機関紙

<13>和歌山つくし医療・福祉センター名誉院長 月野隆一

2016年04月 公開
シリーズ遺伝相談 特定領域編1

ダウン症候群



和歌山つくし医療・福祉センター 名誉院長

月野 隆一


出生前診断

 ダウン症候群の遺伝相談は「前回ダウン症候群」「転座型ダウン症候群」に関わる再発率(もう一度ダウン症候群の子どもが産まれる確率)中心の遺伝相談が多かった。
 「前回ダウン症候群」とはすでに標準型ダウン症候群(突然変異とされている)の子どもを持つカップルなど、一方「転座型ダウン症候群」の遺伝相談とは、一部に遺伝性を示す保因者(均衡型転座転座保因者)に関わる遺伝相談である。ともに「ダウン症候群の子どもが産まれることを危惧した相談」が根底にある場合が多い。
 従来は確率提示にとどまっていたが、確定診断を望む声が高まり、羊水採取、絨毛採取(侵襲的検査)が登場した。これら侵襲的手法にかわって、確率提示の検査ではあるが従来の方法に比べて診断精度が格段に向上し、妊婦血採血という簡便な手技で検査可能と称する無侵襲的出生前検査(NIPT)がにわかにクローズアップされ、研究という枠組みの中で実施されている。簡便な方法のためか、検査希望の妊婦が殺到し、一部では対応しきれなくなっているという。実施研究機関に一定の条件を課して窓口を制限していることが原因との声もある。
 この現状に対して「採血という医療機関ではどこでも実施可能な極めて簡便な手技であり、特段の専門性を要しない素晴らしい検査にもかかわらず、さまざまな条件を課して実施可能施設を限定し、結果として希望者を制限している。このような素晴らしい検査を享受できる国民の権利を阻害するもので、正義に反する」と、一般医家での実施を要求する主張もある。この主張に加えて、多数のカップルが希望している現実の前にNIPTの一般臨床医への普及は時間の問題とされている。


なぜ生まれることが許されないのか
 現在、検査対象は21・18・13トリソミーの3染色体疾患に限定されている。なぜこの3疾患なのか。明確な根拠が示されないまま研究は進行し、さらに一般医家での実施、対象疾患拡大とマススクリーニングの動きが見られる。
 当事者団体を中心に「なぜダウン症候群は出生前診断の標的となるのか。なぜ生きて産まれてくることが許されないのか」という問い掛けがある。21番染色体は2本が正常で3本は異常。だから選択対象となる? では3本持てばどのような不都合が生じるのか。それは産まれてくることを許されない不都合なのか。このような議論が置き去りにされていないか。
 議論のたたき台になる情報を提供するのは、40年以上ダウン症候群の方々と歩んできた私たち医療者の責務と考え、日頃から生き生き活躍する様子を提示し、検査前の判断材料の一助としたい(写真)。


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ボクシングで生き生きと活躍

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「キャプテン」15歳。ボクシングで得た自信による(?)このふてぶてしいまでの風格


子どもは路頭に迷わない
 一方、妊婦さんが出生前診断を受けたいと希望する背景には玉井真理子らによると「三大神話」があるという。
①障害児を育てるにはお金が掛かる
②親が死んだら生きていけない
③兄弟姉妹が虐められる
 紙面の都合上、「②親が死んだら生きていけない」についてのみ触れてみたい。
 私たちは必ず死ぬ。そのときに、一緒に暮らしてきた子ども(実はもう子どもではない)はどうなるの、との心配は当然である。
 子どもの養育が困難になる要因として、両親の喪失があるが、その前に①片親となる(生別、死別)②養育者の健康問題―などのステップがある。
 母親60~64歳で母有病率100%、父有病率80%、片親率約30%。
 母親50~54歳で有病率は50%に達する。子どもが20歳代で養育困難が始まると思われる。
 この時期から親離れ、子離れの準備が必要となる。この年齢は、ダウン症候群に限らず一般の親子関係でも成り立つ。現にダウン症候群以外の子どもたちは、成人式を終え、親離れへと進む。ダウン症候群の家庭では養育者の子離れがより困難である。一方、ダウン症候群の高校生たちは嬉々として寄宿舎生活を楽しみ、親離れを受け入れている。
 養育者の突然の死亡などを契機に、心の準備もないまま見知らぬ施設などを利用するのではなく、日頃から体験しておくべきである。
 さまざまな受け皿が準備されており、決して「親の他界」で子どもたちが路頭に迷うことはない。
 
 

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