機関紙

【第665号】 平成21年8月1日発行(2009年)

2010年01月 公開

8月号の目次  

編集帳

・経済危機とお母さんの命 2009年「世界人口デー」記者会見 開催
・思春期のたばこ環境
思春期の性教育のポイント ~新しい性のカウンセリング法の開発研究より~
シリーズ「子育て支援」③「ワクワク巣立ちのすすめ」
・「22q11. 2欠失症候群」への理解を  遺伝カウンセリングリフレッシュセミナー開催
思春期はいま ―思春期保健相談士への期待―⑥

 

 

  

思春期の性教育のポイント

新しい性のカウンセリング法の開発研究より

研究チームリーダー=長池博子 共同研究者=高林俊文、宗像正徳、山本光璋

 本稿では、平成16-20年度文部科学省学術フロンティア推進事業「五感を介する刺激測定に基づく健康向上のための人間環境システムの構築」(代表研究者=萩野浩基東北福祉大学学長、東北福祉大学感性福祉研究所所長)の一環として分担研究した「新しい性のカウンセリング法の開発研究」から、とくに思春期の性教育について紹介する。
(本会理事・長池産婦人科名誉院長・長池女性健康相談所所長 長池博子)

表1 SWC元気点検標詳細版項目文一覧表 V2008-3V/2009-3

▼はじめに

 本研究における新しい性のカウンセリング法は、「健康」や「福祉」などの用語によって表現される人々の幸せは、負の状態が解消されることで完結的に達成されるものではなく、より積極的に「生きること」の質の向上が基本になければならないという理念に立っている。
  全国民が「セクシュアリティと生殖」の問題を潜在的に抱えていることは歴然としていることから、この問題を国民全体の土俵に上げることで、「性」がもっとオープンに論じられることによって、カウンセラーに対しては、ネガティブな視点の知識を背景に持ちながら、ポジティブな視点に立った創造的な「助言」が具体的に求められるようになると思われる。

▼思春期教育の重要性

 先手必勝という言葉があるが、情報も然りである。
  近年性行動が低年齢化したことによって知識がないままの無防備な性交が増えている。従って無計画な妊娠や性感染症もまた増加傾向にある。
  家庭で親の教育力が低下しているので、子どもたちは何より先に友だちやマスコミの商業的、興味本位な情報に振り回されている。子どもたちに性に対する価値観を早期に取得させることが望まれる。
  その対策として重要なことは、まず大人社会の性に対する態度、価値観をポジティブに是正することである。健康教育の中に年齢にふさわしい性教育を組み入れて、男女の生理的性差を理解させ、家庭でも学校でも大人(親も教師も)が性の価値観を共有し、子ども社会との信頼をつくることが早急に重要なことである。
  以下に、思春期の性教育の重要なポイントを述べる。

【初交体験の不安】

 初めての性交体験はその人の一生に影響するといっても過言ではない。男性は思春期になると性ホルモンによって性衝動が起こるといっても、ほとんどの人は女性に対する科学的な知識も十分ではなく、まして彼女との愛情や信頼感というコミュニケーションがよく取れていない場合は不安を抱いていることが多い。性体験にとって不安感や、恐怖感のような心理的な緊張感をもつことは望ましくない。女性の場合は過度な情報によって性交をロマンティックに考えているが、期待はずれのことが多いのではあるまいか。女性もまた男性の生理をよく知らず、嫌われたくないという心理で性交を受け入れるならば満足は得られないであろう。
  最近のデータでは、女性の初交年齢が低年齢化しているが、女性が性交を早く体験してもメリットは何一つないことを知らせなければならない。男女共に性交が素晴らしいことを知るためには、愛情と信頼感、安心できる環境が大切なことを学ぶことが重要である。

【妊娠・性感染症】

 思春期の若者たちが性交を体験するに当たって、妊娠のしくみと性感染症についての知識は絶対に必要である。ひとりで妊娠することはできないからこそ、男女のコミュニケーションが必要であり、愛情ある性交(受精)によって生命が創られることを認識してほしい。男性は妊娠させる性、女性は妊娠する性なのである。妊娠すれば女性は宿した生命に対して責任を持たなければならないし、男性も出産後は女性と共に児に対する養育の責任があるのである。
  性感染症についても性器を介しての感染であるから双方に責任があり、各人の生涯の健康に影響する問題であり、人間不信の原因になる。知識を共有し、治療する場合はお互いに同時に完治する必要がある。

―予防教育―

  妊娠はあくまでも男女の合意により、家族計画の下に受胎調節によって妊娠するものでありたい。受胎調節とは妊娠しないことではなく、家族にとって相応しい条件の下で(経済的、人数的、環境的に)望ましい数の子どもを、望ましい間隔で妊娠、出産することである。そのために必要な知識が避妊であり、現在世界的に最も推奨されているのが経口避妊薬である。しかし、日本では経口避妊薬の正しい知識の普及が遅れており、且つ誤解もあるので、今後の周知を期待したい。
  性感染症はコンドームを正しく使用することによって予防することが出来る。これも大人が恥ずかしがらずに、健康を守るために科学的に早期に指導することが重要な予防教育である。

【人工妊娠中絶】

 無防備な性交で妊娠した場合や、産むつもりで妊娠しても、事情が変わった場合など、出産が不可能になった場合の最終的選択肢として人工妊娠中絶という方法がある。
  これは「母体保護法」という法律で決められていて、身体的、経済的理由によって人工妊娠中絶が一定の条件下で許されている。日本では明治以来の刑法の中に堕胎罪という項目があって、手術を受けた女性と、手術をした医師が刑罰を受けることになっていたので、戦後「優生保護法」が制定された時に、従来の堕胎罪をカバーし、時代に沿ったものにした経緯がある。さらに平成八年「優生保護法」が「母体保護法」に改正されている。
  世界的にも、身体、宗教、経済、慣習などの様々な価値観に左右されているが、人工妊娠中絶は決して望ましい手術ではなく、望まない妊娠をしないための予防教育は国際的に是非とも重要と考えられている。

▼「SWC元気点検票」

 医学の進歩に従い、疾病治療も飛躍的に進歩はしているが、予防医学もまた進歩している。しかしこれはあくまでも疾病を予想しての守りの考えであるので、それ以前の問題として個人の健康管理の意識すなわち攻めの姿勢が問題である。
  とはいっても従来基準とする指標(スコア)がなかったので、東北福祉大学感性福祉研究所における平成16-20年度文部科学省学術フロンティア推進事業「五感を介する刺激測定に基づく健康向上のための人間環境システムの構築」と称する研究の一環として、「SWC元気点検票」が創案された(表1)。
  本票では、生活習慣を「食」「息」「眠」「温」「動」「想」「人との愛情ある接し方」「社会・自然環境」「安心」の九つのカテゴリーに分けた。アンケート形式になっているので、一度試みてみると健康的な生活習慣の知識や常識が身につくようになっている。ここでは「性」に関する点検・評価項目を「人との愛情ある接し方」のカテゴリーとして入れている。具体的には、次の七項目を入れた。

62.「家族に心くばりしています」
63.「責任ある性行動をとっています」
64.「スキンシップの愛情表現をしています」
65.「家族やともだち等から愛情を受けています」
66.「異性に対する性的な感情を持っています」
67.「祖先を敬い子どもを愛しむことは大切だと思います」
68.「人との愛情ある接し方の現状に満足しています」

 これらの項目については、将来を担う若者にとって重要と考えるので「SWC元気点検票活用ガイドブック2009」(※注)を是非参照され、実施することを推奨するものである。

▼若者へのメッセージ

 以上を踏まえ、以下に若者へのメッセージを示す。

【男子の皆さんへ】

 男性の性機能は、加齢に従って徐々に衰退はするが、造精機能は生涯続くので、男性は死ぬまで生殖能力があるわけである。それ故に男性は若い時から性行動には責任を持つことが非常に重要で、一生を左右することも考えておかねばならない。また、パートナーである女性が抱えている「性」の諸々の問題に、深い理解と思いやりの心を持ち続けてもらいたい。
  男性の更年期は、女性のように顕著ではないが、定年を迎えて社会的存在感が希薄になり、仕事に生き甲斐を感じなくなった頃に現れることが多い。身体的には前立腺肥大が比較的多いが、前立腺がんも見落としてはならない。胃がんも女性よりは男性に多く、近年肺がんの増加が見られるので、がんの検診が必要である。
  一方、ポジティブな視点に立ったときには、若いときから、心身ともに健康的な生活習慣を身に付け、学業はもとより、ボランティア活動など、積極的に社会参画にもチャレンジし、多くの人々とのネットワークづくりをして、夢と希望の持てる創造的な未来社会の構築に努めてもらいたい。奉仕と仲間づくりをすることによって、人生最後まで「攻めの姿勢」で生きられるのではないだろうか。

【女子の皆さんへ】

 女性は思春期になると月経が始まり妊娠ができるように準備される。また、思春期になると自分の姿、形などの外形を気にするようになる。女性は男性よりもロマンティックな感情を持ち、相手を傷つけまいとする傾向がある。しかし女性にとって、SEXの経験が早いことは何のメリットもないのである。性的対象であることから離れて、情緒的にも知的にも自尊心を忘れないことである。
  女性の生殖可能な期間は約40年間なので、平均50歳で排卵と月経は止まり(閉経)、生殖能力はなくなる。女性として妊娠・出産の充実感と、育児の感激は是非体験して欲しいと思う。しかし、妊娠を望んでも、不妊症と言われて妊娠できない人もいる。医学的に不妊症の治療はかなり進歩しているが、従来、不妊症は女性に原因があると考えられ、家族的、社会的に「女」でないと烙印を押されてきたことが問題なのである。男性の不妊症もあるので、医学的検査を受けて納得のいく人生を送ってほしい。
  近年女性の社会進出が多くなって、女性が経済力を持つと、往々にして男性とのコミュニケーションを煩わしく思う傾向がある。しかし、女性はホルモンの変動があるために、更年期になると人によっては心身ともに不安定でいろいろな悩みを多く抱えることもある。パートナーとの信頼感や愛情ある、良いつながりを持つことがこの時期はとくに大切になってくる。
  それに加えて、女性にしかできない、あるいはない、特権を持っていることをポジティブに評価し、それを日常生活の中で活かしながら、しかるべきときに積極的に愛情を共有できるパートナーを得ることは非常に大切なことである。そして、共に手を携えて創造的で豊かな人生を送ってほしい。

 性教育は人間関係の教育とか、コミュニケーションの教育といわれている。識字率の高い日本なのに、なぜ性に関する教育のみが従来型なのか?
  異性に対して性的な感情を持つことは自然であり、年齢に関係なく正常なことである。また異性にしろ、同性にしろ、人間関係を成熟させるためには、相手の長所を学び、我慢しあって関係性を育ててゆくことが大切である。家庭で、学校で、社会で、即ち大人の性に対する姿勢が若者に投影し問われているのである。
  1994年、エジプトのカイロで開かれた国連人口開発会議でリプロダクティブ・ヘルス/ライツが世界的コンセンサスとなったが、「セクシュアリティと生殖」の問題は今や急速に進む少子高齢社会の日本において最優先課題であることを提起したい。

~・~・~

※注「SWC元気点検票活用ガイドブック2009」問合せ先=東北福祉大学感性福祉研究所 Tel:022(728)6012

 

 

 

編集帖

▼英国国営放送など国内外のメディアが居並ぶ中、シャンパンが開けられ乾杯。1999年6月16日、米国から遅れること40年、低用量経口避妊薬(ピル)が承認された日の出来事である。承認までの道のりも並外れて長い時間を要した。
▼製薬企業各社がピルの臨床試験申請書を提出したのが87年1月。それを機に治験が始まり90年7月以降、随時承認が申請された。しかし、そろそろ承認かと思われた92年3月18日、読売新聞の一面に「エイズ蔓延を懸念してピル解禁を凍結」という記事が載った。筆者がピル問題に巻き込まれた日でもある。コメントを求める電話が入り、「エイズとピルを関連づけて、認可を遅らせるなんて論外」と答えたのを昨日のことのように覚えている。
▼その後、92年4月、本会医学委員会(当時)は、ピルとエイズ予防は別問題と訴える見解を発表。93年5月、96年2月と、「低用量経口避妊薬の使用に関する要望書」を厚生大臣(当時)に提出している。その一方で、「ピルの成分が環境を破壊させる」「ピルの普及で少子化が一段と進行する」などエビデンスを欠くだけでなく感情的な議論が次々と起こり、我々をやきもきさせた。あえて「感情的な」と書いたのは、新薬の審議とはその安全性と有効性を議論すべきだからだ。その間にも中高用量ピルが医師の判断と責任で処方され続けてきたのだから何をか言わんやであった。
▼ピル承認から早十年が経過した。筆者らが実施した「第四回男女の生活と意識に関する調査」によれば、生殖可能年齢女性の3.0%、82万3千人が「現在ピルを服用している」と推計される。日本人女性が手にしているピルには、このような先人達の戦いの歴史があったことを忘れるわけにはいかない。(KK)

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