機関紙

【第686号】 平成23年5月1日発行(2011年)

2011年05月 公開
5月号の目次
編集帖
・平成23年度本会事業計画の概要他
・タバコの害から子どもを守る<2>
亡くなっていく赤ちゃんと家族のケア

・プチママサロン ~10代で妊娠・出産したママのための子育てサロン~

・EBMで解き明かす「子宮頸がん予防とHPVワクチン」Q&A

避妊教育ネットワークトークリレー<14>よしの女性診療所(東京都中野区)院長 吉野 一枝

 

 編集帖

 

▼3月11日に発生した東日本大震災は世界的に類がないほどの大惨事となり、国内外の経済にも大きな影響を与え、福島原発事故の地球環境への悪影響も心配されている。

▼大地震の惨状は発生後瞬く間にインターネットで世界に広がり、支援受け入れ態勢が整う間もなく各国からすばやく支援の手が差し伸べられた。国民は「被災者のために何かできることはないか」と一つになり、様々な支援活動が続き力強さを感じる。

▼リプロダクティブ・ヘルスを推進する本会はジョイセフ、日本助産師会と協力し、女性と妊産婦を支援するため募金と物資の支援を始めた。過去の大地震の経験でも女性への支援物資が後回しになったことから、「女性と妊産婦」に焦点をあてた。

▼被災地の支援窓口の担当者には男性が多く、当面緊急の衣食住の対策に翻弄される。女性の必需品である月経用品や下着、乳幼児の粉ミルクやおむつなどのニーズまでは気が回らず、見過ごされがちだ。また、女性のプライベートな問題は、女性から男性に言いづらいこともある。女性用の支援物資を対策本部や避難所に持参しても、「要望がない」などとたらい回しにされることもあるようだ。

▼企業から集まった多くの支援物資はボランティアの手で仕分けられ、被災地の助産所や女性センター、保健所などに送られた。支援物資は被災地に出張したジョイセフのスタッフや助産師、ボランティアの手により多くの被災者に直接渡され喜んでいただいた。

▼ボランティアで単位取得ができるよう検討している大学もあるようだ。看護学生を含め、学生ボランティアには、リプロダクティブ・ヘルスの推進からも「女性や妊産婦の支援」を取り入れてほしいものだ。 (TS)

 

 亡くなっていく赤ちゃんと家族のケア

 

 流産・死産・新生児死亡に出会ったとき

聖路加国際病院 女性総合診療部 山中 美智子

「忘れ去ること」では癒されない
 生まれる前、あるいは生まれてまもなく赤ちゃんが亡くなった時、赤ちゃんの存在が短かった故か、その家族の悲しみは軽度であると思われがちです。周囲は赤ちゃんを亡くした家族を励まそうと「きっと今度は大丈夫」「次の子ができたら忘れられるよ」「またすぐに授かるよ」などと言葉をかけて来ます。が、もっと長じたこども、たとえば5歳のこどもが亡くなった時に「大丈夫、次のこどもができたら忘れられるよ」などと言うでしょうか?

 たとえ初期の流産であっても、月経が遅れて妊娠検査薬が陽性に出た時から、生まれてくる命を巡って家族の物語は始まっています。赤ちゃんが亡くなるということは、その赤ちゃんを巡る家族の未来の物語が失われてしまうことです。これは子宮外妊娠であっても同じこと。亡くなっていく赤ちゃんの家族のケアの目標は「忘れ去る」ことでも「リセットする」ことでもありません。悲しみに暮れる家族を励ますつもりの言葉で、家族の気持ちを封じ込めてしまって悲嘆の過程を十分にたどれなくしてしまわないようにケアをしていくことが必要です。

 事実わたしが医師になった頃には「母親は産後、精神的に不安定な時期だから、赤ちゃんが亡くなったことはすぐには知らせない方が良い」と言われました。今から思えば、その根拠は非常に希薄だったと思うのですが、当時は〝グリーフワーク〟という概念がありませんでした。赤ちゃんが亡くなって嘆き悲しむ母親を前に、実は医療者自身がどう接してよいかわからなかったのかもしれません。

お腹の中の赤ちゃんが亡くなる、赤ちゃんの病気がわかるということ
 「それまで我が子との対面を待ち焦がれ、陣痛すら楽しみに思えていた私は、突然出産の恐怖に襲われました。陣痛の痛みの恐怖、死んでしまった子がどうやって生まれてくるのだろうか、という不安。産んでしまったら、それが我が子とのお別れになってしまうという悲しみ。生まれた後の我が子の行方等、たくさんの不安と恐怖でいっぱいになりました」(『赤ちゃんを亡くした女性への看護』〈メディカ出版〉から抜粋)。妊娠30週を超えての死産を体験された方の言葉です。

 「亡くなった息子たちは確かにこの世に命を授かり、私も確かに出産したにもかかわらず、世の中では死産というと、まるで何もなかったような扱いにされてしまいます。退院して普通の生活に戻り、その現実がどれだけ辛かったことか」。「自分の体の中で起こった出来事を、いくら『あなたのせいではない』と言われても自分を責めずにはいられません。今でもその気持ちを拭うことはできません」とも書かれています。

 またお腹の中で赤ちゃんの致死的な病気を診断された方は「それまでの幸せな妊婦から一転し、『何が起こったのだろう』『私が害のあるものを身体に取り入れてしまったのだろうか?』『身体の負担になることをしてしまったのだろうか?』思いつくすべてのことで自分を責めました」と書かれています。

 産科超音波検査などの技術の進歩に伴って、まだ見ぬ我が子の命に関わる病気を診断されることが増えてきています。早産による未熟性故に赤ちゃんが亡くなることもあります。それでもまったく予期しないままに赤ちゃんが亡くなることも決してまれではありません。
 

   
   

 図1は、日本産科婦人科学会の周産期委員会のデータによる死産の原因です。これをみると常位胎盤早期剥離や臍帯因子などによる予測不可能なものや原因不明な例も少なくはなく、多くの家族が突然に家族の未来をたたれる事態に直面せざるを得ないことが推測されます。

死産時のケア
 お腹の中で亡くなってしまった赤ちゃんが生まれてくる時は、しばしば死後の変化が著しいことがあります。また、いわゆる外表奇形を伴っていることも多く、通常の赤ちゃんのイメージからは外貌の異なる赤ちゃんを果たして母親と面会させて良いものかと躊躇されることがあるかもしれません。そんなときにはどのような変化があるのかということとその理由、たとえば「お腹の中で亡くなってから時間が少したったので、皮膚が剥けてしまっていて痛々しく感じるかもしれません」などと説明をしながら面会していただくと良いかもしれません。また変形の著しい部分は帽子やガーゼで包んであげるなども痛々しさを和らげられるかもしれません。

 筆者の経験からは、赤ちゃんとの面会を拒絶する父親や母親は非常に少なく、赤ちゃんの変化や奇形そのものよりも、「ああ、こんなにしっかり指先まで身体ができていたんだ」とか「爪の形が父親そっくり」など、むしろ赤ちゃんを丸ごと受け入れながら面会されていることが圧倒的です。かつて言われていたように「こんな赤ちゃんを見たらショックを受けるに違いない」「産後の身体に障るから会わせない方がいい」というのは医療者の筋違いの勝手な思い込みだったと思います。

家族を支えるケア
赤ちゃんを宿していた母親は、自責の念に駆られがちで、想いを口にすることも難しいことが多く、孤立感を抱きがちです。また夫は妻とは異なる立場で悲しみを抱えながら、その表出がうまくできないことも少なくありません。特に日本人男性は感情を表出することを良しとしない風潮があり、赤ちゃんが亡くなった後もいつも通りに出勤していく姿に「夫は悲しくないのかしら?」と妻に思わせてしまっていることもあります。実は悲しむ妻にうまく声をかけられないままに悩みを抱えていたり、仕事帰りの一杯で悲しみを癒そうとしていたりするのかもしれないのです。夫婦の間で率直な気持ちを言葉にしないと、お互いの悲嘆の気持ちがわからないまますれ違いを生じていくという事態にも陥りかねません。

 また祖父母にあたる家族は、悲嘆にくれる娘や息子を見て「親としての辛さ」を抱えています。その辛さ故に時として、〝早く忘れなさい〟〝そんなに悲しんでいると赤ちゃんが成仏できない〟などという不適切な言葉を言ってしまうことがあるかもしれません。
 

   
 写真1 兄姉向けの絵本(表紙)  
   
 写真2 兄姉向けの絵本の中の一項  

  すでに上にお子さんがいる経産婦さんの場合、「上の子がいるんだからしっかりしなくちゃ」と言われて悲しみをしまいこんでしまっていたり、そのお子さんに赤ちゃんの死をどう伝えたら良いのだろうと悩んでいたりされることもあります。上の子にしてあげられたいろいろを亡くなった赤ちゃんにはしてあげられない……そんな思いから、上の子に愛情を注げなくなったと話された方もいらっしゃいます。

 一方で上のこどもはこどもなりに家族の雰囲気を察して心を痛めています。かつて筆者が勤務した神奈川県立こども医療センターではやはり赤ちゃんを亡くされたご家族の援助で、上のお子さんに説明するための絵本が作られました(写真1・2)。

 「○○ちゃんはどこにいっちゃったの?」という問いに「ずっと くものうえから?みんなのことをみているよ」「おほしさまに なっちゃったの」「おはかの?なかで?ねんねしているよ」などが挿絵とともに書かれていたり、「ぼくも ごはんを?たべなかったらしんじゃうの??いいこじゃなかったらしんじゃうの?」「パパとママが?ないているのは?ぼくがいいこじゃなかったから??ぼくのこと?きらいになったの?」など、こどもが抱えているであろう不安も描かれていたりします。

 赤ちゃんを亡くした家族それぞれの気持ちに思いを馳せ、またその立場に配慮して、すれ違いが生じないように家族をケアできることが望ましいと思います。

赤ちゃんとの思い出づくり 亡くなってしまった赤ちゃんの思い出づくりをすることは大事なことです。赤ちゃんが存在したことを知る数少ない者の一人としてその思い出づくりのお手伝いをしたいものです。

 母親が入院中の出来事であれば、個室を用意するなどプライバシーが保たれる環境を確保し、赤ちゃんとともに過ごせるようにアイスノン?などの保冷剤を用いて赤ちゃんをコットやベッドに寝かせることも可能です。亡くなった赤ちゃんから浸出液が出てくるような時には、吸湿性の高いおむつなどを上手に活用することも必要です。霊安室に赤ちゃんを預かって欲しいという家族もいれば、入院中ずっと赤ちゃんと過ごしたいという家族もいます。

 赤ちゃんと家族の写真を撮る、ビデオ撮影をする、手型足型を取る、髪の毛や爪を切ってとっておくなどの作業を援助することも思い出づくりにつながります。また赤ちゃんの着るものや身につける小物を作る、棺に入れる小物を手作りする、小さな棺を手作りする、手紙を書くなどを望む家族もいます。こうした作業は家族のニーズに合わせて、決して強制することなく、選択肢がいろいろあることを提示しながら援助していくことが必要です。医療者からは、赤ちゃんの名札やへその緒、その子に使った医療器具、メッセージカードなどを提供できるようにすると良いかもしれません。

 母乳に関しては、「赤ちゃんがいないのにおっぱいが張ってくるのは辛いだろう」「乳腺炎になったら大変だ」と乳汁分泌抑制剤を自動的に処方されてしまう場合も少なくありません。でも「おっぱいを絞って棺に入れたい」「母乳が出ることは赤ちゃんが存在した証」などと思っている母親もいます。乳腺炎を起こさないように乳房のケアをしていくことも必要です。ケアをしながら母の思いを傾聴することも心の支えになるはずです。

 社会的な手続きでは、妊娠12週以降で、生まれる前に亡くなった赤ちゃんの場合は「死産届」、生まれてからまもなく亡くなった赤ちゃんの場合は「出生届」と「死亡診断書」が必要になります。後者の場合は戸籍に赤ちゃんの名前とともに亡くなった事実が記載されますが、前者は戸籍に記載されることはありません。

 昔の日本では亡くなったこどもを戸籍に載せることが疎まれる風潮があり、生まれてまもなく赤ちゃんが亡くなった場合もいわゆる「死産扱い」がなされていたことが少なくなかったと推察されます。つまり「死産証書」だけを発行して戸籍には載らないようにするという〝配慮〟がなされていたのです。

 現在ではこのような扱いは減っていると思われますが、やはり事実に沿った手続きを進めることは重要です。むしろ、死産であると公には名前も付かず、戸籍にも載らないということに不満を訴えられるご家族もいます。たとえ戸籍に載らなくても名前をつけて、一人の赤ちゃんとして語れることも癒しの一助になるかもしれません。

力強い援助、ピア・サポート
前述した神奈川県立こども医療センターでは亡くなる赤ちゃんが多かったためか、小さく産まれて亡くなった赤ちゃんのための産着や帽子、おくるみなどを手作りするサポートグループ「天使のブティック」が早くから活動を始めました(写真3・4)。

   
 写真3 天使のブティック  
   
 写真4 産着やおくるみなどとともに渡される「天使のブティック」からのメッセージカード  

このブティックの参加者もかつて周産期に赤ちゃんを亡くした方達で、小物を手作りしながらお互いの体験を語ることや、新たな体験者に小物を提供することで、自らも癒されていくといいます。

 同じ体験をした家族が集まる場を提供することでピア・サポートを援助するという試みも各地で行われています。その主催者は、医療機関であったり、かつての経験者であったり様々で、それぞれに長短があるようです。こうしたピア・サポートグループは「天使がくれた出会いネットワーク(http://tensigakuretadeai.net)」で検索が可能です。

忘れないようにしたいスタッフのケア
 赤ちゃんの死を前にして心に傷を負っている人の中に、医療スタッフがいることも忘れないようにしたい視点です。亡くなってしまった赤ちゃんを前にして、医療者としての無力感から落ち込んでしまっているスタッフも少なくありません。そんな彼ら彼女らに一言声をかけ、気持ちを聞き出す配慮も必要とされています。

次回妊娠に向けて
 次の妊娠をいつ頃にするのが良いのかという明確な答えはありません。けれども、次に生まれてくる赤ちゃんが〝亡くなった赤ちゃんの身代わり〟と捉えられてしまうのは決して好ましいことではありません。そうならないためにも、亡くなった赤ちゃんに対するグリーフワークが適切に行われることが必要です。

 また赤ちゃんの死につながった原因によっては、再発率が高いものがあることも知られています。遺伝カウンセリングなどにより、医学的に適切な情報を提供するとともに心のケアも継続できるような努力も必要でしょう。

終わりに
 医療者にできる援助はグリーフワークの過程のほんの一部分でしかありません。長く続く喪の作業の始まりを余計なことで傷つくことがないようにすることはケアの目標の一つではないでしょうか?

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