機関紙

<5>災害に対する備え-防災アドバイスと被災者の声

2017年08月 公開

災害時の家族と健康<5>

災害に対する備え-防災アドバイスと被災者の声



神奈川県立保健福祉大学 准教授

 吉田 穂波

大災害と親子の心のケア
―保健活動のロードマップ―


 私は、2013年から厚生労働科学研究費補助金地域医療基盤開発推進研究事業「災害時の親と子どもの精神保健のあり方に関する研究~震災直後から現在に至るまでの子どものメンタルヘルスに応じた保健師活動~」(分担研究者:中板育美・公益社団法人日本看護協会常任理事)に参加させていただきました。今回は、この活動の一環で、震災時より2年5か月の岩手県、宮城県、福島県の3県でインタビューをさせていただいた中で学んだことを皆さんと共有したいと思います。
 震災時の子どものメンタルヘルスを守り、備えることは、被災地および日本の将来を左右する重要なテーマであるにもかかわらず、災害時の子どものメンタルヘルスをサポートするには、既存の保健師活動マニュアル等では十分とは言えません。本研究では、早期に必要なケアや医療につなぎ、在宅での子どもの回復を支援するための保健師の役割について考えながら、災害時の子どもの心のケアを担う保健師が活用できる手引きを作成し、あの体験を次世代の保健師さんたちに受け継いでいこうという強い熱意のもとで進められました。
 手引きは最終的に「大災害と親子の心のケア―保健活動ロードマップ―」としてまとめられ、多くの自治体で参照され、活用されています。(https://cloud.niph.go.jp/s/fd/Lf64CzH71DVzJqEb0Fwx)


東日本大震災後の現地の保健師さんのお話

 発災直後の保健師の役割や課題について、被災された保健師さんから伺ったお話は、胸を打つものばかりでした。例えば岩手県の沿岸地域で勤務されていた保健師さんは、4月初旬から全戸訪問で健康生活調査を実施し、母子担当として仮設庁舎で母子手帳、健診の再発行などの窓口業務を行ったそうですが、県外で受診されていた妊婦さんも多かったため、事務管理業務に追われていた様子を語ってくださいました。
 全て流失した住基データを吸い上げる作業が大変で、健康管理システムが8月末に復旧するまではエクセルファイルによる書式発行作業で手いっぱいで、児童相談所(児相)・児童家庭支援センター(児家センター)などと分担して母子、学童等の健康フォローアップを行っていたとのことでした。体験者のお話から、乳幼児健診の再開に向けた支援・問診票の作成、健診会場の確保、医療機関との新たな契約締結等、平時に行っていた業務以外の業務や多方面との調整などの感情労働で忙殺されていた様子が手に取るように分かりました。
 発災直後から半年後、1年後の保健活動、被災者支援活動の中では、ある保健師さんの「まず親が病んでいるので、子どもだけを対象とするのではなく、親を見ていく必要があると認識していた」との言葉が印象的でした。保健師さんは、保健活動だけでなく、育児不安を訴える親や、夜泣き、暗闇を怖がるなどの小さな問題でも心配する親の増加に、乳児健診、問診などを通じて対応されていたようでした。
 被災し、縁故避難する中、児童虐待、DVに関する相談が増加し、家族関係がこじれて問題化したケースが多かったそうです。震災孤児や遺児に関する相談はさまざまな機関に寄せられ、統括的に窓口となる体制がなかったため保健師さんが調整に奮闘された地域もありました。仮設住宅等による生活環境の悪化などの相談が増えてきて、子どもの問題を教育関係者と共有できるような要保護児童対策地域協議会(要対協)の必要性を痛感し、要対協の再開や立ち上げを行ったという保健師の方には、そのご苦労を思い、頭が下がりました。
 三陸沿岸地域の保健師さんから、仮設では親が子どもを安心して遊ばせる場所がなく、迷惑をかけないよう静かにせざるを得ないため、ゲームやお菓子を与えるなど健康に悪い環境であったという話を聞き、私自身が宮城県の避難所を回る中、復興の掛け声の中で子どもの遊び場や母子が集える場が後回しにされていいものか、と憤慨したのを思い出しました。
 遠距離避難している母子が、それでも健診などで集まってくるのは子どもが遊べる場、親が集える場を求めているからにほかなりません。発災直後は、命を守ることを優先し、食べる、寝る、排せつなどの環境を確保していき、母子の安心感、安全感を確保していくことが大切ですが、できるだけ早く日常を取り戻すため、保健師の方々が健診、学校、保育所、幼稚園の再開、集える場づくりを行い、地域の状況や問題を把握するために奔走することになります。保健師の活動は多岐にわたるため、事前に「この時期にはこうなる」という見通しが立てられれば、あるいは「母子の集まる場所、子どもの遊び場が必要となるから、庁内でこういうルールを決めておこう」「児相や学校とはこのように連携しよう」と決めておけば、いざというときの負担が少なくて済むということを学びました。
 これらのインタビューから、住民の方々にも、子どもが遊びの中で心を癒やしていくプロセスや、遊びの重要性、子どもの心の問題が遊びの中でどのように表現されるのかについて、特に、子育てを終えた世代の方々に平時から理解していただき、地域の子育てサポーターとなってもらうとよいと思いました。災害が発達障害の子どもにもたらす影響や、避難所での居場所づくり、地域のつながりが希薄になった人々への声掛けなどを学ぶ中で、災害時の備えといいながら実は平時の子育て支援でも必要とされるスキルを身に付ける大切な機会ではないでしょうか。

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