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ニュース・トピックス

SRHRは前進するか?~性犯罪に関する法整備、性交同意年齢、経口人工妊娠中絶薬、緊急避妊薬~

第832号

 今年1月に招集された第211通常国会が6月21日に閉会し、「不同意性交罪」「性交同意年齢」の引き上げなどの刑法改正を含む58法案が成立した。この間の5月9日には、経口人工妊娠中絶薬が承認され、6月26日には緊急避妊薬の薬局販売の試験的運用が決まるなど、この夏はセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)を巡る話題が、熱く世論を賑わせている。

「不同意性交罪」、「不同意わいせつ罪」へ統合・整理

 近年における性犯罪を巡る状況に適切に対処するため、「強制性交罪」「準強制性交罪」「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」をそれぞれ統合・整理するとともに処罰要件を明確化し、同意のない性行為を「不同意性交罪」「不同意わいせつ罪」(2023年6月16日成立)へと改めた。
 処罰の要件は、暴行・脅迫・アルコール・薬物・恐怖・虐待・地位・誤信などを利用して、わいせつな行為をすること」と明確に規定した。
 更に、わいせつ目的で子どもを手なずけてコントロールすることも罪であることが明記された。不同意性交罪は、同意なく身体の一部(陰茎を除く)や物を挿入する行為も対象となる。
 被害にあってからすぐに訴え出るのは難しいことから、時効が5年延長され、「不同意性交罪」は10年が15年に、「不同意わいせつ罪」が7年から12年になった。被害者が18歳になるまで事実上、時効は適用されない。

「性交同意年齢」16歳以上に引き上げ

 性行為への同意を判断できるとみなす年齢である「性交同意年齢」も見直され、「13歳以上」から先進国と同水準の「16歳以上」に引き上げられた(表1)。16歳未満の人へ性行為・わいせつ行為をした者は、同意の有無にかかわらず「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」として処罰の対象となる。ただし、同年代の恋愛までは処罰の対象外で、13〜15歳の場合の処罰の対象者は「5歳以上年上の相手」としている。
 本会では、13歳では性交や妊娠の仕組み、避妊について学ぶ機会が少ないことを危惧し、性交同意年齢の引き上げを声高に訴えてきた。
 引き上げられた3歳を意義あるものとするためにも、義務教育終了までに、必要な知識を教え、性交する・しないを決める、避妊や性感染症予防が自身やパートナーの未来を守ることである―と認識できる16歳でいられるよう啓発を続けていきたい。

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性的な盗撮・拡散は「性的姿態撮影罪」に

 その他の法案として、胸や尻などの性的部位や下着姿など「性的な姿態」の写真・動画などを無断で撮影(盗撮)し、その記録を提供するなどの行為を処罰する「性的姿態撮影罪」が成立した。記録の複写を没収・消去することも可能とし、被害の発生および拡大を防止していくこととなる。
 性的姿態撮影罪については、これまでスポーツ選手などが声を上げてきただけでなく、本会のLINE相談にも、画像に起因する相談は少数ながら寄せられていることから、法律が遅まきながら時代に追いついた感がある。
 スマートフォンが普及し、誰でも撮影、配信が簡単にできるようになった。便利な機械を、犯罪の道具にしないことは、法律があるからではなく、文明の社会に生きる者として当たり前であってほしい。
 今国会で成立したこれらの新法は、7月13日に施行される。

経口人工妊娠中絶薬承認

 今年5月、経口人工妊娠中絶薬の製造販売を厚生労働省が初めて承認した。9週までの初期の人工妊娠中絶が飲み薬で可能になったことは、子宮の内容物をかき出す掻爬(はそう)もしくは吸引による手術のみだった我が国においては、画期的な出来事といえる。(詳細はWEB版4月号既報www.jfpa.or.jp/kazokutokenko/topics/001749.html)
 「薬が最適」と飛びつくのではなく、手術との違いを理解し、女性自身が自分に合う方法を納得して決める選択肢の一つが増えたと捉えたい。

緊急避妊薬 一部薬局で試験的に販売へ

 緊急避妊薬の薬局での販売について「厚生労働省は、研修を受けた薬剤師による販売の試験運用を決めた」と文字で見て、耳で聞くと、薬剤師の研修は必要だが「緊急避妊薬が近隣薬局で購入できる、婦人科受診をしなくても手軽に使える」と誰しもが思うことは想像に難くない。実際のところ、試験運用は、全国の指定された薬局で実施され、購入者、避妊の結果、妊娠検査実施の有無、産婦人科受診の有無、サービスに対する満足度などのアンケート調査に協力する必要がある。承認発売に向け尽力してきた本会としても、緊急避妊薬の薬局販売は利用者のアクセスをよくするためにも、早い実現を望んでいるが、指定された薬局にたどり着くまでに性交後72時間を越えてしまわないか? プライバシーは守られるか? その後の避妊指導は? 性犯罪被害者の相談はどうするか? アンケート調査は特に当事者にとって負担にならないか?―など、これまで緊急避妊を求めて受診したユーザーの様子を思い浮かべるにつけ、必要なサービスの提供が遠ざかってしまわないか心配になっているのが率直な思いである。
 先進国では、薬局で簡単に購入できるが、例えば子宮頸けいがんの検診率が高いなど婦人科受診は、緊急避妊とは別のところで当たり前になっている(図1)。本会クリニックで、緊急避妊薬の処方が、婦人科デビューという女性が少なくない現状を目の当たりにしていること、薬局販売が3年経過するとインターネット販売も可能になる現行法の下、婦人科を嫌う、あるいは嫌われる婦人科の意識をどう変えていくかなど、新たな課題もあり、試験的運用の成り行きを注視したい。
 いずれにせよ、SRHRに関する制度が変わりつつあることは、紛れもない事実である。一部の意識の高い人のためではなく、誰でも、どこでも、いつでも、平等にサービスを受けられる社会の実現を目指して、本会がすべきことを全うしたいと改めて思う。(本会家族計画研究センター長 杉村由香理)

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