機関紙

【第661号】 平成21年4月1日発行(2009年)

2010年01月 公開

4月号の目次

編集帳

・平成21年『女性の健康週間』イベント ほか
・八千代市の思春期保健ネットワークの構築
中国貴州省住民参加型総合貧困対策モデルプロジェクトに参加して
・育てやすい赤ちゃんを産み育てるコツ ~妊娠初期からの骨盤ケア~
・月経の抑制に対する専門職の意識 ~アンケート調査より~
思春期はいま 思春期保健相談士への期待②

 

中国貴州省で活かす本会の経験

 

中華人民共和国 貴州省道真県・雷山県――――――●

 

住民参加型総合貧困対策モデルプロジェクトに参加して


写真1 山の斜面を開墾した畑(道真県福星村)

写真2 傾斜地を利用したミャオ族の集落(雷山県黄里村)

写真3 村の小学校にできた手洗い場で
手を洗う子どもたち(道真県)

 

 近年、中国経済は急速に発展したが、中国全土を見渡すと地域によっては大きな経済格差が生じている。特に中国の中でも自然環境が厳しい中西部は経済発展が遅れているが、このたび筆者が参加したプロジェクト地区はこの中西部にある貴州省の道真県と雷山県である。プロジェクト地区の住民に接してわかったことは、医療と保健サービスを受けられないために健康を損ねて貧困になっているということである。そしてこの貧しい生活によってまた病気になるという悪循環を繰り返している。また、住民の多くは生活に必要な科学的知識が乏しいことや、伝統的な生活習慣を改善できずにいるのも貧困の原因になっていた。このような状況を改善するため、2005年に国際協力機構(JICA)と中国国家人口・計画生育委員会は、日本と中国の二国間の政府海外開発援助として「住民参加型総合貧困対策モデルプロジェクト」の技術協力に関する覚書を交わし、具体的な活動を家族計画国際協力財団(ジョイセフ)に委託した。筆者はこのプロジェクトに教材制作の専門家の一人として三年間かかわったのでその活動を報告する。 (本会理事・事務局長 櫻田 忠宏)
 

プロジェクト地区の背景

 

 道真県と雷山県は少数民族が多く、中国政府が貧困対策重点県に指定している県である。両県は農業生産の90%が水稲とトウモロコシである。共にカルスト地形の険しい山岳地帯で平地が少なく、作物の生産高が少ない地域である(写真1)。雷山県の村は平地に農作物を作付けするため、住居は急勾配の傾斜地に建設するなど、厳しい環境の中にある(写真2)。
  実施にあたり、ジョイセフはプロジェクトの農村住民の現状や健康状況などを知るため、南京人口学院の協力を得て2006年に両県の住民意識調査を行い、「基礎調査報告」(2006年発刊・A判・138頁)をまとめている。この報告書によると道真県の農民一人当たりの年平均純収入は約1,680元(当時の1元は約15円)、雷山県は1,600元で、全国平均3,255元の約半分と低い。
  2006年以前三年間の二県合わせた平均家庭年収は「年々減少」が14.4%、「毎年ほぼ同じ」は36.6%、「不安定」は34.9%と報告されていて、この数値からもプロジェクト住民の貧困さがうかがえる。

 

各専門家の活動

 

 プロジェクトは三つの活動を核として実施された。その特徴は健康教育から「家庭保健活動」を展開し、この活動から住民の「生計能力の強化」と「住民の組織化」を包括的に組み合わせ、住民を貧困から脱出させることを目的としているもので、単に物資の提供や施設の建設を行うプロジェクトではない。プロジェクトでは医療や農業などの指導者への研修を行い、各専門家はこの研修員と郷・鎮・村に入り、住民と共に活動した。
 各専門家の基本活動は現地の状況に合わせて、今までに日本が経験した地域保健の取り組みや農村で実践してきた生活改善の方法、農業や畜産で収入を向上させるためのアイデアや技術を指導者と住民に移譲することである。

 

①生計能力の強化

 「生計能力の強化」を担当する専門家は、住民に農業や畜産の技術指導研修を行い、農業生産物の生産を望む農家には豚や牛などの生産資材を購入貸与して生産活動を支援した。支援した農家から回収した資金を次の農家に貸し付けるリボルビングファンド手法で住民の生計を援助し、農家が自立するための協業体制として整備した。

 

②住民の組織化

 「住民の組織化」を担当する専門家は、養豚合作社、野菜栽培協会、文化芸術協会などの設立支援を行い、協業体制を組織化し、組合化を目指す支援を行った。さらにこの組織化の事例に学び、住民が世帯同士で住民組織を作り、自分たちの地域を自ら活性化させることを実践した。

 

③家庭保健活動

 「家庭保健活動」を担当する専門家は、学校を核として児童に検便を含む寄生虫予防や広報教育を行い、住民には婦人科検診を含む健康診査や健康教育を行って保健サービスを実践した。地域の衛生環境を変えるために手洗い場(写真3)とトイレを建設したほか、住居地の近くに衛生的な飲料水を確保するため、貯水槽を山の中腹に建設し、村まで水道管を敷設した。家庭保健の研修を受けた研修員は住民に健康教育集会を実践し、家庭保健の啓発を行った。

 以上がこのプロジェクトの特徴と内容であるが、筆者はこの「家庭保健活動」の中で、「健康は貧困を救う」をコンセプトにジョイセフの本間由紀夫氏と共に教材制作のワークショップ(写真4)を開催し、ここで制作した教材を使用して、研修員が住民へ広報教育をできるように研修を行った。以下、その活動を報告する。

 

教材制作ワークショップ

 

 

▼貧困地区と教材


写真4 掛図と解説書を検討する
(右から2人目ジョイセフ本間氏、3人目筆者)

写真5 コーラオ族の村で講話する研修員(道真県)

写真6 ミャオ族の村で講話する研修員(雷山県)

 「教材」といっても私たちが使用している教材の種類は数多くある。このプロジェクトでは、派遣期間が短いことや地域の特性と教材事情を考え、筆者が2004年に貴州省三都県で行った掛図の制作経験を活かし、教材制作のキャラクターを「掛図」に決定した。
 掛図は識字率が低い住民にイラストでも理解してもらえることや、場所を選ばず電気を使用しないことなど、このプロジェクト地区に適していると考えた。持ち運びが容易で集団と個人指導に活用できることや、身近にある文房具で制作できるため制作費が安いことなどから、地域の指導者にとっても受け入れやすい教材である。

 

▼家庭保健教材制作研修の開催

 研修員の教材制作のテーマは、「生計能力の強化」「住民の組織化」「家庭保健活動」で、同じく各掛図の解説書を制作することである。
両県の研修員の職種は、県レベルは、母子保健、農業、牧畜、医療を担当する者。郷・鎮レベルは行政、計画生育(家族計画)、衛生院、農業、牧畜担当者。村レベルはモデル村の村長などで住民を指導する立場にある者である。
 ワークショップは五グループに分け、現地の美術教師など4~8人がスタッフとして参加した。制作に必要な用紙、油性マジック、掛け軸などのパーツや資材は日本から持参し、中国語の参考図書は北京の書店で50冊ほど買い集めた。
 研修員の要望で三年間に制作した掛図のテーマは家庭保健、生計向上、生活改善、一村一品、婦人病予防、児童保健、寄生虫病の予防、母子保健、入院分娩、バイオガスプラント、生態農業、トイレ・飲料水改善、リボルビングファンド、村民組織化、組織育成などで、三年間に制作した掛図の種類は30本、約300枚であった。
 制作した掛図は十分な専門知識を持っていない研修員も活用するため、掛図の内容を正しく住民に伝えるための解説をセットで制作した。研修員はこのセットの複製と、掛図を制作するため、用紙などの資材一式を自分の地域に持ち帰った。複製したセット数は51本である。

 

▼研 修 の 内 容

 ワークショップは道真県と雷山県で開催し、概ね掛図と解説書の制作に三日間、住民集会の実践に二日間、掛図の複製に一日間のスケジュールで開催した。全員が初めての経験であり、企画は滞ったが、制作のプロセス、ポイントを説明し、グループに介入して問題を解決した。グループの問題と解決を全員で共有するため、中間発表を取り入れたのは効果的であった。
 掛図の解説書はいわゆるパンフレットの記述部分にあたり、住民に伝える掛図の説明は講師を担当する人によって違うことがあってはならない。誰が活用しても正確に伝わるこの解説書を利用することで、講師の技術や知識のレベル格差を埋めることができた。
 村で行う集会を想定し、何度も繰り返すリハーサルで、研修員のパフォーマンスが向上していくのを実感できた。

 

▼住民集会の実践

 プロジェクト地区にはバスをチャーターし、山岳道路を走り移動した。住民への広報活動は初めての経験であったが、「はじめて聞いた」「また聞きたい」「ためになった」など住民が喜ぶ声に、研修員は広報教育活動の必要性を感じ、モチベーションが次第に高まった。終了後研修所での反省会で話し方のチェックや掛図と解説書の訂正を行い、次の住民集会に備えるといったスケジュールで、充実した実践活動であった。住民への集会を実践した数は述べ十八地区である(写真5・6)。

 

▼広 報 の 課 題

 たとえば広報物で経費がかからず手軽に使用できるものは、一色刷りのリーフレット形態などであるが、これを印刷するためには大量に印刷できるコピー機や輪転印刷機などが必要である。道真県と雷山県のプロジェクト地区に印刷物が手軽に作成できる環境があるかは、今後の広報活動に重要であるため、どのような印刷機(所)があるのかを研修員に取材した。
 両県に共通することは、①村レベルにおいては印刷機がないこと。②白黒コピー機は鎮政府にあるのみでカラーコピーはないこと。③県内には印刷機があるが全戸世帯すべてに配布するだけの印刷能力がないこと。④学校においても教師が作った印刷物を生徒や家庭に配布したことがないこと。⑤コピーなどは経費が高い-など、現在プロジェクト地区は軽印刷物であっても印刷することができない状況で、大量の印刷物を用いる住民への広報活動ができないことがわかった。

 

ジョイセフと本会の活動経験を活かす

 

このプロジェクトには「健康教育」の概念が取り入れているが、これはジョイセフが長い間中国支援を行ってきた経験から考えられたプログラムであり、中国政府やJICAから高い評価を得ている。広報活動は地味な活動であるが、啓発活動には重要である。
 このプロジェクトで試みた、住民の中に介入しながら住民とともに展開するプログラムは広報教育として効果的であった。また各専門家の活動するプログラムには日本の経験が活かされ、住民に受け入れられている。
 本会は設立以来地域の指導者が求めるいろいろな教材を開発し、提供してきたが、本会の長年培った経験はプロジェクト地区で活かすことができるものであった。(櫻田忠宏)

 

編集帖
▼「あなたは中学生のころ、朝食をとりましたか」。この質問がこれほどの論議を巻き起こそうとは、調査を担当した筆者も想像つかなかった。中学生のころ、朝食を食べなかった人の初交年齢は早まるというものだ。
▼厚生労働科学研究の一環として昨年9月に全国で実施した「第四回男女の生活と意識に関する調査」の目的は人工妊娠中絶の減少要因を探ることにある。特に若い世代ではわずかな期間でも性交開始時期を遅らせることで結果として妊娠のチャンスを減らせるのではないかとの仮説が立てられた。それを実証するために、既に性交を経験した1029人について、いろいろな条件下での初交年齢を計算した。
▼朝食と初交年齢との関係では、「毎日食べた」19.4四歳、「だいたい食べた」18.3歳、「あまり食べなかった」18.1歳、「食べなかった」17.5歳。統計的に有意な差があることは明らかだが、「朝食を食べないこと」と「性交開始年齢が早くなること」とをどう関連づけるか頭を悩ませることになった。
▼「(中学生のころ)朝食を食べない」には、忙しくて朝食を作れないなど親の問題、夜更かしが過ぎて目覚めが悪く食べられないなど子ども自身の問題、親と子の関係性の問題などさまざまな理由があるはずで、一概にこれだと結論づけられないのは当然である。
▼しかし、ネット掲示板では、「二つの事象はストレートに因果関係がある」と曲解した人も多く、「中学生のころ、朝食なんか食べなかったのに30歳を超えた今も童貞なのはどうしてか?」「セックスを早く経験したいから朝食を食べないことに決めた」「食事とセックスを関連づけようという無謀さ」と書き込まれる始末。アンケート調査結果の扱いの難しさを痛感させられた。(KK)
  • 保健指導用教材・備品のご購入(保健指導マーケットへ))
  • セミナー・研修会情報
  • スマートフォンサイトへ
  • カタログ
  • #つながるBOOK
  • 指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)
  • 防ごう!まるとり マルトリートメント
  • 2021年度版『最近の母子保健を取り巻く状況』
  • 日本家族計画協会 主催セミナー
  • 葉酸Plus
  • リューブゼリー
  • メノケアモイストゼリー
  • JEX SEX SURVEY 2020
  • 健やか親子21×鷹の爪団 みんなで子育て大作戦
  • 個人のお客様へ
  • メールマガジへの登録・解除はこちら
  • 思春期・FP相談LINE(ライン)
  • 不妊・不育ホットライン
  • 研究倫理審査を希望される方へ
  • Dr.キタムラのJFPAクリニック
  • JFPAウーマンズヘルス
  • JFPA U-com
  • 株式会社日本助産師会出版
保健・医療・福祉・教育関係者向け情報