機関紙

<22>聖路加国際病院小児科 真部淳

2017年01月 公開
シリーズ遺伝相談 特定領域編10

小児がん



聖路加国際病院小児科 真部淳

はじめに
 小児がんは国内で1年間に約2千人が発症する比較的まれな病気です。約半数は白血病やリンパ腫などの血液腫瘍であり、残り半数は脳腫瘍、神経芽腫、胚細胞腫瘍、網膜芽細胞腫、肝芽腫、ウイルムス腫瘍、骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫などの固形腫瘍です()。このように小児がんは胃がん、肺がん、乳がん、大腸がんなどの成人がんとは全く異なる疾患群から成り立っています。
 また、成人のがんは多段階発がんといって、遺伝性素因の上に喫煙などの環境要因がいくつも積み重なって発症することから、生活習慣病と同様、「がんの予防」も重要なテーマとなってきます。
 対照的に、小児がんは低年齢で発症することから、遺伝性素因の関与が大きく、環境因子の影響は少ないと考えられ、多段階発がんの概念は当てはまらないと考えられてきました。しかしながら、実際には遺伝性あるいは家族性の発がんは極めてまれであり、私たち小児科医は小児がん患者の両親に「遺伝性はあるのか?」と問われると、即座に「ほとんど関係ありませんから安心してください」と答えてきました。
 ところが、近年の遺伝子解析の技術の進歩により、その答えはそれほど正しくはないことが明らかになってきました。


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古典的な遺伝性がん
 網膜芽細胞腫には孤発性のものと家族性のものがあります。前者は1歳以上に起こり、片眼性であり、遺伝性はありません。後者は1歳以下に起こり、両眼性であり、遺伝性があります。また、後者では骨肉腫などの他の小児がんを合併することもあります。
 米国のクヌードソンは1970年代にこれを説明する有名な仮説を立てました。細胞には一対2本の染色体があります。網膜芽細胞腫の発症にはその染色体にあるがん抑制遺伝子が2本とも働かなくなることが必要です。孤発性の網膜芽細胞腫の患者では、まず網膜の細胞で1本の染色体上の遺伝子に変異が起こり、その後にもう1本の染色体上の遺伝子にも変異が起こってがんが発生する。一方、遺伝性の網膜芽細胞腫の患者では、生まれたときから体の全ての細胞で1本の染色体上の遺伝子変異が起こり、ついで網膜の細胞でもう1本の染色体上の遺伝子にも変異が起こってがんが発生する。だから、遺伝性であり、しかも発症時期が早く、また両眼性に起こりやすく、さらに、例えば同じことが骨の細胞で起きれば骨肉腫になるというモデルでした。
 このtwo-hit仮説は20年たって証明されました。発見された遺伝子はRB1と呼ばれ、クヌードソンの予言が裏付けられたのでした。とはいっても、網膜芽細胞腫は極めてまれで1年間に100例以下しか発症しません。一番多い小児がんである急性リンパ性白血病では遺伝性の報告はほとんどありませんでした。


驚くべき発見
 このように小児における遺伝性がんは網膜芽細胞腫以外ではまれです。成人でも遺伝性がんは少ないのですが、その中ではリ・フラウメニ症候群が有名です。これは乳がん、肉腫、副腎皮質がん、脳腫瘍、白血病などを45歳以下で発症する家族性がんで、90年代にTP53というがん抑制遺伝子の変異で起こることが分かりました。その後、家族性大腸ポリポーシス(APC遺伝子)、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(BRCA1、BRCA2遺伝子)、神経線維腫(NF1遺伝子)など、まれながらもいくつかの家族性がんが見つかってきました。
 これらの遺伝子変異は患者の全ての細胞に見られ、ジャームライン(germline)変異と呼ばれます。通常は遺伝性が明らかですが、時に孤発例も見られます。これらの家族性がんは当初は小児がんとはあまり関係ないものと考えられてきました。ところが2015年に米国のセントジュード小児病院で、明らかな家族性のない小児がん患者のジャームラインの遺伝子変異を調べたところ、なんと白血病では4%、脳腫瘍では8%、ユーイング肉腫では11%の症例で上述したような遺伝子の変異が見つかったのでした(Zhang J. N Engl J Med 2015;373:2336)。
 今後は小児がんでも遺伝性、あるいは少なくともジャームラインでのがん抑制遺伝子変異の可能性を考えなくてはなりません。また、たとえその遺伝子変異が親から引き継がれたものでなく、その子どもに新たに(de novo)生じたのであっても、その子どもが将来、自分の子どもを持つと次世代に影響が伝わる可能性もあります。このような新知見を臨床現場でどう考えていくのか。まさに、叡智を集結すべき時です。

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