機関紙

<8>遺伝看護の立場から 新潟大学大学院保健学研究科看護学分野教授 有森直子

2015年11月 公開
シリーズ遺伝相談 総論編8

遺伝看護の立場から



新潟大学大学院保健学研究科看護学分野 教授
有森 直子

生活を支援する看護職

 日本の看護職職員就業者数は、153万7813人(2012年)。医師の約5倍、国民の85人に1人は、看護職という計算になる⑴。
 看護職は、養成過程(97~124単位)の中で解剖生理学を学ぶ。これは、生活者としての人間理解のため、言い換えれば、「食べる、出す(排せつ)、寝る」の暮らしの行動をケアするためである。
 疾病の診断や治療は、生活する人間に起こっている現象を理解する上で必要な知識であるが、そこだけに焦点をおくのではない。診断や治療だけに焦点をおくのではない看護職がなぜ、臨床遺伝学を学ぶのか。それは、大倉⑵によれば以下のような理由による。
 「看護とは、病む人間を対象に行われる行為であり、それは病む部分の治療や介助のみを目的とするものではない。(中略)異常や疾患に関する知識を得ようとする以前に人間を知ることが大切である。さらにわが国の医学教育、看護教育の中で歴然と残されている欠落の一つは、もっとも根幹をなす遺伝学組織、遺伝的背景に関する理解である」と述べ、「こうした知識の欠落は、単に病気をただしく理解できないだけでなく、人間としての対応すらできないことを意味している」と、臨床遺伝学の必要性について言及している。

「遺伝相談」という場は通過点

 「遺伝看護」という用語が国内で公的に使用され始めたのは、1999年に「日本遺伝看護学会」が発足されたときであろう。当時は、ヒトゲノム計画が進む中、遺伝医療に関係する対象の広がりと、病気ではない健康な人も対象となる「予測医療」という新しい遺伝医療の在り方として「遺伝子検査」を行うための「遺伝子カウンセリング体制の整備」が強調された⑶。
 単一遺伝病や先天異常の患者、その家族への生活へのケアは、このような動きの以前から看護職は行っていた。また、家族や親族の中での「引き継がれて行く」遺伝に関する相談は、地域の保健所が対応していた。保健所の遺伝相談は医師の相談と、相談前後のフォローを保健師が担っていた。
 このシステムには、「遺伝に関わる問題に悩む人は、問題が遺伝に由来するがゆえに声を大きくして積極的な対応への要求をしない、特にわが国では、遺伝は、恥ずべきこと、秘すべきことという認識が強く、このための正当な医療サービスをうける機会を失っている、こうして遺伝の問題は常に潜在化して地域社会に埋没してしまう」⑵という問題がある。
 この問題を地域住民との信頼関係を築いている保健師が関わることで、潜在するニーズの掘り起こしが可能となっていた。当時は日本家族計画協会が「遺伝相談セミナー」を年に数回開催し、保健所保健師は輪番制で研修を受けていた。当時の保健師は、研修会の後に自主的な学習会を重ねて、そのスキルの向上に努めていた。
 遺伝看護の立場からは、「遺伝相談」の場は、クライエントと家族の暮らしを共に考えるケアの中の通過点である。家族の問題であるがゆえに、家族の誰にも相談できない「遺伝」の課題に共に向き合い、クライエントが遺伝相談に行くことができるときを見計らい、遺伝子検査の理解と解釈を助け、本人の選択を支持し続ける。看護職は、継続的で、包括的な関わりができる立場にあるし、数においても十分にその役割が担えるであろう。
 しかしながら、先ほども述べたように大倉の指摘から30年を経た現在も、遺伝教育は十分ではない。また、保健所の遺伝相談が遺伝子診療部を中心にした病院に移行した今日、遺伝看護の役割の再構成が求められている。

看護職への期待は大きい

 全ての看護職は、ある一定の年齢になると発症するタイプの遺伝性疾患があることや、本来は症状がないとされている「保因者」の中にも、症状が見られる場合があることを知っておくべきである。また、生涯変わらない遺伝情報であるがゆえに、進学、結婚というライフイベントの節目には、必要があれば遺伝相談という窓口を知っておく必要がある。「遺伝は分からないから、対応できない」という苦手意識を持つことで、目の前のクライエントの苦悩を見て見ぬ振りをすることは、避けてほしい。
 遺伝に関する専門的な教育を受けた「アドバンス」の看護職は、クライエントの遺伝に関するさまざまな理解(遺伝子検査や遺伝形式)や解釈を助け、遺伝情報を共有する家族の調整や遺伝子検査の受検に関する意思決定の伴走者となる役割がとれる。
 年々増加する訪問看護ステーションなどの生活の場を支える看護職が、保健所の保健師がこれまで担ってきた遺伝の課題と向き合う住民へのケアを担うことへの期待は大きい。

【文献】
⑴菱沼典子:看護学への招待、ライフサポート社、2015
⑵大倉興司監:看護のための臨床遺伝学、医学書院、1992
⑶古山順一:遺伝子カウンセリング体制の構築に関する研究、厚生科学研究(子ども家庭総合研究事業)平成13年度報告書、2002

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