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第825号

 東京都不妊・不育ホットライン相談員 小島 章子

 東京都不妊・不育ホットラインに寄せられる相談には、その時の制度や社会の価値観の変化もあらわれます。例えば、親や親戚からプレッシャーを受けるといった話はここ数年ほとんどなくなり、女性が働くのは「当たり前」になり、結婚や妊娠を機に退職を迫られたという話もあまり耳にしなくなりました。
 最近受けた仕事と不妊治療の両立を目指す女性からの電話も、世相を反映するお話でした。仕事中心の生活を送って30代半ばを迎え、いざ子どもを、と思ったらなかなか妊娠しない…そこで不妊治療を始めたという方です。その方は「やっとやりたい仕事を任されるようになった」そうで、仕事を辞める選択肢はありませんでした。「上司に不妊治療のことを話せば、理解はしてくれるだろうし、負担の少ない仕事に変えてもらえるかもしれない。しかし、そうなると任されている仕事を続けるのは難しい。いつ子どもができるかも分からないのに、それは考えられない」というのです。通院と仕事を両立させるのが難しくて仕事を辞めたい、または経済的な事情で仕事と治療を両立させたい、というお話はこれまでも多くうかがってきました。しかし、そのどちらも特に問題とせず、これほど「やりがい」を前面に出して話す方は初めてでした。
 仕事への熱い思いと、家庭を築くことへの憧れを同時に語る様子に、今は女性が仕事にやりがいを感じて働くのが自然な時代なのだと実感しました。しかし、続いてお話を聞いていくと、事情は変化しても不妊のつらさは何も変わっていないことも分かってきます。「これが命に関わるような病気だったら命を優先するし、期間が分かる育児休暇なら理解も得やすい。けれど不妊治療は違う。妊娠・出産できなかったら、その後どんな顔をして職場の人と接したらいいのか分からない。自分も気まずいし、周りに気を遣わせるのも目に見えている。子どももできず、仕事での信頼も失う、居場所を全て失うことになりませんか? 仕事も子どももと思う私の希望はわがままですか? 最初からどちらかを捨てなければいけないのでしょうか?」「妊娠できるかどうかも分からない」ことに振り回されるのが不妊のつらさです。
 子どもが欲しい、やりがいを感じる仕事を続けたい、どちらも人として願って当たり前のこと、決してわがままとは思いませんと伝えると、少し安心されたようで、「頭が少し整理できた、さらに夫や職場と話し合い、自分の気持ちと向き合ってみます」と電話を切られました。
 私たちがお話をうかがっても問題を解決できるわけではありませんが、心の内を安心して話せる場として利用していただきたいと思っています。また、時代とともに相談の内容は変化すると感じていながら、仕事と治療の両立といえば時間の都合と経済的な問題だと無意識に考えていた自分にも気付きました。相談員としての私自身の意識も改める機会ともなりました。


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