機関紙

【第662号】 平成21年5月1日発行(2009年)

2010年01月 公開

5月号の目次

編集帳

・平成21年度 本会事業計画の概要
本会若者委員会(U―COM)の活動
ジェンダーとピル ―経口避妊薬の過去・現在・未来―
・母子保健推進のために~佐倉市の取り組み~
・第1回「健やか親子21」の評価等に関する検討会
思春期はいま ―思春期保健相談士への期待―③

 

 

 

経口避妊薬の過去・現在・未来

 

「ジェンダーとピル」

本会常務理事・クリニック所長 北村 邦夫

 

●女性の活躍度とピルの関係

 

表1 GEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)上位10ヶ国(93カ国測定)

「人間開発報告書2007/2008」(UNDP:国連開発計画)

 


「人間開発報告書2007/2008」(UNDP:国連開発計画)、
「国連 世界の避妊法選択2007」
図1 GEMと低用量経口避妊薬(OC)使用率との関係

 
表2 刑法(明治40年4月24日)

 
表3 低用量ピルについての女性の認知度

「第4回男女の生活と意識に関する調査」2002、2004、2006、2008
 

 国際的にジェンダーの問題を評価するジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)というのがあります。具体的には、政治における参加と意思決定力、そして経済活動における参加と意思決定力、経済資源に対する力。政治の部分では、国会議員に占める男女の比率を指標にします。経済活動では管理職、専門職、技術職に占める男女の比率を指標にします。経済資源では、男女の推定勤労所得を指標にします。
  まさに女性の活躍の指標となるわけですが、1位がノルウェー、2位がスウェーデン、そして54位が日本。決して誇るべき状況にないというのは、お分かりいただけると思います(表1)。
  私がライフワークとして取り組んでおります、確実な避妊法の提供。最近では経口避妊薬、OCともピルとも言いますけども、その副効用が、日本の女性たちのQOLを高めるのに、非常に大きな役割を果たしていることを確信しています。
  ジェンダー・エンパワーメント指数と、低用量経口避妊薬との関係はどうなっているのか、興味を持って並べてみました。ジェンダー・エンパワーメント指数が高いところはピルの使用率が高いという結果を得て、愕然としました(図1)。

 

●日本に残る刑法「堕胎罪」

 

 日本での話題を中心に過去、現在、そして未来という視点から、「ジェンダーとピル」をテーマに取り上げてみようと思います。
  さて、一例を挙げれば刑法です。明治40年4月24日に制定されました。同意堕胎および同致死傷など、という項目を見ますと、212条に「妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により、堕胎したときは、1年以下の懲役に処する」。213条には、「女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた者は、2年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させた者は、3月以上5年以下の懲役に処する」とされています(表2)。
  妊娠は、間違いなく男女の性行為の結果であるにもかかわらず、男性はその罪が問われない。これが日本の、まさに、このジェンダー問題に象徴される法律の一例だと思われます。

 

●避妊指導を始めたサンガー

 

 二十世紀の初頭のことです。ニューヨーク市の貧民街で生活していた女性たちは、キリスト教の熱心な米国にあって避妊が許されていない。そのために次から次へと子どもを産むのですが、子どもが育たない、子どもが亡くなる。結果的には貧困という負の連鎖が起こっていました。そういう状況を見かねて動き出したのがマーガレット・サンガーでした。
  サンガーは国際家族計画連盟の創立者でもありますが、意図しない妊娠と出産が、どれほど女性を絶望の淵に追いやってきたのか、男性支配を許してきたのかと、メッセージを送るわけです。しかも、「神様なんかいない」と。避妊指導だけではなく避妊法を提供するとコムストック法という法律によって裁かれる。そのためサンガーは繰り返し投獄されました。

 

●より確実な避妊法の開発

 

 投獄されてもなおサンガーは、女性がその場で行う避妊法、例えばペッサリー、コンドーム、日本では腟外射精より、もっと確実な避妊法、男性に支配されない避妊法を提供しなくてはいけないと強く願っていました。
  幸運な出会いは間もなく訪れました。1950年、ニューヨーク市で開催された晩餐会には、「ピルの産みの親」と呼ばれるグレゴリー・ピンカスが参加していたのです。妊娠中にはホルモンの値が高いレベルを維持し、それが結果として排卵を誘発しない、排卵を起こさない。重箱妊娠はないわけですから。彼は、動物学者の立場、あるいは動物の卵を扱う立場から、この方法が確実な避妊法に使えるのではないかということになりました。

 

●日本では導入が遅れたピル

 

 1960年にアメリカで初めてピルが承認されたわけですが、その当時から産婦人科の学者たちが、日本でも「ピルの導入を」と考えていました。具体的には1965年ごろには、ホルモン用量の多いピルが承認されるはずだったのです。
 1965年3月27日、日本産科婦人科学会内分泌委員会は、過去三年間の結果をまとめて、「ピルは使用を慎重にし、医師の指導、監視下で用いられれば十分使用にたえる」と主張し、これを受けて厚生省(当時)は、その七月に承認を前提とした、新医薬品部会を開始することとしていました。しかし委員だった松本清一本会会長の話によれば、前日、突然連絡が来て、この会議は中止になったというのです。
  また、中ピ連(中絶禁止法に反対し、ピル解禁を要求する女性解放連合)なども、ピルの問題と深くかかわっておりました。1972年に結成されましたが、これが日本のピルに対して、大きなマイナスイメージをつくってしまったと言われています。
  さて、1994年9月24日から30日まで、アメリカに渡った私は、マーガレット・サンガーセンターのマンハッタン診療所などを訪問。松本会長も同行し、マルコム・ポッツ、ロックフェラー財団科学部長のシンディング(当時)、マーガレット・サンガーの孫であるアレックス・サンガー、そしてコロンビア大学のアラン・ローゼン・フィールド先生などにお会いしました。

 

●「カイロ会議報告会」で発言

 

 アメリカから帰ってくる飛行機の中で、私は朝日新聞に、NGO「女性と健康ネットワーク」が国際人口開発会議(カイロ会議)の報告会を開催するとの記事を見つけて、その会場に直行しました。女性性器切除など途上国の女性たちの健康が脅かされている様子などが報告されていましたが、私は居たたまれず次のように発言したのです。「ちょっとお待ちください、皆さん。あなた方の足元を見てほしい。アメリカでは1960年に承認されたピルが、まだ自分たちの手元にないことを、どう思うのか」と。
  私はピルが、日本の女性たちのQOLを高めるのに大きな役割を果たすことを、さまざまな世界の経験と、私自身のクリニックにおける経験から確信し、疑う余地がなかったのです。

 

●ついにピルが承認、発売へ

 


図3 OCの売上動向と人口妊娠中絶実施件数の推移
 

 1994年、「ピル使用の早期認可を望む」と、朝日新聞「論壇」に投稿させていただきました。1997年、「対立討論」というのが読売新聞に出たときに、私はピルの、いわゆる推進派という立場で登場しました。その後、私の顔写真に赤でバッテンが描かれたものが手紙で届けられるという事件もありました。ピルを使うことで女性が自立することを恐れた方々からのものだと思われます。
 1999九年1月5日、バイアグラは申請から半年の異例のスピードで承認されたにもかかわらず、ピルの承認は先延ばしにされたままになっていました。ここに、ジェンダーとピルの問題を感じませんでしょうか。
  長い鎖国を終え、1999年6月16日承認。9月2日発売。私たちは遂にピルを手にすることなりました。そのためにお力添えをいただいた方々、日本の女性たちのQOLを高めるために闘ってくださった方々、既にお亡くなりになった方々を含めて、先輩たちに心からの感謝を今、表したいと思います。

 

●ピル発売後にも起こる論争

 

 しかし、その後も日本ではいろいろ続きます。2005年のことでした。自民党の部会では、過激な性教育・ジェンダーフリー教育に関する実態調査を行いまして、そこでこういう質問が書かれるのです。「ピル(WHOで十代の服用は禁止)の服用をすすめるような教育」云々。
  WHOではそんなことを言っていない。故・坂元正一先生、そして松本清一先生、近藤潤子先生、故・黒田俊夫先生の連名で、「誤りがある、国際的に見て恥ずべきことだ」と要望書を書きました。それを持って、安倍晋三幹事長代理(当時)に要望書を提出し、三日後、WHOの部分は削除されました。
  しかしその直後に、過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウムがありました。東京都議会議員からの驚くべき発言を、私はそのときに、会場で耳にしましました。「過激性教育は左翼グループ、エイズ予防にかこつけたコンドーム派、ピル派がひとつになってやっているものだ」と。
 2005年5月11日には参議院少子高齢社会に関する調査会に招かれました。依然として根強いピル批判が渦巻く中、
  「若者に大人びた行動がある以上、これに伴う性感染症予防や、あるいは確実な避妊法の提供は、社会の、あるいは私たち医者たちの大きな責任ではないかと思います」と発言しました。

 

●高まるピルの認知度と評価

 

表4 現在服用している女性にとっての低用量ピル(%)

 2006年1月、武谷雄二日本産科婦人科学会理事長(当時)の下、「低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン」が改訂されました。ピル承認当初に出されたガイドラインは使い勝手が悪かったのですが、今ではピル処方に際しては問診を重視し、血圧測定を必須とするという方向が定められました。
  「第四回男女の生活と意識に関する調査」の結果からも、低用量ピルの認知度が年々高まっていることがわかります(表3)。
  さらに各社から寄せられたピル売り上げのデータ。それを見ますと、前年比15―17%ほどの売り上げ増があります。しかも低用量ピルの売り上げのレベルを、2000年度を一としたときに、明らかな増加を示し、さらに人工妊娠中絶実施件数を並べますと、きれいな逆相関を示しています(図3)。
  女性たちも低用量ピルの避妊効果だけではなく、月経痛の緩和や周期調節、貧血予防などの副効用に対して高い評価をし始めています(表4)。

 

●女性のGEM向上のために

 

 2008年9月に調査したばかりの全国調査では、現在ピルを使っている女性は3%。推計 82万3千人に相当します。そして、実は累積ですが、将来使いたいが今使えないという人を見ますと、527万 5千人います。
  私の夢は、「使いたくない人にもピルを」ではありません。使いたいが、まだちょっと不安がある人に対し、私たちが十分に確実な科学的・具体的な情報を提供して、安心して使えるような環境をつくる。これが私の夢です。
  わが国におけるピルの普及は、私の悲願であり、女性たちへの愛だということを申し上げ、日本の女性たちに向けて、ジェンダー・エンパワーメント指数の向上のため、ピルを有効に使ってほしいということを私の結論といたします。

   ***

※本稿は、昨年11月5日~7日に浦安市で開催された、第49回日本母性衛生学会学術集会の会長講演の要旨をまとめたものです。

 

 

編集帖

▼わが国の貧困問題は1990年代から問題視されていたが、国民がその現実を初めて認識したのは昨年暮れから正月の「年越し派遣村」報道である。そこには失職した多くの男性の姿が映し出されていたが、雇用悪化の影響を最も多く受けたのは、そこに登場しなかった非正規雇用の七割を占める女性たちである。
▼2006年の国税庁の調査によると、年収200万円以下で働く労働者は 1023万人で、その 74.2%は女性という。その中にはパート労働者も多数含まれるが、若い夫婦、中でも母子家庭の貧困がより深刻である。わが国の諸制度は「標準世帯」という考え方のもと、夫婦と子どもを単位とした「家族」を基本とする社会政策が今なお採られている。ゆえにこのあり方を外れた母子家庭は、様々な面で不利な立場に追いやられている。その結果わが国のひとり親家庭の貧困率はOECD加盟国中最も高い。
▼貧困とリプロダクティブ・ヘルスに係る米国の研究では、貧困は低体重児の出生と関係し、乳幼児期の身体的・精神的発育に深刻な影響を及ぼす可能性が高いという。母子家庭の調査では、経済的な困窮は子どもに影響を与え、学校の中退、望まない妊娠や出産を高めるとの報告がある。
▼わが国は米国の経済及び社会の変化を後追いしている面がある。既に米国で広まっている貧困の世代間連鎖がわが国でも定着し始めており、その結果、生まれた瞬間に子どもの持つ様々な可能性の芽を摘んでしまう社会へと変わりつつある。
▼政府が真に次世代育成支援を掲げるのであれば、税制や社会政策など統一の取れない施策が貧困世帯を増やしている現実を直視し、子どもたちが未来を描ける統一的施策を通じて、明日の日本を支える子どもたちを育てるべきである。(HK)

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