機関紙

<5>出生前診断の取材を通して NHKプロデューサー 坂井律子

2015年08月 公開
シリーズ遺伝相談 総論編5

出生前診断の取材を通して



NHKプロデューサー(NHK山口放送局長) 坂井 律子


情報の「いまここ」

 2013年から「無侵襲的出生前遺伝学的検査=NIPT」の「臨床研究」が開始され、15年7月の現在、着床前スクリーニング(PGS)についても臨床研究が始まるといわれている。次世代シーケンサーや、アレイCGHなど、遺伝子研究に関連する技術開発のスピードはすさまじい。
 私たち取材者はこのような新しい医療技術を取材するとき、ともすると「いまここ」の新しい情報を必死に追いかけがちだ。具体的には「新しい技術そのものの正確な理解」「その技術を使いたい人のニーズ(欲望)」がどうしても優先されるように思う。技術は専門家以外が理解するには難しく、自分自身の学力不足や一般の人たちに分かりやすく説明する困難も伴うため、相当のエネルギーを割かざるを得ない。ニーズについてもさまざまな立場を報じる必要がある。新情報の正確な伝達、多様なニーズの紹介をした上に、後段「倫理が問われている」「議論が必要だ」という締めくくりになることも多いと感じる。が、自戒を込めて、それでは足りないと悩みながら取材を続けてきた。


海外は「問題なし」か

 私は出生前診断について1990年代半ばと2012~13年について取材して番組を作ったのだが、この2回で心したことが二つある。一つは「歴史の縦軸」を取材すること、もう一つは「海外を含めた多様な実態を取材すること」である。どちらもそれほど特別なことではなく、むしろ古い手法だと思う。新しい技術が入ってくるたびに「日本では議論が行われてこなかった」「海外では既に問題なく行われている」と取材先で言われることに、私はどうしても納得できなかった。「だから日本は遅れている。今すぐ始めなければ」というメッセージを感じたからである。
 この連載の主題である「遺伝相談」。90年代半ばと2013年の2回とも、「海外では出生前診断を問題なくやっている」という言説には「海外では遺伝カウンセリング体制が整っているから」が付随していた。しかし本当か?
 例えば1995年に取材した英国。当時、英国では出生前診断を行う施設には専門の遺伝カウンセラーを置くことがガイドラインで義務付けられ、全国23地域の中核病院には遺伝相談の専門窓口が置かれていた。私はロンドンとリーズでそれぞれ、母体血清マーカー検査前、検査後の結果説明と確定診断の説明、などの「遺伝カウンセリング」に許可を得て同席させてもらった。しかし検査の対象となる障害の説明はなく、検査を受ける前にやがて胎児の生命にかかわる重大な決断をするかもしれない、という説明は行われていなかった。そのころ131の面接記録を分析したある論文では「カウンセリングは非指示的だったとは言えない」と述べている。英国だけではない。
 2013年、既に母体血清マーカーとNTのコンバインドテストが全妊婦に提示され、NIPTにも国家倫理諮問委員会がゴーサインを出したフランスでも、検査前に検査対象であるダウン症候群に関する説明はなされていない。そして遺伝カウンセリングについては次のような国の調査結果がある。「NTと血液検査を受けた女性の約40%は、あるとき突然中絶を決断することになるかもしれない、ということを意識していなかった。約3分の1は血液検査の結果を理解していなかった」。
 これは遺伝カウンセリング以前のインフォームドコンセントの問題だ、と言えるかもしれない。だが、海外は進んでいるというときの「遺伝カウンセリング体制とセットになった出生前診断」というのは、本当にあるのだろうか?


遺伝相談とは何か

 この連載の第1回で月野隆一先生が「総じて『遺伝相談なくして遺伝学的検査や遺伝医療は勧めるべきではない』とされているが『遺伝相談とは何か』という論議はあまりお目にかからない」と述べておられる。海外の事例が示すのは、法律が遺伝カウンセリングを義務付けても、遺伝カウンセラーが置かれていても、「遺伝相談、遺伝カンセリングとは何か?」という中身が真剣に検証されない限り、意味がないということではないか。そしてその中身の構築はそれほど簡単なことではないと思える。
 これまでに日本でどのような議論があり、今があるのか。海外で問題は起きていないのか。「いまここ」の新しい事実だけでなく、この視点を失わずに取材し、考え続けたい。

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