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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第68話>お蔵入りした「論壇」投稿

第836号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 1998年3月2日に開催された中薬審常任部会でのピル審議に怒りをあらわにした筆者は、「ピルの使用を即刻中止せよ」の標題で、朝日新聞の「論壇」に投稿した。しかし、これは採用されることはなくお蔵入り? となった。概要を紹介しよう。
 今回議論されたのは、①ピルと子宮頸がんとの関係について、②ピル服用者の排泄物はホルモン攪乱化学物質とはならないか、③ピル服用ミスによって計画外の妊娠が起こった場合、次世代への悪影響はないか―の3つ。
 確かに素朴な疑問であることはわかるが、これがピル審議における第3ハードルでの議論なのだろうか。なぜならば、わが国では90年にピルの認可申請が提出されて以来、今日まで避妊薬としてのピルの有効性、安全性に関する科学的な検討を驚くほどにのんびりと、熱心に行ってきたのではないか。それにもかかわらず、この期に及んで、安全性とか有効性の話はないだろうという印象を抱かずにはおれない。ピルの早期認可を訴え続けてきた者の一人としては、言葉に表すことのできない憤りを覚えた。
 そんな複雑な思いを抱きながらの今日までの診療はとてもストレスだった。今も私どものクリニックに避妊薬・ピルを求めてやって来る女性は後を絶たない。その際、低用量ではないホルモン用量の高いピルを処方するのだから矛盾に満ちている。仮に、常任部会での議論が正論であるとしたら、厚生省が真っ先にしなければならないことを強く訴えたい。それは、「世界ではほとんど問題になってはいないが、日本人女性のカラダにピルが入ってくると、様々な問題が起こる危険性が高い。だから国民の受ける被害を未然に防ぐためにも、低用量ピルの認可が確定するまで、1960年代から避妊目的で処方されてきた中高用量ピルの使用を即座に中止しなさい」と命じることである。
 リプロダクティブ・ヘルス/ライツという言葉が、世界女性会議などで議論されてきたが、私からみれば、わが国にあっては、そんなことどこ吹く風とばかりの避妊薬・ピルの扱いに憤りを越して悲しみに襲われている。感情論でピルの早期認可を訴えているわけではない。誰一人として中絶を望んではいないのに、やむを得ずそうしなければならない現実が繰り返されているのをご存じだろうか。避妊法の選択肢が諸外国に比べて極めて少ないことがその一因だろう。
 世界のレベルに近づくためにも、中薬審でのピル審議が速やかに終了し、わが国の避妊法の中に晴れてピルの加わる日が訪れることを期待したい。もういい加減、ピル鎖国時代の終焉を迎えてもいいのではないだろうか。



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