機関紙

【第670号】 平成23年9月1日発行(2011年)

2011年09月 公開
9月号の目次   「家族と健康」有料購読の申込みはこちら
編集帖
本会にIPPF加盟協会の認定証
健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)に向けて 福井県健康福祉部
・自殺予防啓発活動の二つの取り組み いはらき思春期保健協会 和田 由香

薬物乱用防止教育 ~もう一つの側面から~ 福岡県立大学看護学部教授 松浦 賢長

・乳幼児の食事と栄養<3> なぜ今食育か こどもの城小児保健部 太田百合子

・職域保健の現場から<10> 健診機関における保健師活動 済生会熊本病院健診センター 栗原 明子
避妊教育ネットワークトークリレー<18>アトラスレディースクリニック(東京都杉並区)塚田 訓子

 

 

 編集帖

 

▼児童虐待相談対応件数が平成22年度の速報値で5万5152件(宮城県、福島県、仙台市を除く)と前年度より1万2090件も増加した。これは児童虐待防止法の「通告」の義務により、社会全体で虐待の早期発見について関心が高まってきたためといわれている。

▼「子どもの虐待による死亡事例等の検証結果等について」(第7次報告)による子どもの死亡年齢を見ると、0歳児が40・8%と一番多く、全体では0歳児から5歳児が90%を占めている。その主たる加害者は「実母」が最も多く、動機は3歳未満では子どもの存在の拒否・否定と保護を怠ったこと、3歳以上では「しつけのつもり」が最も多い。どんな事情であっても、無抵抗の幼い子どもを自分の勝手な都合で虐待して、挙句の果てに死に追いやることは許されるものではなく、なんともやりきれない。

▼虐待死の誘引としては「望まない妊娠」のケースが多く、母子保健担当や医療機関が連携強化を図り、望まない妊娠を防止するために避妊法の指導や緊急避妊法の適用について相談機能を高めて欲しいものである。

▼虐待の防止には医師、児童福祉司、保健師、助産師、民生委員、母子保健推進員、保育士などの多くの関係者の目と耳を必要とし、家庭の正確な状況を把握して「子どもを守る地域ネットワーク」の関係機関の積極的な活用を図り、安心して子育てが出来る地域社会を作ることである。

▼昔は各家庭の日常生活や子どものことなどに何かと口を出す「おせっかいおばさん」がいて、それが結構助け合いに繋がっていた。市町村が実施主体となっている「養育支援訪問事業」(実施率55・4%)や「こんにちは赤ちゃん事業」(同84・1%」の全市町村での普及と実効が求められている。   (SS)

 

 

 本会にIPPF加盟協会の認定書

 

本会、IPPF加盟協会の認定証授与

クアラルンプール・2011年地域理事会開催

 本会は、世界の153か国に加盟協会をもつリプロダクティブ・ヘルス(RH)分野で世界最大のNGOである国際家族計画連盟(IPPF)の日本の加盟協会として活動している。IPPFは世界中の加盟協会がIPPFのメンバーとしてふさわしい資格を有することを条件付けており、資格要件を満たした加盟協会に対しては、認定証を発行している。

     
   認定証授与式  

 本会も厳しい資格審査ののち、2010年11月に正規の加盟協会としての認定を受けた。今回マレーシアの首都クアラルンプールで開催された2011年IPPF地域理事会においてIPPFの新・旧事務局長の立ち会いのもとに本会を代表して参加していた理事である筆者と櫻田忠宏事務局長に対し、認定証が授与された(写真)。IPPFのメンバーでいることが、誇らしい一瞬である。(本会理事/IPPF ESEAOR執行理事 石井 澄江)

地域事務局・地域理事会
 現在IPPFは世界を6地域に分け、それぞれの地域に地域事務局を置き、地域理事会を設けている。日本は東・東南アジア・オセアニア地域(ESEAOR)に所属している。ESEAOR事務局はマレーシアのクアラルンプール市にあり、地域内の26の国と地域の加盟協会のRHサービスとアドボカシー分野の能力強化を目的として活動している。

 地域理事会は3年に一度、加盟協会から推薦された各国2人の理事全員の選挙によって役員を決める。今年はその選挙年であり、新体制として地域理事会の会長はマレーシア、監事はニュージーランド、執行理事5人はインドネシア、韓国、フィリピン、香港、日本、そして若者の代表はフィリピンからそれぞれ選出された。執行理事はESEAOR事務局の活動をより効率的、効果的に実施するために、地域事務局長に協力し、運営管理を担う重要な役割を果たす。筆者が日本を代表して執行理事に選出されたのは、IPPF加盟協会の日本に対する、そして本会に対する信頼と期待の大きさの表れとも言える。

加盟協会の事務局長会議
 

 地域理事会の開催に合わせ、加盟協会の事務局長会議も開催されている。今年も26の加盟協会の事務局長が一堂に会し、2011年から2015年の地域事務局が作成した5年計画の共有、参加者間の成功体験の共有、成果主義や財務の説明責任についての説明を受ける一方で、組織の自立促進能力の開発等について討議を行った。また、経験や情報の交流を通じて参加者同士のネットワークを構築し、事務局長の能力の更なる向上を目指している。本会からも、櫻田事務局長と樋渡政人職員が初めてこの事務局長会議に参加した。本会も資金調達に関する本会の成功経験を参加者と共有することで、会議の目的達成に少なからず貢献した。

ジェンダーそして若者
 IPPFはジェンダーについて厳格な基準をもっている。加盟協会の理事の男女比は女性の割合が50%を超えること、また、毎年1回開催される地域理事会に参加する各国2人の理事のうち、最低1人は女性の参加が義務付けられている。一方で、若者の自主性を尊重しつつ、若者の一定割合の参加を促進し、若者の会議を地域理事会・事務局長会議と並行して開催している。日本からも若者の代表としてU―COMから柴崎優美氏と本会より吉村亮二職員が参加した。若者、特に若い女性たち(少女)が直面しているRH関連の問題の理解を広めるため、IPPFは、最近DVD「Girls Decide~決断する少女たち」を制作した。6人の少女たちの実話に基づいた物語がコンパクトにまとめられている。日本語版も制作されており、本会は今後研修等にこれを積極的に活用していく。

IPPFの日本語版HP
 IPPF東京連絡事務所をもつ?ジョイセフを通じ、IPPFは日本語版ホームページを作成し、随時アップデートしている。ここには世界中のRHをめぐる動きを伝えるコーナー「ニュース・ニュース・ニュース」があり、週2回のペースで最新情報を掲載している。世界中で何が起きているかを知るには便利なサイト(http://www.ippf.org/jp)なのでお勧めしたい。


 

 

 平成23年度健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)に向けて

 

健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)に向けて
福井県健康福祉部健康増進課

「江」ゆかりの地、福井県

     
   柴田勝家とお市を祀る柴田神社のお市、三姉妹の彫像  

 今、福井はNHKの大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」の影響もあって、それぞれのゆかりの地は大変多くの観光客や研究者をお迎えしています。浅井三姉妹の三女「江」は、「柴田勝家」に嫁いだ母「市」と姉二人とともに越前国北庄に入ります。僅か半年後、勝家は豊臣秀吉に敗れ市とともに自害しますが、三姉妹は秀吉に引き取られます。勇猛果敢な勝家は織田信長の信頼が厚く、築城をはじめまちづくりなどハードからソフトまで大胆で緻密な手腕を発揮しました。当時10歳手前の少女江は、父の後姿や母の想いを胸に刻み、この時の大きな経験が、後の二代将軍の妻、三代将軍の母など大変な役割を果たし全うした礎を築いたと考えることは決して難くありません。
 動乱の戦国の世も、子や家族を思う心、気持ちは変わるはずがありません。特に福井県は共働き率が高く、健康長寿で平均寿命もトップクラスを占めています。子や家族を思う女性の頑張りが支えてきた結果であると思います。

みんな笑顔で楽しい子育て
 このような福井県で平成23年度健やか親子21全国大会(母子保健家族計画全国大会)を開催し、皆様をお迎えすることとなりました。
 本大会は、「健やか親子21」の4つの柱から、「子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減」を選び、大会テーマを「支えよう 小さな命とその家族~みんな笑顔で楽しい子育て~」としました。
 健やか親子21の第2回中間評価では、「子育てに自信が持てない母親の割合」、「ゆったりとした気分で子どもと過ごせる時間がある母親の割合」は減少傾向にあります。
 このことから、近年核家族化が進み、また、女性の社会進出が進む中、時間的、精神的に余裕がなく、子育てにストレスを抱える母親が増えてきているのではないかと推察されます。働きながらでも安心して子どもを産み育てたいという女性の希望が実現できるよう、また、生まれた子どもが健やかに育つようすべての子どもや家族を応援できる社会が求められています。
 本大会において、子どもも家族もみんな笑顔で子育てができるようにするには何をするべきかを皆様と考えていきたいと思います。

親子で楽しめる
プログラムも企画
 特別講演には教育評論家の尾木直樹氏を招き、「親だからできること」と題して、母親がストレスなく子育てするにはどうしたらいいか、また親だからこそできることは何かなど親子関係を見直す契機となるような講演をしていただきます。
 また、11日には母子関係者の方はもちろん、親子で楽しんでもらうため、女優でエッセイストの中井貴惠さんとジャズピアニストの松本峰明さんによる人気絵本「あらしのよるに」の朗読を行います。
 さらに、シンポジウムでは「安全で安心な妊娠、出産、子育てを目指して」をテーマに妊娠、出産から育児までの親の不安を軽減し健やかな子を育むための各部門での取り組みや課題を発表していただくとともに、今後さらに重要となることについて会場の皆様を含めて意見交換をしたいと考えています。
 そして、今年度も併設開催として、母子保健関係者研究集会、全国母子保健推進員等連絡協議会活動報告会、家族計画研究集会がそれぞれの主催団体により開催されます。
 全国の母子保健および家族計画関係者、そして親子の健やかな成長を見守る地域の皆様のご参加を心よりお待ち申し上げております。

全国大会開催要領

【開催日】11月9日~11日
【会場】AOSSA 福井県県民ホール・福井市地域交流プラザ(福井市手寄1丁目4―1)
【主催】厚生労働省、福井県、福井市、社会福祉法人恩賜財団母子愛育会、社団法人日本家族計画協会、社団法人母子保健推進会議
【大会日程】
1日目 11月9日
 母子保健関係者研究集会/愛育班等組織支援育成担当者会議
2日目 11月10日
 式典/特別講演「親だからできること」尾木直樹氏(教育評論家)/全国母子保健推進員等連絡協議会活動報告会
3日目 11月11日
 音語り「あらしのよるに」中井貴惠(女優・エッセイスト)、松本峰明(ジャズピアニスト)/親子遊び
 シンポジウム「安全で安心な妊娠、出産、子育てを目指して」/コーディネーター=松木健一(福井大学大学院教育学研究科教職開発専攻長)/シンポジスト=津田明美(福井県こども療育センター主任医長)、芝美代子(NPO法人わくわくくらぶ理事長、子育てマイスター)、辻さゆり(越前市健康増進課参事)/家族計画研究集会
【問合せ】福井県健康福祉部健康増進課?0776(20)0350

家族計画研究集会
今後期待される性の健康教育とは?

 多年にわたり母子保健等に従事された方、または団体を表彰する「日本家族計画協会会長表彰」。被表彰者の推薦に関しましてご協力いただきました皆様には、厚く御礼申し上げます。ただいま、推薦調書を拝見させていただいておりますが、どなたもアクティブに活動され、尽力されていることがヒシヒシと伝わってきます。そんな皆様にお会いできることを、心より楽しみにしております。

 

 

 薬物乱用防止教育 ~もう一つの側面から~

 

 薬物から子どもたちを守るには

第9回思春期保健相談士学術研究大会より

基調講演
薬物乱用防止教育~もう一つの側面から~  講師 福岡県立大学看護学部教授 松浦 賢長

   
  松浦氏  

 第9回思春期保健相談士学術研究大会が6月5日、東京・墨田区のKFCビルで開催されました。今号では、松浦賢長福岡県立大学看護学部教授による基調講演の概要をご紹介します。 
 
●薬物はなぜ減らないか
 まず福岡県警のレポートを見てください(図1)。 福岡県でシンナー等、有機溶剤の乱用により検挙・補導された少年は58人で、前年に比べ57人減少したものの、11年連続で全国ワースト第1位です。
  なおかつ福岡県の問題で大きいのは、大人のシンナーの問題です。これは、あまり他の都道府県で見られないと思います。ただ、そこが原因かというと、それはあくまで結果です。指定暴力団は全国に22団体ありますが、何と5団体が福岡県にあります。もちろん全国ナンバーワンで、これが本当の原因です。
 福岡県防犯協会連合会のスライドに「薬物を売買する者のほとんどは暴力団もしくはその手先で、薬物は暴力団の資金源になっています」と書いてあります。非常にスタンダードな見方です。
 今は外国人の売り手がいる、全く日本の暴力団にはかかわらない別のルートができている、インターネットでグレーゾーンの薬物を販売・購入できるなど、新しい側面も出てきています。でも、なぜ福岡県が薬物でこれだけ苦しんでいるのかというと、この事実を見逃すわけにはいきません。
 健康を非常にむしばむものに売り手が存在するというと、皆さんが頭の中に思い浮かべるのは、多分たばこではないでしょうか。ただ、たばこが薬物と違うのは、密売人がいるかどうか。たばこにも密売人はいるかもしれませんが、薬物ほどでは多分ないと思います。ここがポイントの一つです。

   

●密売人の「ビジネスモデル」
 薬物を利用する者、ユーザーは2種類います。一つは新規ユーザー、あるいは潜在ユーザーと言ってもいい、初めての人。もう一つはリピーター。リピーターのほうは、特に今は依存の観点から研究が進んでいます。
 ここでは新規ユーザー、潜在ユーザーにどんな魔の手が伸びてくるのかということを考えたいと思います。
 暴力団の系統の末端の人間も、「しのぎ」、英語で言うビジネスを行っているわけです。ですので、そこにビジネスモデルがある。そのビジネスモデルというのは、いったん手を染めたら、ずっと縁が切れないということです。
 皆さんの持っているプリンターは、基本的にはインクカートリッジやトナーカートリッジでもうける仕組みになっています。これをカートリッジ・ビジネスと言います。薬物も、このカートリッジ・ビジネスと同じ側面があるんです。
 福岡県警からいただいた実例です。密売人などが、駅前などにいる少年に「シンナーを吸えば嫌なことが忘れられる」と声を掛け、初めはただで渡す。その時、電話番号などを交換して、何度かシンナーをただで渡し、少年がシンナーを止められない状態となったところで、実は1本3000円するなどと言って、お金を取り始める。
 ユーザーを作れば、こちらのものなんです。縄張りがあるので、そこの新規ユーザーからは全部、以後の注文を受けられる。こういうビジネスモデルなんです。ですので新規ユーザーの開拓、これが生命線です。

●新規ユーザーの開拓
 「駅前で声を掛ける」というのを頭に置いて、新規ユーザーの開拓を見ていきます。
 誰彼ともなく、「お願いします、お願いします」、このようにして、駅前で薬物を販売していますか。薬物は違法な取引なので、駅前のティッシュ配りと同じようには売れません。ここがポイントです。
 そこから三つの要素を考え出してみました。秘密性、安全性、確実性。恐らく売り手はこの三つをかなり慎重に見ているはずです。ただ単に、目の前を通り過ぎる通行人や若い人に情報を渡したり、薬物を売るのを持ち掛けたりしているわけではないと思います。

▼秘密性
 まず「秘密性」とは、売り手がなるべく自分を知られないようにすること。今は携帯電話での取引が結構主流で、「飛ばし携帯」が活躍するわけです。飛ばし携帯というのは、お金に困った人が自分の健康保険証か何かで買えるだけ買って横流しする。
 場所は先ほど駅前とありましたけど、ゲームセンターやカラオケ、駐車場とかですね。カラオケの場合は、同調圧力というのがかなり顕著に現れる場ですので、ポイントとして押さえておいてください。時間は夕方とか夜中、あるいは高校生がいるわけもない昼間とか、盲点を狙われている。

▼安全性
 「安全性」は、買ってもらう、あるいは売り付ける相手が安全な人間かどうかということです。売り手はいろいろな方法で安全性を高めていると思います。まず知っている人間に売る。つまり後輩の知り合いとか、知り合いの知り合いとか。そして、付き合っている彼女ですね。
 安全性を確保するために、恐らく観察する期間があると思います。駅前をずっと観察していて、ある時、「あ、あいつらまた来たな」と言ってアプローチするわけです。
 これも福岡県警からの実例です。先輩の友人からシンナーを勧められ、断れず、あるいは興味本位で吸った。初めはもらったシンナーを吸っていたが、そのうち密売人の携帯電話番号を教えてもらい、自分で買うようになった。売り手からするとこれは安全性が高い。
 それから、女の子のユーザーは、大体彼氏や知り合いの男から勧められている。セックス目的で薬物を勧めてきて、興味本位で使い始めた。彼氏からおれと同じ気持ちを体験してくれと言われ、シンナーを始めた。こういうのも実は多いんです。

▼確実性
 三つ目の要素の「確実性」というのは、こいつはほぼ確実にシンナーに手を染めるなと、そういう読みです。駅前で、昼、平日に2人ぐらいの高校生らしい若者がたばこを吸っている。それを密売人は見過ごさないです。何回か観察するんですね。
 恐らく密売人なり、その関連の人間は、子どもたちの何か不満のありそうなそぶりにすごく敏感です。その理由の一つは、恐らく本人たちもそうだったからだと思います。少しずれますが、心ここにあらずのような普通の若者も、恐らく密売人の視野に入っていると思います。

●密売人に見抜かれるポイント
 福岡県警からの実例です。密売人などが駅前などにいる少年に「シンナーを吸えば嫌なことが忘れられる」と声を掛け、初めはただで渡す。シンナーを吸えば嫌なことが忘れられる、これがポイントです。本当に嫌で嫌でしょうがなくて、今ここにいて座っているんだと、それを見抜かれています。
 もう一つ実例を出します。あめやガムの包み紙に書かれた電話番号を密売人から渡され、「興味があったら電話して」と言われる。その後、気分が沈んだ時や嫌なことがあった時、興味本位で渡された電話番号に電話し、薬物を使い始める。気分が沈んだ時や嫌なことがあった時、これがポイントです。

▼家庭環境
 子どもたちはいろいろなことを嫌なこととして感じていると思います。特に思春期です。楽しいことより嫌なことのほうが、はるかに多いはずです。学校、友達関係、それも嫌なことには違いありませんが、今、少年課の人たちと話す中で圧倒的に多いのは、家庭のことなんです。
 例えば母親が家から出て行った。あるいは単身家庭で、新しい男の人が入ってきて、昼間から何か変な雰囲気だ。それで家を飛び出して、巡り巡って夜、たむろする。そんな感じなのです。
 ですので、街頭でティッシュを配るように、誰にもシンナーの魔の手が伸びてくるわけではないです。ほとんど安全に確実に、そして秘密にピンポイントで、売り手は、ある子どもに魔の手を伸ばしてきます。
 皆さんが子どもたちの言葉に詰まるような家庭環境や状況を、もし認識されたなら、リスクがかなり高いと思っていいです。皆さんが、この子たちは十分に連携してケアをしなくてはいけないと思ったのと同じように、密売人は、あ、こいつらは引っ掛かると思っているはずです。

▼親和動機
 たばこは家の状況が悪い、複雑だ、急に機能が失われたということで吸い始める子どももいるでしょうが、もっと別の側面があります。
 たばこは薬物のゲートウエイ(入り口)だとよく言われます。どうしてなのか。たばこを吸っていると、物足りなくなって、もっと強い薬物に手を出していくのか。それもあるかもしれません。
 別の観点から見ていきます。まず密売人は、いきなり駅前でシンナーとかを売り付けたりはしない。彼らは生活、場合によっては生命が懸かっている。にもかかわらず、決していきなり売り付けたりしません。まず、子どもたち、あるいはそのターゲットの子どもの、その友達との関係性を作ろうとします。
 なぜ関係性を作るのか。それは依頼しやすくなる、信用しやすくなる、断りにくくなる。この三つのポイントからこの戦術を取っていると考えたほうがいいです。
 子どもがたばこを吸うのは、「親和動機」がそこにあると考えられます。これは社会心理学の用語で、「誰かとつながりたい」ということです。親和動機の大本には不安があるということは研究で分かっています。つまり、不安がある者が、誰かとつながりたくて関係性の象徴であるたばこに手を染めるということです。

▼同調圧力
 それからもう一つ。自分では、つながりたいとは思っていないけれど、周りが吸うから自分もという、「同調圧力」によって吸う。同調圧力というのは、同調する、しない、関係性の最たるものです。
 同調圧力に乗っていきやすい子どもは、規範意識の高い子どもだと言われています。この規範意識というのは、社会のルールに従うという意味ではなくて、ある集団の中の明文化されていない空気をよく読んで従うということです。
 ですので、たばこを吸っているというのは、薬物に手を染めても依存しやすいタイプだと、多分見抜かれている。もう一つ、この子の裏には不安が多い、もしくは、集団の中の雰囲気や空気というものに逆らえない、そういう規範意識があるということが見抜かれているんです。
 たばこに手を染めるということ自体が薬物のゲートウエイだというのは、こういう考え方ができるのではないか。

▼ローカス・オブ・コントロール
 もう一つ、これは健康教育の教科書に出てくるキーワードです。自尊感情、自己肯定感、あるいはローカス・オブ・コントロール。自分が生きていくということが、自分の努力で何とかなると考えている子どもたちをローカス・オブ・コントロールの「内的所在型」と言います。
 一方、もう自分ではどうにもならないと、何かあきらめているような、自分の生き方について、外の条件が非常に自分を翻弄するんだと考えている子どもたちをローカス・オブ・コントロールの「外的所在型」と言います。
 「仕方がない」という自分の人生、生きるということに関しての決して能動的ではない態度、これも恐らく見抜かれているのではないでしょうか。

●影響力研究
 「影響力研究」というのがあります。残念なことに、ドラッグディーラーがどういうふうに周囲に影響を及ぼして、しのいでいるのかというのは、多分研究はないと思いますので、薬物乱用に当てはまる影響力を三つ解説していきたいと思います。
 影響力の種類、ある教科書は八つに分けていました。それぞれ皆さん、もしご興味があれば社会心理学の教科書をお調べください。賞影響力、罰影響力、正当影響力。専門影響力、これは情報影響力と操作影響力に分かれます。それから魅力影響力、対人関係影響力、共感影響力、そして役割影響力です(表1)。

   

▼賞影響力
 「賞影響力」というのは、皆さんが日常生活でよくやっていることです。食事をおごる、おごられる、プレゼントする、される、精神的に励まされる、褒められる、こういう中で影響を及ぼしているということです。
 つまり、いきなり何かを売り付ける前に下準備として、恐らく密売人たちは、子どもたちに賞影響力を及ぼして関係性を作っていくはずです。少ししか持っていない、それを手に入れたいと思っているが第三者からの入手は難しい。こういう状況にある子どもたちは賞影響力を受けやすい。
 例えば家で誰もご飯を作ってくれない、小遣いがない。あるいは、何も褒めてもらったことがない。それらを渇仰していて、なおかつそういうものは、通行人とかそういう人たちから入手できるものではない。子どもたちは、状況によっては、賞影響力を非常に受けやすい状況にあると言えます。

▼正当影響力
 「正当影響力」というのは、社会あるいはその組織の規範に従う、社会規範が強い集団のメンバー、その中でも規範意識が強い、そういう者に及ぼされる影響力のことです。
 同調圧力とか、縦社会の上下関係に従う、そういう子どもたちが、この影響力を受けやすい。例えば先輩後輩関係、目上目下関係、顔を立てる、立てられる関係。こういう関係が子どもたちに内在化されていれば、影響を受けやすい、関係性を作っていきやすい、なおかつ、それを断れない、依頼しやすい、信頼してもらえる、そういうことに結び付いていくと思います。
 ですので、小学校や中学校で先輩後輩関係を非常に気にしたり、実際にそのように振る舞っていたりするのは、少し要注意になるわけですし、密売人のほうから見れば、しめしめということになるわけです。

▼情報影響力
 これはもう皆さん有名なところです。「専門影響力」の中の「情報影響力」。これは、そこにたまたま来た子どもたちに説得力のある情報を、それとなく流したり、魅力的な情報を口コミのような形で流したり、あるいはわざわざ間違った情報を流したりする。こういうところから影響を受けることです。
 例えば薬物だと、「ダイエットにいいよ」「楽しい気持ちになるよ」「眠気が取れて勉強がはかどるよ」などです。

●アプローチの研究
 薬物乱用防止に関するアプローチの研究を二つだけ持ってきました。
 まず「段階的なアプローチ」。これはわれわれもよくやると思います。1回目に小さい依頼をして、2回目に大きい依頼をする。この依頼の時間の間隔は空いていてもいい。ただ、この時に条件があって、1回目の依頼を受けている子どもに2回目の大きな依頼をする。
 次に「譲歩的なアプローチ」。これは1回目の依頼をどんと大きく出す、当然相手は断る。そして2回目に小さめの依頼をする。実は売り手の意図はこちらだったりするんです。この場合は、時間は空かないほうがいいらしい。これは、アメリカでいかに訪問販売を成功させるかというところで研究されてきたものです。

●エリア研究
 最後に、エリア研究をします。これは薬物で言えば、売り買いの縄張りをそれぞれのドラッグディーラーがある程度決めている。だから、ほかのドラッグディーラーが入ってきたら死活問題になる。
 皆さんにお願いしたいのは、地域で見えてくるものがあるということです。これは本当の話ですが、ある24時間スーパーの駐車場、昼は結構にぎわっています。夜は店員さんも、人も、買い物のお客さんも、店の中はほとんどいないのに、車の多さは変わらないんです。
 地元出身の先生に、「あそこ何か夜おかしくない?」と聞いたら、「先生、知らなかったんですか、あそこはドラッグディーラーの場所ですよ」と。地元の人は分かっていたりするんです。ここはもちろん地元の県警もよく知っていて、夜になるとパトカーがぐるっと中を回るんです。
 皆さんには、密売のルート、あるいは薬物が売られるサイトについて、できるだけ新しい情報を入手して、地域や子どもたちに、そういう所には夜行かないほうがいいと、ぜひ言っていただきたいと思います。

●今後の研究課題
 研究者は何をしていかなくてはいけないのか。売り手を研究し、密売戦術を分析する。こういうことは警察関連や犯罪学関係の部門がやっていると思いますので、われわれ健康に関する部門と情報交換して、分析を共有していきたい。
 それから、影響力を及ぼす方法を、こういうネガティブなことに関しても、心理学者等といろいろ一緒にやっていけたらと思っています。
 どうやって人は人との関係性を構築していくのか。要はそれを、悪用されているわけです。そして、彼らは一体何を見抜いているのか。健康教育のスキルや知識、脅威の認識と同時に、戦術や影響力、関係構築の研究を学際的にしていく必要があります。

▼新奇性追求
 そして、「興味」から、薬物に手を出している。人には好奇心、興味を持つ、という能力が埋め込まれています。それは、遺伝的にかなり影響すると言われ、好奇心が強い人たちと、そうでない人たちに分かれる。
 芸能界で薬物の逮捕者が出ています。彼ら自身すごく好奇心が強い人たちで、アーチストはそうでなければ成功しない。新奇性追求(novelty seeking)があふれている。でも、それを逆手に取られて、薬物が自然に迫ってきて、手を出してしまう。あとはその連鎖の中に入っているということだと思います。
 「興味を持ってはいけない」とは言えません。立ち止まって、ちょっと研究をする必要がある。

●思春期保健相談士に望むこと
 私が皆さんにお伝えしたいことを五つにまとめてみました。
①まず、薬物乱用については、警察等との連携をぜひ行ってください。やはり専門家です。いろんな情報や啓発ツールを持っています。
②同時に、地域のいろんな情報、薬物のルートやサイトを常に新しくしていただきたいと思います。
③それから、たばこはゲートウエイとしての役割が随分あると思います。過小評価することなく、例えばたばこを格好良さということで吸ってしまうとか、そういうところへどんどんアプローチしていただきたい。
④それから、特にドラッグディーラーに見抜かれているのは、子どもたちのやるせない気持ちです。不安定な家庭への支援をぜひお願いしたいと思います。
⑤そして、これは犯罪心理学でもよく言われていることですが、地域の人々の意識を子どもたちに向けていただきたい。こういう地域では、非行の子どもたちが少ないということが研究で明らかになっています。皆さんには、この辺りを特にお願いできればと思っています。(文責=編集部)

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