機関紙

<19>東京大学医科学研究所臨床ゲノム腫瘍学分野 古川洋一

2016年10月 公開
シリーズ遺伝相談 特定領域編7

遺伝性の大腸がん



東京大学医科学研究所 臨床ゲノム腫瘍学分野 古川洋一



遺伝性の大腸がんと遺伝

 遺伝性の大腸がんはいくつかの病気を含む疾患群で、一つの病気ではありません。最も多いのがリンチ症候群という病気ですが、その他にも家族性大腸腺腫症やポイツ・イェーガース症候群など、腸にポリープが多発する病気が含まれます。
 これらの病気は親から子に原因となる遺伝子変化が伝わるために、家族歴から各疾患を疑い、診断されることがほとんどです。しかし中には、遺伝子の突然変異のために、両親には遺伝的な原因がないのに発症する患者さんもいます。
 疾患の遺伝様式には2種類あって、常染色体優性遺伝の疾患の場合には、子どもは50%の確率で原因となる遺伝子変化を受け継ぎ、受け継いだ子どもは、それぞれの疾患に特徴的な臓器のがんの発生確率が高くなります。受け継がなかった子どものがんの発生確率は、一般の人々と同じです。
 常染色体劣性遺伝の疾患の場合には、患者さんの兄弟間での腫瘍の発生確率が高い場合がありますが、子どもが原因遺伝子変化を受け継いでいても、ほとんどの場合、腫瘍発生確率は高くなりません。


特徴と遺伝子診断
 遺伝性の大腸がんの重要な特徴は、若年者の患者さんが多いことと、一人の患者さんが複数の腫瘍、あるいは何度もさまざまな臓器に腫瘍を発症することが少なくないことです。
 しかし、非遺伝性の大腸がんと臨床的な所見が似ていて、区別が困難なものもあります。最終的には遺伝子を調べて確かめることを推奨しますが、検査が高価であること、保険で検査ができないこと、検査の診断感度が100%でないこと、検査結果に対する不安などのために、普及していないのが現状です。
 遺伝性のがんが疑われたら、専門家に相談することをお勧めします。正しい診断は患者さん自身の治療法の選択だけでなく、本人および家族の健康管理にも有用です。


最も多いリンチ症候群
 リンチ症候群は遺伝性大腸がんの中で最も多い病気で、大腸がんの患者の2~4%を占めています。その診断は、家族歴と腫瘍を発症した患者さんの年齢、発生部位や腫瘍の数、腫瘍組織の特徴などを参考にして行います。
 患者さんの中には、ご自身ががん家系であることを心配していらっしゃった方も多くいます。大腸がんだけではなく、胃や小腸、膵臓、胆道、子宮、卵巣、腎臓、尿管、脳などさまざまな臓器にがんを発症している近親者がいる場合にも、この病気を疑うことがあります。
 70歳までに40~80%の患者さんが大腸がんを発症しますが、胃や小腸、子宮、腎臓・尿管などの臓器の腫瘍発生リスクも高いので、患者さんの健康管理の際に、大腸以外の検診も必要です。4種類の原因遺伝子があり、どの遺伝子に変異があるかで腫瘍発生のリスクが異なります。
 若いうちから検診をして腫瘍を早期発見することで、一般の人と同じくらい長い寿命を得られるので、正しい診断と長期の健康管理が大切です。


大腸ポリポーシス
 大腸ポリポーシスは、一般に大腸に100個以上のポリープができる疾患群ですが、いくつかの病気が含まれています。
 多いのが家族性大腸腺腫症というポリポーシスで、大腸全体にポリープが多発します。10歳代からポリープが増え始め、ポリープから高頻度にがんができるので、20歳代に大腸を全摘することが推奨されます。ほとんどの場合人工肛門を作ることなく手術が可能です。軽症例では、内視鏡的な治療で様子を見たり、手術方法を縮小したりすることがあります。大腸以外にも腫瘍が発生することがあるので、一生にわたる健康管理を行っています。
 小腸にポリープが多発するポイツ・イェーガース症候群も小腸、大腸にポリープが多発するポリポーシスです。この病気は小児期に出現する口唇、口腔粘膜の色素沈着や、手指の先端の色素沈着で気付かれることがあります。大腸だけでなく、小腸、胃、膵臓、乳腺、子宮、卵巣、肺などさまざまな臓器に腫瘍が発生するので、全身的な管理が必要です。小腸のポリープによる腸閉塞や出血が学童期に出現することがあり、本疾患が疑われる子どもに激しい腹痛や貧血を認めた場合には、注意しなければなりません。


健康管理と社会生活
 遺伝性の大腸がんは、さまざまな臓器について定期的な検診を行い、早期発見・早期治療によって良好な生活が望めます。いずれの疾患も身体的・精神発達上の障害がほとんどなく、一般人と同じく仕事や結婚・出産が可能です。
 診断や治療方法は進歩していますので、専門医と相談しながら健康管理を行うことが大切です。

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