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ニュース・トピックス

【インタビュー】YELL~エール~
<1>船津裕子さん(静岡県)

第831号

 本会の活動は、同じ方向に向かう仲間の存在によって支えられています。そんな仲間を紹介する連載(不定期)が始まります。当面はJFPA思春期保健相談士®(以下思春期保健相談士)の皆さんにご登壇いただきます。
 互いにエールを送り合うような関係でいたい、そんな思いを込めて連載タイトルをYELL(エール)としました。


第1回目のゲストは船津裕子さん(静岡県・薬剤師/JFPA思春期保健相談士®)
聞き手:杉村由香理(日本家族計画協会家族計画研究センター センター長)

――今日はご多忙のところありがとうございます。まず船津さんと本会の最初の関わりはどこから始まったのでしょうか。

船津:産婦人科医の夫から情報を得て「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SRHセミナー)」に行きました。それも何と、沖縄会場。講師や杉村さんが“かりゆし”を着ていて…。あれが初めての出会いだと思います。それで私はJFPAのセミナーに行くようになり、思春期保健相談士というのを知って…。そのときはあまり思わなかったのですけれども、色々クリニックで人に関わりを持つうちに、やっぱり思春期の問題に向き合い何とかするのが一番いいのだなということに気付き、勉強しなきゃと思って。セミナーに参加させてもらったら、そこで仲間、すごい仲間がいて。一念発起といいますか、これは資格を取っただけ、知識を得ただけではなくて、ちょっとやっていこうかなと、本格的に相談室を始めることになりました。

――まずセミナーにいらして、思春期保健相談士の資格を取った後で、勤務先のクリニックに思春期の相談室をつくられたのですね。

船津:そうです、きちんと銘打ったのは。その前から話したりはしていたのですけど、相談料ももらってないし、今でもそんなにはもらってはいませんが。処方された薬を渡す時、ちょっと外来では話できないよね、という人を控室に呼んで話していたのですけれど、やはり色々出てくるので、これはもう「相談室」を作ってやるべきだと思って。思春期保健相談士の資格を取ったことですし。薬剤師の相談室だと何となく、格好がつかなかったものですから。

――セミナー受講者の職域を見ても、薬剤師さんは少なくて、船津さんの本来業務からすると、思春期の相談は異色ですよね。思春期保健相談士は役立っていますね。

船津:クリニックでは薬の説明が入口になりますから。やはり薬剤師の相談室では薬の話でしょ? みたいになってしまいますから、思春期保健相談士を前面に出してやっていますし、元々発達障害のことは少し勉強していたので、今は神経発達症と言うようになりましたけど、その発達特性、障害まで行かなくても特性ってみんな持っていて、そこに向き合っていくと、かなり前向きになれるというか。そして発達特性が女性ホルモンの波であぶり出されてくるっていうのをすごく感じていたので、そこの2つですかね、柱は。女性ホルモンと発達特性です、私の相談室は。

――相談室とクリニックの連携もできますね。

船津:面白いのが、相談室にこの子は最初来た方がいいなと、診察室で「はい、月経は…」とかなんかやっているよりも、ちょっとまわりから、環境のことから話していった方がいいかなっていう子は、先に相談室に来てもらって、そうするとその中で「貧血の検査もした方がいいよねとか、月経のこともあるから次は診察もしてみたら」という逆パターンになることです。前は全くそういうことはなかったけれど、診察に来る子にちょっと相談室を…みたいなのはあったけど、相談室目当てで来た人が婦人科にかかるっていう。だから多分北村先生の市谷クリニックでやっているようなことなのだと思います。

――すごく理想的な形だと思います。相談室は予約制ですか?

船津:はい予約制です。ですから口コミで知って問い合わせて下さったり、あと特別支援学校の性教育にも呼ばれていくようになったので、児童養護施設の方から、話を聞いてほしいという場合はまず相談室にお呼びすることがありますね。

――クリニックと、思春期相談とで2本立てですね。

船津:両輪でみようということで。だいぶ相乗効果はあると思います。

――確かに! 相談室を知らなくて婦人科のクリニックに来た人に、背景に何かありそうと思ったらすぐ相談室の方に回すこともできるし、相談室に来て「こんなの相談している場合じゃないでしょ」っていう時は間髪入れずクリニックにと。JFPAの「思春期・FP相談LINE」にも、こりゃ治療だよ、っていうのがありますけど、情報提供しかできませんからね。

船津:思春期保健相談士は現場で生かされているだけでなく、この名称は講演で養護の先生などに結構響きます。女性ヘルスケアをやらなくてはと思っている静岡県内の仲間が集まってきて、勉強会をしているのですが、特別支援学校の性教育をする先生だったり、あとは今年7月に静岡県産婦人科医会が当番で開催する「日本産婦人科医会性教育指導セミナー全国大会( http://seisemi45.umin.jp/ )」にも登壇してくださる先生、他に薬剤師が4人もいて、全員思春期保健相談士を取っています。

――それはすごいですね。

船津:はい、4人のうち2人は私が取ったというのを聞いてすぐに取りに行ったんです。その一人は、「SRHR pharmacy PROject」という一般社団法人を去年の年末に立ち上げたんです。それと依存症専門病院の薬剤部長さん。彼女は、依存症は人間の本質であると。だから、やはり性のことも大事だし、権利の問題も大事ということを、すごくよく分かっているのです。彼女は私より先にセミナー受講して資格を取っていました。

――皆さんすごいですね。そうやって現場で必要性を実感している人たちが、思春期保健相談士を取ってくださるというのは、本会としては名誉なことで、身の引き締まる思いでいます。内容のブラッシュアップやスキルアップの機会の提供を怠ってはいけませんね。2022年度に認定者が10,000人に達しました。長く続いていることも自慢です。

船津:すごいですよね。

――そういう意味でも、思春期保健相談士として活躍されている方を紹介して、新たに資格を取った方の道標にできたらいいなという思いがあります。船津さん今年何か新しく始めるとおっしゃっていませんでしたっけ?

船津:はい、女子だけの自立援助ホームを富士市で開所予定で、夫が代表理事になりました。他になる人がいなくて。弁護士さんになってもらおうと思ったら、住所が明かせないのだそうです、弁護士さんは、職業柄。

――なるほど、逆恨みされたり、抗議が直接来たら収集できませんものね。

船津:ということで、一番傍観者だった夫が代表理事…。一応今年度内に開所予定で、物件だけは決まって、リフォームをこれからするところです。

――ついに動き始めているんですね。

船津:私一人ではちょっと無理だったといいますか、私が率先してやろうと思ったわけではなくて、地域でネットワーク作っていた就労支援のNPOにいる人が、もう待ったなしだと言うという事件がありました。それは、公園でさまよっていた、家に居場所のない女の子を助けようと、一緒に東京に行った男の子が、結局それが誘拐(犯罪)になってしまうと…。それで女の子の自立援助ホーム作りたいねと。一緒にやりませんかって言われて。「弁護士さんさえ見つかればね」て言いながら。私は見つかる訳ないって思いながら、そうしたら本当に見つかって、しかも2人。子どもの権利条約の委員をしている人が、2人見つかって。一人は自分が高校生のときから、子どもの人権にかかわる仕事をしたいと弁護士になった人で、その2人に出会っちゃったことが大きくて、これはやれということなのだなと。ですから「仲間」。

――船津さんの今日のキーワードは「仲間」と「出会い」ですね。本会との関わりも沖縄での出会いですし。

船津:そうそう、淀川キリスト教病院の元理事長の柏木哲夫先生。私の娘が通っていた金城学院大学の学長をされていたときがあるのですけれど、そのときの言葉で、「使命」っていうのは命を使うことなのだけれども、例えば私は薬剤師で、薬剤師の仕事をしていても、こっちに惹かれるというか、これやらなくちゃ、あれやらなくちゃって、どんどん薬剤師から外れていくじゃないですか? そこで、薬剤師がこんなことまで手を出しちゃってとか思うことがあります。でもそれがだめではなくて、自分がこれが必要と思ってやってる仕事が、いわゆる「使命」で命を使うこと、これに命を使いなさいということ、つまりは人のために散らす人生そのものなのだ―と娘から聞いて、自分もそれで認められたって感じです。

――良いお話ですね。

船津:だからね、自立援助ホームもそんな感じで流れに任せて、これが自分のやるべきことかなって。だから自分で道を開拓じゃなくて、なんかこう、なんていうんでしょう、そんなに必死にやろうみたいなことではないんです。

――日頃の生活が溝を掘って、そこに水が流れるように色々な人が集まってきて。流れに任せるとはいえ、そういう人に向かって流れるものなんですねぇ。

船津:それは感じる、すごく感じます。

――自立援助ホームの、お金は大変なのではないですか?

船津:事業を始めるには、人・金・物と言われます、物と人はどうにかなりそうなんですけど、金が一番私たち大変。占いでもこのメンバーは、みんなお金がないんだそうです(笑)。大金を手にしたりする星の人は一人もいないと。でもお金に困る人も一人もいない。だからどうにかなるんじゃないかって。人が集まればそこに国から補助が下りるので。出さなきゃいけない所には出していかなきゃいけないかもしれないから…そんな感じです。

――東京にも、東横キッズと呼ばれる若者がいます。船津さんが作るのはそういう子たちのためなのですね、お話を聞いたときから興味があって。富士市にもということは日本中に存在するということなのですよね、こういう子たちが。

船津:いるいる、います。一つの例ですが精神科に通って薬を飲んでいる子っていうのは、医療につながっている子じゃないですか? だからオーバードーズしたって、なんだかんだと医療者が介入することができるけれど、OTCのドラッグのオーバードーズなどは、普通に学校に通っていて、普通に振る舞っている子が苦しくて、OTCドラッグストアに行く。そういう依存がつく方が怖いし、いっぱいいます。だからよく、精神科の薬を一杯飲んじゃったっていうのはわーって思うけども、それよりもむしろ怖いし、見えているのは氷山の一角で、そういう子たちはいっぱいいるよと、現場の方から聞いていますし、まさにうちの相談室で見てる子たちっていうのは、普通に見えるけども、頭が痛いとか不定愁訴がある子っていうのは、必ず絶対理由があるわけで、そこで聞くと、リストカットしてたりはもう本当に当たり前のようにあるから、だから薬剤師も知っておかなければいけないし、特別な子達だけじゃない。目に見えない所であることも、理解しておかなければいけないのだと思います。

――私もいっぱい経験しました、外来で。血圧絶対測らない子が、私たちに慣れてきて、色々話せるようになった頃「測ってもいいかな」って、腕出したらリストカットの後がいっぱい。血圧測りたくないのではなく、腕を出せなかった。絶対外見だけでは分からないものを抱えていますね。

船津:でも何かのサインはありますからね。だから謎解きみたいな感じですよね。

――勉強や、多くの症例に触れて、サインがキャッチできるっていう態勢は絶対に必要ですよね、そうなるとセミナーの価値は色々なところで見出せそうです。

船津:あります。あります。

――自立援助ホームの運用が始まると、それまでに関わった人やその周りの人、経験など富士市にとっては大きな財産になりそうですね。

船津:頑張って成功させるしかないのですけど。夢を追って、まずは一軒目ね! なんてみんなで言っています、一軒でぽしゃるかもしれませんけど。

――ここまでお話を伺って、自分がやろうと思っていること、向かおうとしている方向ががはっきり決まっているってという印象を持ちました。流れに任せてとお話しされていましたが、人の流れ仕事の流れと、これからどんどんいろんなものが船津さんのところに流れてきそうな気がしますよ。

船津:いやーもう、私の場合スローペースですけれど。

――使命を感じているところに注力すればいい訳ですよね。こんなふうに奮闘している方のスタートに思春期保健セミナーがあったっていうのは、うれしいなぁ。

船津:私にとっても本当に思春期保健相談士はすごく大きい軸になっていますから。あと、学校で話すと、思春期保健相談士ってなぁに? よく聞かれます。すごく興味持ってる子が多い。薬剤師っていうよりも、思春期保健相談士って言ったときに、質問のところにも「初めてJFPA思春期保健相談士を知りました」って必ずいます。

――生徒さんが?

船津:そう生徒さん。私もなりたいとかね。特別支援学校なんですどね。

――悩みがいっぱいあるのかしらね。そういうのを相談できる先があるっていうことを初めて知って、なんだろうって興味を持ってくれたのでしょうか。

船津:私もなりたいので詳しく聞きたいとか。あと、助産師さんの学校で、SRHRを講義する中で、私も思春期保健相談士を取りたいという助産師さんの卵たちがいました。毎年います。結構広めてますよ(笑)。

――コロナ禍でずっと3年間オンライン開催でした。でもコースⅢの実践編はリアルで、横の広がりといいますか、仲間作りは大事ですよね。会場にお越しいただいていた頃はロビーで夜通し語らってましたもの。

船津:あれは本当に忘れられない、体験でした。

――セミナーで知り合って、ずっと続いていますよね。

船津:私もそうです、6人、その時の仲間。何かあるとたまにですけれどLINEして、こういうケースどうしたらいいと思う?って。何かのときには、あなただったらどう思う?って、本当に迷ったときには頼りになる友達。本当にありがたいと思ってるし、私たちだけじゃなくて、いっぱいいると思います。

――そういったつながりを広げていきたいです。こんなことしてる人がここにいるんだっていうのをお知らせするだけでもまた広がったりするので。そういう意味でもこの連載をできるだけ続けていきたいなと思っています。今日は色々お話聞けて楽しかったです。

船津:思春期保健セミナーに行ったときには、全国で孤立していて。やりたいけど孤立している人たちが、6人のグループですごく分かち合えたっていうのが、すごく大きいと思っています。みんなやる気はあるんだけど、なかなか地域のネットワークの中でとか、あとは病院の中で、自分だけ動きが取れなくなっていて。だけど仲間に出会え思春期保健相談士を取って、地域に戻ってくると、この資格が外とのつながりをまた作ってくれる。私それまでは本当にクリニックの中で一人でやっていたので、それがもとで色んな地域のネットワークの中に組み込まれるチャンスになったとすごく感じています。これがなかったら、今は本当にないと思う。薬剤師っていう肩書きだけではつながれなかったと思う。もっと時間がかかったかもしれない。地域の児相の相談員なんかにもなったりしていて、Badケースがあると呼ばれて、児童養護施設に行って、そのケースをみんなで話し合ったりするのに招聘されたりする。そういうのもつながったっていうのは思春期保健相談士を取得したおかげ。ありがとうございます。

――連載の第一号にふさわしいまとめの言葉をいただきました。船津さんのご活躍、応援しています。ありがとうござました。


今月の人

船津 裕子(ふなつ・ゆうこ)
1960年東京生まれ。静岡県富士市在住。昭和大学薬学部卒業後、勤務薬剤師を経て2006年、産婦人科医である夫の開業に伴い、船津クリニック勤務。薬剤師業務の傍ら、思春期保健相談士として生きづらさを抱える女性を医療との両輪でサポートする相談室を院内に開設。特に個人の発達特性の自己理解に力を注いでいる。


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