいになっています。これは検診によって前がん病変や上皮内がんを発見し、治療してがんになるのを抑えることができるからです。
 日本はどうかというと、78年の当時は開発途上国型でした。しかし88年、98年といくに従って、中高齢者のがんはなくなってきて、今は35歳がピークです。先進国型でもない、開発途上国型でもない、非常に特殊な型になっています。

若い人に子宮頸がんが増加

 なぜ、若い人に子宮頸がんが増えているのでしょうか。性行動が活発になったからとか、早いうちから性交をしたからというのは間違いです。
 30年前子宮頸がん検診を受けていた人は30歳、40歳がほとんどでした。しかし、現在子宮頸がん検診を受けている人は60歳が中心です。35歳にピークがあるがんの検診を60歳の方が一生懸命受けても、個人にとってはとてもいいことですが、社会全体にとってはあまり有効ではありません。
 なぜ、60歳の人ががん検診を最も受けているのでしょうか。これは30年前の30歳の人ということです。この方たちは検診を受けるという健康の動機付け、習慣を持っていたためにがんにならずに済んでいる。だから日本全体で中高齢者のがんは減っているわけです。
 35歳あたりでがんが増えている理由は、若い人たちががん検診を受けていないからです。ピークがどこで起きるかということと、若いうちの性行動は、あまり関係がありません。今の子宮頸がん検診の対象は20歳以上ですが、20~ 29歳でがん検診を受けている人は3・2%しかいません。
 一番の問題は、若い女性たちにあるのではなく、国や自治体が子宮頸がん検診にお金を出していないことです。
 20歳以上、成人女性のすべてが子宮頸がん検診の対象になるので、本来、対象者全員分の予算を立てるべきなのです。しかし実際には、対象者の25%以上の予算を立てている自治体は8・9%しかなく、20%以下の予算しか立てていない自治体が9割です。
 英国も87年までは、がん検診を「なるべく受けてください」という感じでやっていましたが、それでも40%の受診率でした。その後、きちんとした受診体制を取って、受けに来ない人には保健師が受診勧奨を一生懸命にやったので、受診率は9割になりました。すると、進行がんがどんどん減りました。
 米国では今、乳がんは減っており、検診の受診率は8割です。日本では、あんなにピンクリボンキャンペーンをやっているのに、乳がん検診受診率は3年前と変わらず20%、子宮頸がん検診受診率も20%です。

子宮頸がんの原因はHPV

 子宮頸がんは、ほぼ100%が持続的なハイリスクのヒトパピローマウイルス(HPV)感染で成り立ちます。つまりHPV感染がなければ、がんになるリスクは無視してよい。これが世界の常識です。
 HPVには100種類ぐらいの型がありますが、生殖器に感染するのはその内30~40です。コンジローマをつくるのもHPVですが、ローリスクのHPVでがんになることはありません。ハイリスクHPV、特に16型、18型というのが最も有名で、世界全体の子宮頸がんの7割を占めています。
 がんと関連因子のリスクをみると、たばこは肺がんになるリスクを10倍高めます。C型肝炎やB型肝炎では50倍です。ですが、HPVに感染すると、子宮頸がんのリスクは500倍にもなります。疾患の原因がこれほど分かっているがんは、ほかにないと思います。HPVは、陰茎がんの40%、外陰がんの40%、肛門がんの90%、口のがんの5%、中咽頭のがんの30%にも関係しています。
 性交を開始した女性たちは、あっという間にHPVに感染します。15~ 20歳では、2人に1人がHPVに感染しています。しかし、2人に1人に対して「あなた方は病気です」と言う必要は全くありません。HPV自体は全然怖くないし、ありふれたものなのです。
HPV感染は、何事もなく消えてしまうのが普通です。ウイルスに感染しても、2年で90%は消えます。30歳ぐらいになると、一般女性は約10%の感染率になります。しかし、25歳ぐらいから少しずつ前がん状態が出て、それががんになっているのです。
 大人が1万人いれば、そのうち1000人の人がHPVに感染しており、100人が軽度の前がん病変、10人が高度の前がん病変をもっています。そして20~40年かかって、がんになる人がいます。
 性交を開始していない女性は、子宮頸がん検診を受ける必要はありません。症状がない人が受けるのが検診なので、今、不正出血やおりものがあるという人は、検診ではなくて、医療機関を受診すべきです。

HPVががん化する仕組み

 HPVに感染すると、なぜがんになるのでしょうか。HPVの中にはがん遺伝子が含まれています。一方、人の体の中にはがん抑制遺伝子という、がんにならないための遺伝子が含まれています。がん抑制遺伝子は、がんのブレーキです。HPVの一部がそのがんのブレーキを壊してしまう働きを持っています。
 遺伝子のちょっとした間違いは、それを見つけて直すことができますが、その抑制遺伝子の働きを、HPVは働かせないようにしてしまいます。こういう非常に明快なメカニズムが分かっているので、子宮頸がんは予防できるし、ワクチンも開発できたのです。
 もし、性交の経験のある女性あるいは男性で、パートナーがこれまでに性的接触の経験を持っていれば、HPV感染のリスクがあります。HPVは、性交だけでなく、手や粘膜を介して感染することもあります。
 しかしHPVに感染しても、抗体ができるのは半分以下です。HPVは、抗体はごくわずかしかできず、ウイルスは血中に入っていかないという、非常におとなしいウイルスです。ただし、持続感染を起こした場合には、子宮頸がんに移行するケースがあります。

「性感染症」ではなく「性感染」

 HPV感染を、「性感染症(STD)」や「性病」と呼ぶのはやめてください。子宮頸がんは「性病」ではなく、ありふれたHPV感染の、非常にまれな合併症です。
 HPV感染は、疾患ではありません。高度異形成異常は治療の対象になる疾患ですが、HPV感染はほとんどの人々にとって一過性感染であり、ノーマルなもの、風邪のようなものです。
 STDという言葉は、従来の「性病」、「花柳病」と完全に縁が切れていない、若干不適切なニュアンスを持っています。特殊な人々や特殊な環境によってのみ感染するという、社会的な誤解を与えてしまいます。
 また、感染イコール疾患ではありません。HPVに感染していても、何の疾患も発生していない人たちが非常に多いです。世界中で使用されている「性感染(STI)」という表現が、ただ単に性に関連する行動で伝播する感染という意味で、単純明快で間違いのない表現です。ですので、STIという表現を主に用いて、その中のSTD、というとらえ方をするのが適切だと思います。
 社会的、経済的条件、また幾つかの性行動は、個人のSTIへの罹患を増加させています。STIにハイリスクな集団は、地域社会、住居環境、文化、習慣によってさまざまです。STIのケアや予防には、そのような集団への積極的な介入が必要ですが、一方で辱め、非難および差別を抑えることが非常に重要です。
 STIの教育をしていくつもりが、反面でこういう辱めや非難になっているところがあります。子宮頸がんの患者さんも、言われなき非難を受けてつらい思いをした方がたくさんいます。
 私の子宮頸がんの患者さんが言うには、「私は子宮頸がん以外のすべてのがん検診を受けたが、子宮頸がんというのは、セクシャルパートナーの多い人、性活動の多い人、貧困である人などに起きると思っていた。私は非常に真面目な生活をしていたので、子宮頸がん検診は受ける必要がないと思っていた」。これが、かなり多くの日本人の理解の仕方ではないかと思います。

子宮頸がんは予防できる

 どんな人が子宮頸がんにかかりやすいかというと、まず免疫上の問題がある人、パピロー菌の型、あるいはHIVを持っている人、たばこを吸っている人―ですが、何よりも子宮頸がんにかかりやすい人は、「検診を受けていない人」です。
 子宮頸がんが進行がんで見つかった人の8割は、がん検診を受けていなかった人です。つまり、「がん検診というのが世の中にあります」とか、「ぜひ受けに来てください」というアプローチが、国や自治体からもっと積極的にその人に対して行われていれば、がんになって少なくとも死ぬことはなかったし、子どもも産める段階で見つけられた人がたくさんいるはずです。
 子宮頸がんの「早期発見・早期治療」、これはもう古いです。子宮頸がんの世界では、「予防」が当たり前です。今、普通に行われているがん検診によって前がん状態を見つけ、がんになる前の一歩手前のところで、円錐切除で治すことができます。
 さらに子宮頸がんの原因がHPV感染ということが分かったので、それをワクチンで防ごうということが出てきています。HPVワクチンは、初めてがんを特異的に予防するという目的で作られたワクチンです。
 ワクチンというのは、生物医学、公衆衛生において最も偉大な業績です。予防できる疾患はワクチンと検診で予防する、これが公衆衛生の原則です。公衆衛生という言葉を使うと、何か古くさいと思うかもしれませんが、公衆衛生という言葉を古くさいと思うこと自体が異常です。これをきちんと進めることが、国民が健康で幸せな状態で暮らせるための最大限の方法です。
 WHOでは2009年4月、新型インフルエンザが流行して大騒ぎをする前に、このHPVのワクチンに関しての重要な声明を発表しています。「子宮頸がんおよびその他のHPV関連疾患が、世界的な公衆衛生上の問題として重要である。国のワクチン接種プログラムに、ルーティーンのHPVワクチン接種を組み込むことが推奨される」。これは先進国だけではなく、世界中で取り組むべきだとメッセージを出しています。しかし、日本ではこのことを伝えた報道機関は一つもありません。

HPVワクチンの有効性

 では、HPVワクチンはどのぐらい効くのでしょうか。HPV16型、18型に起因する子宮頸がんの予防ワクチンでは、それに関連する前がん病変が予防できれば、がんは予防できます。
 前がん病変をどのくらい予防できるかというと、臨床試験は世界中で2万人を対象に4年間行われました。15~25歳の中でHPVのDNAも抗体も持っていない、つまり性交を開始する前の若い女性と同じだと見なせる人たちに対するワクチンの有効性、疾患の発生予防は98%でした。
 それから、HPV16型、18型以外によっても疾患が出てきている人たちがいますので、これらを含めたすべての前がん病変の予防効果となると、性交を開始する前の女性の集団を想定する集団で70%。それから、成人女性で3回きちんとワクチンを接種した人たちでも、60%の病変の抑制率で、子どもに接種すると7割、大人に接種すると6割予防できるというのが答えです。ですから、成人女性に対しても、ワクチンを接種する意義は非常にあります。
 日本でもこの臨床試験が行われ、対象群はA型肝炎ワクチンですが、HPVワクチンを接種した群からは持続発生も疾患も出ず、100%の予防効果でした。副反応は、疲労、筋痛、発疹、発熱などで、重篤な反応は非常に少ない。普通の一般的なワクチンと変わりません。
 HPVワクチンの効果が何年もつのかについては、時間の経過とともに答えが出ていくものなので、実際には「分からない」というのが正解です。しかし数学的に抗体価の下がり方を計算すると、最低でも20年以上はもつだろうと考えられています。

先進国では公費でワクチン接種

 海外では子宮頸がん予防のワクチンが、主に12歳前後の女児を中心に、無料あるいは無料に近い形で、公費負担で接種されています。12歳で接種する理由は、性交渉が始まる前に接種するということです。
 その集団の5%が性交を開始すると少し手遅れなので、それ以前の年代に接種したほうがよい。そうすると、日本では性交経験率が中3で約10%、中1で約3%なので、15歳では少し遅い。小6から中2ぐらいが適切だろうと考えます。
 オーストラリアは、世界で最初に国費でのワクチン接種を始めました。2007年4月から、12歳の女児にまず学校で接種し、26歳まではかかりつけの医院で接種します。12歳で約90%、26歳でも65%の接種率です。
 オーストラリアで使われたワクチンは4価ワクチンといって、6型、11型のコンジローマも防げます。将来子宮頸がんがどのぐらい減るかはまだ分かりませんが、コンジローマの結果はすぐに出ました。
 4価ワクチンの接種により、女性で、男性と性交する人のコンジローマが急激に減りました。男性で、男性と性交する人はこのワクチンを受けていませんので、コンジローマの発生は変わりません。つまり上手な使い方をすれば、コンジローマを防ぐことができるのです。
 接種する際、「これは子宮頸がんの予防ワクチンです」と説明すれば、一般の方は受け入れやすい。しかし、コンジローマの説明をするときには、STDの説明をしなければいけなくなるので、ちょっと難しくなります。4価ワクチンか2価ワクチンかの選択の際に、このことを若干考慮すべきかと思います。
 英国では2価、つまりHPV16型、18型だけを対象とするワクチンが使われており、やはり学校で90%の女児が受けています。

費用対効果の便益は1・9倍

 日本において、HPVワクチンを接種した場合に、どれぐらいがんが減るかを計算しました。もし、12歳の女児全員にこのワクチンを接種すれば、子宮頸がんの罹患も死亡も73%予防できます。
 ワクチンを接種すると費用が掛かりますが、3回で3万6千円という一番安い費用で設定すると、12歳の女児60万人に210億円掛かります。しかし、ワクチンを接種しない場合は、がんになったり、がんになる前の疾患になったりして、医療費や労働損失が発生します。これらをワクチンによって抑えることができるので、接種に210億円掛かっても、接種を受けた人たちがずっと生きていくと、生涯で190億円の損失を減らせます。将来に対する先行投資です。
 つまり210億円の費用が掛かっても、400億円、1・9倍以上の便益があるので、これがもし橋や道路だったら、国交省はこれを造るという決断をすると思います。
 子宮頸がんの発生は、若いうちにこのワクチンを接種すると73%、30歳だと約50%減らせると推定されます。これは大人に接種すると効かないというのではなくて、20歳でHPVに感染してがんになるのと、年齢が高くなってHPVに感染してがんになるのとでは、もともとのがんになる可能性が違うのです。
 日本には、任意接種のワクチンはたくさんありますが、これは基本的には自費です。定期接種は100%公費ですが、自費のワクチンの接種率というのは非常に低く、多くても30%ぐらいです。 今、HPVワクチンに対して公費助成を行う自治体が少しずつ増えていますが、人口比で言えばまだ約1%です。そうすると、地方自治体の財源状態や個人の収入の差によって、将来子宮頸がんになる人と、ならない人が出てきます。
 先進国における推計によれば、検診プログラムのある国では、ワクチンを投与した場合の費用対効果は、思春期女性に平等で高い接種率を達成することで最適になります。
ワクチン投与戦略の費用対効果を最高にするには、HPV感染前の女性にワクチンを投与し、成人女性において、平等で高い検診受診率を確保することが優先策です。
 女性で接種率がある程度上がれば、男性に対する接種は費用対効果の意味で、あまりお勧めはできません。

日本の子宮頸がん対策の遅れ

 海外ではハイテクなワクチンがどんどん使われているのに、日本はそれをただ眺めているだけでいいのでしょうか。日本には国家戦略としての長期ビジョンがありません。子宮頸がんは征圧できる、そのために検診とワクチンを徹底するというのが世界標準の考え方です。
 HPVワクチン接種費用の公費助成は、がん征圧の財源として適切であり、費用対効果で優秀です。女性の健康を守ることは、日本全体の健康につながります。さらに、日本は先進国として自負を持って、開発途上国に方法を伝えたり、ワクチンを提供したりできるかもしれません。
 実は赤道中心の開発途上国、72か国の子どもたちに対しては、GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)という団体が無料でワクチンを接種しています。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団、ユニセフ、世界銀行など、国際機関や各国政府などが資金を出していますが、その中に日本政府は入っていません。
 アフリカ等、これから先も検診を行うのがなかなか難しい国では、ワクチン接種だけを行っていけば、64%の子宮頸がんがなくなると考えられています。ヨーロッパでは、既に検診受診率が85%ですが、さらにワクチンを接種すると、95%の子宮頸がんがなくせると考えられています。これが世界全体の子宮頸がんへの取り組みですが、日本では検診受診率も20%だけで、ワクチン接種費用の公費助成もなければ、国家戦略的に非常にまずいです。

ワクチンと検診でがんを予防

 思春期女性は、ワクチンを接種すると十年後以降に実際の効果が出てきます。成人女性は、検診を受ければ今日から役に立ちます。理論的な意味でそれを受け入れて、長期的な視野の健康政策をやっていくことによって、子宮頸がんは減らすことができます。
 これまでは毎年子宮頸がん検診を受けていましたが、将来ワクチンが多くの人に接種される時代になれば、検診はHPVDNAの検査を用いて5年あるいは7年に一度でもいいのではないかとも言われ始めています。
 子どもたちに伝える最も重要なメッセージは、大人になったらがん検診を受ける。子どもも大人も適切な時期にワクチン接種を受ける。子宮頸がん予防には検診とワクチンの両方が重要で、若い人には公費助成を―ということです。
 日本はこのままだと、子宮頸がんはまだまだ発生します。しかし、ワクチンを接種し検診を受けているよその国では、もう進行した子宮頸がんは発生しなくなり、子宮頸がんに対する大きな手術は行われなくなります。日本だけで大きながんの手術が行われるという、非常に皮肉な結果になりかねません。そうならないために、地域、学校、家庭での健康教育、キャンペーンがとても大切です。
 歴史上初めて、ワクチンによってがんが予防できるようになりました。検診だけでも8割、ワクチンだけでも8割予防できます。両方足すと本当に子宮頸がんを征圧できるようになる。今、私たちはこのフロンティアの時代に生きています。女性にとって、非常に画期的な時代になっているのです。(文責・編集部)

【講師略歴】
 自治医科大学医学部卒業。東北大学を経て自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授。子宮頸がんとHPV(検診、ワクチン、治療)に関する研究、啓発活動、国内外の共同研究、執筆に、精力的に取り組む。監修『子宮頸がんはみんなで予防できる』(日本評論社、2009年4月25日発行)。

 
 
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