機関紙

<1>イントロダクション

2017年04月 公開
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5児の母としての顔も持つ著者(左端)


災害時の家族と健康<1>

イントロダクション



神奈川県立保健福祉大学 准教授

 吉田 穂波


 初めまして。産婦人科医の吉田穂波です。
 3歳から12歳まで5人の子どもたちを育てながら、ドイツ、イギリス、日本、アメリカの4か国での妊娠・出産を経て、今は家族の健康や親子の幸せについて、公共政策の研究者、実務者という立場で仕事をしています。
 私はもともと10年間産婦人科の臨床現場で働いていましたが、もっと説得力のある診療がしたい、もっと自分のキャパシティーを広げたいと一念発起し、三女が生まれた1か月後にハーバード公衆衛生大学院に家族を連れて留学しました。
 修士課程を修了し、大学院で研究をしている途中で起こったのが、あの東日本大震災です。居ても立ってもいられず、宮城県に向かい、避難所を回り妊婦さんや赤ちゃんを探し、体調を確認し続けた私が痛感したのは、妊婦さんや赤ちゃんを災害時に誰がどう守るのか、事前にきちんと決めておかなければいけないということでした。
 母子は医療と健康、福祉の間を行ったり来たりします。私を含め、当事者である子育て家族や妊婦さんにとっては一連の生活であり命であるにもかかわらず、私たちを取り巻く多くの制度が複雑に絡み合い、関係者の連携や調整がとても難しいということが、災害を通じて見えてきたのです。
 そして、災害時にはそれまでの組織や行政業務の隙間が大きく露呈しました。平時であれば家族や知り合いの助けを借りて何とかなってきたシステム、例えば病院外分娩への対応やハイリスク妊娠、産後ケアなどは、地域の保健行政が壊滅状態に陥ると、その谷間に落ちて難民となる母子が生まれるということも分かりました。私たちが体調の悪い妊婦さんを見つけても、どこの病院に連絡すればいいのか、どの保健所のどの部門の方々にどうお願いすればいいのか、また、高齢の家族や上のお子さんの面倒を誰が見るのか、避難所の炊き出しの順番を代わってもらうにはどうするのか、防災組織の方々への説明は、などなど母子を守るために力を借りなければいけない人が多過ぎて、支援する側もされる側も疲弊してしまいました。助けられる母子の側も気兼ねをして、避難所から、地域から、立ち去っていきました。


災害時の日常と健康
 読者の皆さんたちが日々苦心して取り組まれている、リプロダクティブ・ヘルスに関する諸課題も、災害時に大きな問題になりました。平時のハイリスクケース、例えばティーンエージャーの性行為や妊娠出産事例は、被災したことが原因でアプローチしづらくなり、適切な支援が受けられず、さらにハイリスクな状態に陥ってしまいます。
 性教育や性感染症予防、避妊など性の健康に関する取り組みや自分の体を大事にする意識の浸透が、災害時には平時よりも必要になると痛感しました。
 ここで地域保健の意義、保健師さんの素晴らしさ、助産師さんの行動力に感銘を受けた私は、2012年から公衆衛生の研究機関に入り、国から助成金を頂いて、災害時の母子を守るためにはどのような政策やシステムを作ればいいのかという研究を始めたのです。


災害時に母子の健康を守るべき理由
 現在、先進諸国では高齢化が進んでいます。また、特に北半球では温暖化に伴って風水害などの災害が増加していることが知られています。
 世界一の少子高齢化国である日本だからこそ、災害時にマイノリティーとなりつつある次世代を救う仕組みについて世界に成功事例を示すことができれば、多くの国のモデルとなるでしょう。世界でも飛び抜けて災害の多い、少子化の日本だからこそ、世界に先駆けた取り組みをすることが、世界中の母子を災害時の恐怖と危険から守ることにつながるのです。
 災害時の母子を守るため皆さんとどのように一緒に取り組めるのかを見つけることが、私の、この連載への期待です。そこには正解も不正解もなく、お互いのアイデアや不確かな意見、感情をぶつけ合いながら、全く新しいアイデアや情報を昇華させていくことができます。この連載へのお問い合わせ、お便りも大歓迎ですので、皆さんからの声をお待ちしています。
 皆さんが地震があっても洪水があっても津波が来ても、絶対に守りたいものは何ですか。全てが流されても、この人だけは守り抜きたいと思う人は誰ですか。
 ぜひ、この機会に、身の回りの大事な人を守るにはどうしたらいいのか、平時だけでなく災害時にも小さな命を助けるにはどうしたらいいのか、一緒に考えてみませんか。


***
 本連載は、母子保健における災害への対策、予防をテーマに全6回で掲載します。ご意見、ご要望などありましたら、左記までどうぞ。
◆henshu@jfpa.or.jp
(編集部)

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