【インタビュー】YELL~エール~
<6>幸﨑若菜さん(東京都)
本会の活動は、同じ方向に向かう仲間の存在によって支えられています。「YELL~エール※」は、そんな仲間を紹介する連載(不定期)です。当面はJFPA思春期保健相談士®(以下、相談士)の皆さんにご登壇いただきます。
※「YELL~エール」…互いにエールを送り合うような関係でいたい、そんな思いを込めて連載タイトルをYELL(エール)としました。
第6回目のゲストは幸﨑若菜さん(東京都・助産師/JFPA思春期相談士®)です。この4月に“子ども・若者のための街の保健室”として開設されたユースウェルネスKuKuNa(ククナ)(東京都江戸川区)で室長をされています。KuKuNa開設の経緯や、日々の業務の中で見えてくるもの、思春期女性の相談を受けている中での思いなどを語っていただきました。
聞き手:杉村由香理(日本家族計画協会家族計画研究センター センター長)
――まつしま病院で「KuKuNa」を開設するに至った経緯をお聞かせいただけますか?
幸﨑:まつしま病院は、長い間、社会的な課題を抱えた妊婦への対応を行ってきましたが、若い女性が「妊娠してから」「生活に支障が出てから」「心を患ってから」といった状況になって初めて病院に来るといったケースが多くありました。もっと早い時期の思春期の子どもたちにアプローチをしなければいけない、という思いが、スタッフの中にずっとありました。生まれてきてから成長する過程で、かかりつけの小児科に乳児健診やワクチン接種や風邪などでかかることはよくあることです。当院は小児科と産婦人科のある病院ですが、ちょうど思春期へのアプローチがすっぽ抜けた状態でした。若い世代の女性たちに婦人科のかかりつけを持ってほしいと思う助産師ではありますが、実際にその世代の女性が婦人科にかかることはなかなかないことだとは思います。現実的には性的なトラブルを抱えて、ある日突然婦人科受診をしないといけない状況に追い込まれてしまって受診していることが多く、本人にとっても負担の大きいことだと思います。そうして病院とのつながりが切れてしまったところから、17歳、18歳になって、突然婦人科と関わらないといけなくなるというのは、本人にとっても負担が大きいことだと思います。
また、思春期に何か問題や悩みがあっても、学校が介入していない場合や、親が十分に関われていない場合が、かなりあります。
困ったときには医療機関を頼ってもよいと思いますが、思春期の子たちにとっては病院に来ることそのもののハードルが高いのが実情です。そのため、アプローチの一つとして、病院ではない場所で医療従事者と接触できる場所が欲しいということも考えていました。
この思いは、当院の理事長も院長も同じで、若年女性の相談先として病院へ来るまでの前段階となる場所が必要だという考えから、このKuKuNaがつくられました。
私たちも日々さまざまなケースを見ていますが、次世代を育てて、次世代の健康を考えていくためには、これからももっと思春期へのアプローチをすべきだと思っています。
――構想から短期間で開設に至ったと伺いました。苦労されたことなどはありましたか?
幸﨑:それまでは現場のことで精一杯だったところに新しいことを始めるので、スタッフの確保は悩ましいところでした。ですが、少子化で分娩の件数が減ってきたため、人が割ける状況になったのは追い風でした。立ち上げのスタッフは、私を除いて看護職が3名、ソーシャルワーカーが2名で準備を進めてきました。
あと、場所をどうするか、というのも課題でしたが、もともと病院の裏にあった建物を改築するタイミングだったので、場所の確保もできました。
KuKuNaの内覧会の際には、当院と古くから関わりがある方々が来てくださって、「さすがまつしまだね」「まつしま病院らしいよね」といった感想を頂きました。
KuKuNaの開設後に、小児科医である理事長が長年診察していた子がKuKuNaで過ごす様子を見て、「あの子がここで同年代の子と関わっているなんて」と、KuKuNaの居場所としての機能が果たされていることに感動していました。
――施設内の雰囲気づくりなどで工夫はありますか?
幸﨑:子どもや若者が初めて会う人に相談するとなるとハードルが高くなってしまうので、相談がなくても来ていい場所にしました。だから、まずはここに来て、この場に慣れる。そこで、大人とちょっと話せるということができたらと思っています。心の距離って、人によるじゃないですか。だから、少しずつ緩和していけるように配慮しています。悩みを抱えている子たちって学校になんとなく行きづらかったりとか、なんとなく人間関係に課題があったりということもあるので、親がここに連れてくるのもいいですし、ちょっとした社会経験や対人関係の練習にしてもらえたり、そこからさらに困り事を聞いていけるようになったり…ということを考えています。
施設内の様子
本棚には子どもも大人も読める本をあえて混ぜて置いている
くつろげるようマットを敷いたスペース
部屋の中は、手前側に椅子やソファーを置いていますが、くつろげるスペースが欲しかったので、部屋の奥側にゆったり過ごせるスペースを用意しました。マットがあって、椅子を全く置かないところです。
“ちょっとモダンでスタイリッシュな感じ”の相談室
“ちょっとかわいらしい雰囲気”の相談室
あと、相談室が二つありますが、それぞれテイストを全く変えました。相談する子どもたちが、どっちがいいかを選んでもらえるようにしてあります。“ちょっとモダンでスタイリッシュな感じ”と、“ちょっとかわいらしい雰囲気”の二つです。いろんな世代の子たちも来るでしょうし、その日その時によって気分を変えてみたいというのもあるかな、と思って用意してあります。
ユースへの開放をしていないときは、当院の婦人科の受診できた利用者の避妊指導をこの施設内で行ったりもしています。病院の中だと物々しい感じになってしまいやすいので、カフェっぽい雰囲気だとゆっくり話をできるのではと期待しています。「街の保健室」ですから、自分も大事にされていると感じてもらいたいですしね。
ちなみに水槽は、院長が「生き物に触れる機会があった方がいいだろう」と私費で提供したものです。小学生に大人気です。
――開設はこの4月だったとのことですが、利用者の状況は?
幸﨑:4月1日にオープンしたばかりですが、利用者が少しずつ増えている印象です。オープンユースが月に2回、個別の相談は月に4回やっています。
オープンユースは第2・第4土曜日は3時間開放しており、子ども・若者の参加者は4~5人くらいです。多い時は一日で十何人ということもあります(地域の行事と被ると急に減りますが…)。親と一緒にくる子もいますし、支援者の見学も受け入れているので、興味を持った方が来たりすることもあります。
500円で30分の相談ができるワンコイン相談をやっているのですが、それにはすでに何人か来ました。相談者の特徴としては、当日キャンセルが割と多い傾向にあります。親が息まいて予約を取ったけれど、本人が直前になって行きたくないと言ったり…というのは、この業界でのあるあるだと思っています。
相談内容は、500円で対応するレベルのものではないといった状況です。当初、この相談窓口にはローリスクが寄せられることを想定していました。例えば、知識を知りたいとか、ちょっと悩んでいることをどうすればいいか教えてほしいとかといったことです。ですが、相談者からしてみたら、そんな内容に収まるわけは全然なくて、不登校で学校に行き渋っていることに悩む親子だったり、障害を持っていて地域の支援者に相談していたけれど、性に関する悩みには支援者がうまく踏み込めなくて相談先に迷っているカップルだったり、そのほかにも当院受診中の女性で医師が丁寧に指導した方がいいと判断して予約を取ることもあります。
私たちとして、ワンコイン相談繰り返し受け付けていくよりも、一回来てもらった上で、話を伺い、情報提供だけでよいか、医療が必要か、当院で対応できるか、他機関への紹介が必要かを判断することが役目だと思っています。
ここに相談に来る方から聞かれるのは、実は性のことよりも、メンタル面の話題が多い傾向にあります。学校へのいきしぶりやアディクション行動の症状を訴える方もおり、社会に児童精神の受け皿が十分にないために、ここに話しにくるのだと思います。中には、専門の医療機関だと予約が取れなくて1年先になるので、それまでにどうしたらいいか教えてほしいなんて、相談で来ることもあります。
とりあえずの受け皿として、聞いてほしい、どうしたらいいか分からない、相談をしたけれど腑に落ちないといった方々が多い印象がありますね。
その一方で、思春期外来として探してくる人もいるので、どこでどうアンテナを立てているのかは人それぞれとも言えるかもしれません。アンテナを立てきれていない人へのアプローチがこれからも必要になると考えています。(注:今年の4月から思春期外来も開始し、看護職で思春期保健相談士の資格を持ったスタッフが45分3,000円で面談をしています)
――「アンテナが立てきれていない思春期世代にどう知ってもらうか」は、最大の課題ですね。
幸﨑:そうなんです。中学・高校生で性的なアクティビティーが高い子たちにどうやってここに来てもらうか、というのが今、大きな課題です。PRはこれからも必要になります。
そのほかに、教育委員会に協力してもらって、学校で周知…というのも考えていたのですが、行政機関や教育機関との連携はまだまだ難しい状況です。
ですので、今は、養護教諭、スクールソーシャルワーカーや、スクールカウンセラーといった学校で支援者として働いている方々の中で、アンテナを高く張っている人たちがこの施設を知ってくれており、その方々からのご紹介での来所してくれています。また支援者向けの勉強会を開催し、ネットワークを広げているところです。情報提供や連携を続けていって、支援者間での信頼関係を築いていくことが重要だと思っています。
――そのために、まず、その人たちの近くにいる大人を巻き込んでいくことが必要ですよね。
幸﨑:その通りだと思います。問題のあるケースに遭遇すると、私たちは子どもを変えないといけないと思いがちですが、やはりまず大人が変わらないといけません。大人への教育活動を並行して行っているのは、本当に良かったと、自分でも確信しています。スーパーバイズが不足している場合や、連携ができずに困っている場合があったら、ぜひ私たちに相談してほしいですね。
あと、これまでの経験から、教育の場・福祉の場・医療の場で、それぞれの視点が違うというのはありますが、その中でも、子どものケースを見るときに、医療の視点が驚くほどに欠けているというのを強く感じることがあります。
子どもの不登校の問題には、メンタルに関連したこともありますし、家族関係の要素によることもあります。中には、親の精神疾患が関わっていることもあったりします。でも、医療の視点がないと、そのような親の精神疾患の問題に気付かなかったり、過小評価してしまうことにつながることもあります。子どもにばかりに目が向いてしまっているので、家族にどうアプローチしていくかという視点で、多職種でもっと連携していくことが必要だと思っています。複雑かつ深刻な子どもの話を聞く中で、最近、日増しにその思いが強くなっています。
――学校で子どもたちに向き合っている方々からも相談を受けることなどはありますか?
幸﨑:時々お話にいらっしゃいます。思っていたよりも、養護教諭、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーがかなり困難なケースを抱えている、というのを感じています。特に、性の相談に関するスキルがないと、どんなアプローチができるのか、どう説明していいかわからないということもある印象です。専門職のとしての経験が少なくてうまく立ち回れない方もいるかと思いますので、そういった場合は、専門職の方々にも、まずこのKuKuNaを活用して連携していけたら、と思っています。
――視点を広げていくということはもっともっと必要になりますよね。社会全体へのアプローチも求められていきますよね。
幸﨑:そうですね。大人への教育をして社会全体を変えていくという意味では、例えば、一般企業に出向いて行って、子どもの健康や、自分たちの心の健康といった視点で話すこともできるのでは、と考えています。
いまや保護者向けだけではなく、性に関する課題にみんなで向き合わないといけない社会になってきているわけですから、一般企業などにもそれぐらいのスタンスで地域の活動に目を向けてほしいということを伝えていくのはよいことだと思っています。
当院は、産婦人科、婦人科、小児科などが中心ですので、妊活の問題、子育ての問題、女性のキャリアをどう構築していくかなどなど、企業と一緒に考えていきたいと思っています。
――これからの課題などはありますか?
幸﨑:いま、本当に困っているのは「スタッフをどう育てるか」という点です。特に、思っていた以上に多いメンタルの相談に対応するためのスキルを高めることが必要だと感じています。
当院での思春期外来は自費診療にしていますが、あくまで相談であって治療ではありません。今抱えていることをどんな風に整理してどこにつなげるか、親がどう向き合えばよいか、生活の中でどんなことを変えていけるか、などはこちらで助言できますが、スタッフがその経験とスキルをどうやって学んでいくかというのは今後も考えていくことが重要です。また、橋渡しをする専門機関・関連機関がまだ少ないので、そこも課題です。
幸い、当院には公認心理師や心療内科医もいるので、そちらに相談したりスーパーバイズを受けたりしながら、理解を深めるようにしています。それができるのは、当院の強みでもありますね。
――思春期保健相談士の資格は、いつ取りましたか?
幸﨑:取得したのは2010年くらいです。取得前から思春期のこともやらないといけないと思っていたので、当時はとても勉強になりました。今は状況もかなり変わってきているようなので、また時期を見て、ブラッシュアップをしなければと思っています。
思春期保健相談士は資格取得よりも、その先が大事だと思っています。自分で考えて、資格を生かして、自分で主張して活躍すべき場をつくるというところ、今、まさにやっているところです。
――思春期保健相談士や、専門職の方々に向けて、メッセージをお願いします。
幸﨑:思春期保健相談士の方々や専門職の方々の中には、どうやって自分の知識やスキルを生かしていこうかと悩まれている方もいらっしゃるかと思います。また、自分で信念を持って、日々の業務や啓発を行っている方もいらっしゃるかと思います。
折れることなく活動をしていくと、アンテナが立っている人はつながってくれます。そうして、つながっていくと、またやれることが増えていくんです。私も、今回のことで本当に勉強になりました。
皆さんも、自分の信念を大事にして、ぜひ、つながりを広げてください。
ユースウェルネスKuKuNaとは
思春期前後の子ども・若者が、悩みや不安を相談できる場所として、2024年4月に開設された。コンセプトは「子ども・若者のための街の保健室」。性と生殖に関する健康(Sexual Reproductive Health and Rights)に関することをはじめ、さまざまな悩みや相談に対応している。また、個別思春期相談、保護者や支援者向けの教育活動なども行っている。KuKuNaとは、ハワイの言葉で「ひだまり」を意味する。
今月の人
幸﨑 若菜(こうさき・わかな)
2004年3月、岡山大学医学部保健学科看護学専攻にて助産師免許取得後、都内病院勤務を経て、05年8月医療法人社団向日葵会まつしま病院入職。11年1月思春期保健相談士の資格取得後、まつしま病院での勤務の傍ら、日本家族計画協会にて思春期相談に従事。同年2月に性暴力被害者支援看護職(SANE)取得。18年4月から2年間高知県立大学看護学部助教として勤務後、20年4月にまつしま病院に復帰。24年2月、まつしま病院ユースウエルネスKuKuNa室長に就任。