機関紙

<20>国立精神・神経医療研究センター 後藤雄一

2016年11月 公開
シリーズ遺伝相談 特定領域編8

ミトコンドリア病



国立精神・神経医療研究センター 後藤雄一



はじめに
 ミトコンドリア病は、細胞内でエネルギーを産生しているミトコンドリアの機能低下による病気の総称で、その特徴は多様性である。
 病気の原因は遺伝子変異によるものがほとんどであるが、それには核DNA上にある遺伝子とミトコンドリアの中にあるミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異とがある。そのために遺伝形式もさまざまになる。また、ミトコンドリアはどの細胞にも存在するために、その機能低下による臨床症状も多彩である。さらに、発症年齢も臨床経過も多様である。
 このような臨床的多様性は、特にmtDNA変異で起きる病態では著しく、それはmtDNAの特徴が鮮明に反映された結果とも考えられる。本稿では、ミトコンドリア病の原因となる遺伝子変異について概説する。


ミトコンドリアDNA変異とその遺伝
 mtDNAは、1万6千余りの塩基で構成されたH鎖、L鎖の2本鎖が環状の構造をしている。13個のタンパク質(全て電子伝達系酵素複合体のサブユニット)、二つのリボソームRNA、22個の転移RNAをコードしている。
 mtDNAは1個のミトコンドリアに数十個存在し、ミトコンドリアは1個の細胞に数十から数百存在するので、1細胞にmtDNAは数百から数千個存在している。病気の原因となるのは、欠失/重複、点変異という質的変化と細胞内のmtDNA数が減少する欠乏(枯渇)状態という量的変化である。
 すでに病気と関連があるとされる欠失/重複や点変異は200種類以上ある。細胞内にあるmtDNAの一部が変異型である状態(ヘテロプラスミーという)で見つかる場合は、変異型と野生型の比率が表現型の発現に重要で、量的な変化も質的変化と同時に存在していると言える。
 ヘテロプラスミーはある一定の変異率以上のときに細胞機能に影響する。最も頻度の高い3243変異では90%以上になって初めて、電子伝達系酵素の活性低下が捉えられる。このような閾値の存在は、変異率が閾値以下の場合は細胞機能が低下せず病気が発症しないということを意味しており、変異mtDNAの存在が病気であることと同じ意味ではないことになる。
 mtDNAの遺伝学的特徴で最も際立っているのは、母系遺伝形式である。受精卵には多くのミトコンドリアがあり、数十万個のmtDNAが存在している。一方、精子には中間部分に少数のミトコンドリアが存在するのみである。しかも、精子が卵に受精する際にほとんどの精子ミトコンドリアは卵に侵入しない。たとえ侵入しても、精子由来のミトコンドリアは後に消失することが知られている。従って、受精卵のミトコンドリアとmtDNAは全て母由来になるのである。
 ミトコンドリア病を起こすmtDNAは全て母から伝わるかというとそうではなく、ミトコンドリア内では比較的頻繁に欠失や点変異が起きていることが最近になって明らかになってきている。このような突然変異は実際の症例でも証明されている。


核DNA上の遺伝子変異
 ミトコンドリア内には1500個ほどのタンパク質が存在しているので、それらをコードしている遺伝子変異は病気の原因になる可能性がある。現在のところ約200個の原因遺伝子が見つかっており、最近の次世代シークエンサーを用いた研究で新たな原因が次々と明らかになっている。
 これだけ原因となる遺伝子が多いということは、臨床症状が多彩になることは十分理解できる。逆に、原因遺伝子を同定し症例を積み重ねることで、臨床症状やその経過などの特徴を理解できるようになる。
 ミトコンドリア病を起こす核DNA上の原因遺伝子を分類すると表1のようになる。最近、注目されているのは不良なミトコンドリアを細胞内で処理するミトファジーに関連する分子の遺伝子変異がパーキンソン病などの神経変性疾患に関わっていることが明らかになったことであろう。また、脂肪酸代謝に関わる酵素異常が電子伝達系酵素活性低下を来すなど、思いがけない病態が見つかってきている。
 核DNA上の遺伝子変異で起きる病気は、常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性などあるが、圧倒的に常染色体劣性が多い。

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おわりに
 ミトコンドリア病は原因遺伝子が多数あることから、遺伝形式もさまざまである。正確な情報を得るためには、原因遺伝子を明確にすることが求められる。mtDNAの検査に加えて、核DNAの検査を積極的に行うこと、そのような体制整備を早急に確立することが必要である。

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