機関紙

<24>職域における総合的禁煙支援の取り組み 労働衛生コンサルタント・保健師 斎藤 照代

2014年12月 公開

職域保健の現場から 24

職域における総合的禁煙支援の取り組み

 

勤労者健康科学研究所・斎藤労働衛生コンサルタント事務所 代表
東京産業保健総合支援センター 相談員 労働衛生コンサルタント・保健師 斎藤 照代

 


職域における禁煙支援の重要性
喫煙による健康影響は、医学的データが蓄積されすでに明らかとなっている。日本人の死亡原因を分析した最近の研究を見ても、喫煙者本人の喫煙による超過死亡数は、12・9万人と第1位で、第2位の高血圧(10・4万人)と並んで、日本人の死亡原因として最も寄与が大きいことが改めて確認されている(図)。

 
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また受動喫煙に関しても2010年国立がん研究センターは、「受動喫煙」が原因で死亡する人は、国内で少なくとも年間6800人に上るとの推計を示し、煙にさらされる場所を職場と家庭で分けると、半数以上の3600人が職場の受動喫煙であったとしている。2010年の労働災害による死者は1195人でありこれを大きく上回る数字となっている。
また日本産業衛生学会許容濃度等に関する委員会では、「職業上で不随意に曝露する有害物質」として「たばこ煙」を検討した結果、2010年5月に「第1群(ヒトに対して発がん性がある)」と位置付けている。これにより職場の受動喫煙対策は、勤労者の健康確保上極めて重要なテーマであり労働衛生上の重要課題であることが明らかとなった。
これらを踏まえ本年6月の労働安全衛生法改正でも職場の受動喫煙対策は事業者の努力義務となり、第12次労働災害防止計画においても重要課題の柱の一つに挙げられた。
これらを背景に産業保健を専門とする筆者は、労働衛生上極めて重要なテーマである職場の禁煙支援を個別支援から集団支援(各企業などでの講演会)、禁煙指導者育成セミナー、調査・研究、執筆と総合的な禁煙支援の取り組みを実施してきた。
 

禁煙指導者育成セミナー
「禁煙指導者育成セミナー」は、主に医療職を対象とし、全4回のシリーズで実施している(表)。禁煙の最新情報の提供とともに、プロチャスカのステージ理論など行動科学の手法やカウンセリング、さらには、筆者のエグゼクティブコーチとしてのライセンスを活かし禁煙支援にコーチングも取り入れている。
セミナーは、講義に加え演習やロールプレイを交え実践的に学べる内容となっている。また効果的な職場の受動喫煙対策の進め方や個別支援、集団支援の詳細な支援方法と、シリーズで体系的に禁煙支援方法を学べる日本では数少ないタイプのセミナーを提供している。平成15年からスタートした本セミナーは10年を超え、参加者も数百人を超える。参加者は、職域のみならず臨床や健診機関、行政と多岐にわたり、保健師や看護師といった看護職だけでなく管理栄養士や薬剤師、衛生管理者らの参加も増えている。参加者は、セミナー修了後それぞれの職場で受動喫煙対策を中心的な立場で実践し、多くの成果を挙げている。セミナーは実施後アンケートを行い、90%以上の参加者が満足しない内容は、すぐに見直すこととし指導内容の品質改善にも取り組んできた。
また、官公庁や各企業から要請を受け、禁煙指導者研修の講師も数多く務めてきた。
喫煙習慣の本質はニコチン依存症であり、その支援も決して容易なものではない。しかし支援のポイントを学ぶことで、より積極的に医療職が介入することができれば、多くの喫煙者を禁煙に導くことが可能となる。
全ての喫煙者に支援が届きSmoke Free(タバコの煙のないタバコの煙から解放された環境)が実現され、国が目指す2020年には受動喫煙のない職場が可能となるよう、多くの禁煙指導者たちと目指したいと考えている。
 

禁煙支援の調査・研究
喫煙者を納得させ、禁煙の自己決定を引き出す支援を目指すためには、科学的根拠に基づく対応が求められてくる。これを目指し筆者らは、禁煙をテーマとした調査・研究にも取り組んできた。
「クロム作業者における効果的な禁煙支援」、「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例の職場の喫煙対策等に及ぼす影響」、「職場の喫煙対策の実態と推進に関する研究」などの研究に取り組んできた。研究成果は、学会発表や論文作成、パンフレットや本の執筆とともに保健指導や講演、研修会などにおいても、その成果を公表し活用している。
最近の成果としては、「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例の職場の喫煙対策等に及ぼす影響」と「職場の喫煙対策の実態と推進に関する研究」についての研究が、それぞれ第84回日本産業衛生学会と第7回・第8回日本禁煙科学会において、優秀演題として表彰された。
2020年には、東京オリンピック・パラリンピックの開催も決まり、IOCの方針に基づく「禁煙オリンピック」の実現が開催国日本に求められてくる。これを実現するためにも今後とも総合的禁煙支援を継続し、世界中から日本を訪れるお客さまをきれいな空気でおもてなしできるよう、さまざまな角度から取り組んでいきたいと思う。

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