機関紙

2005年度(2006年更新)

2009年06月 公開
 平成17年度の本会クリニックでの取組を顧みる時、日本産科婦人科学会をはじめとした学際的6団体の1つとして、「低用量経口避妊薬(OC)の使用に関するガイドライン」の改訂に着手できたことが最も印象深い経験となった。最終的には日本産科婦人科学会編として世に出されたが、先進国で利用されているOCガイドラインや関連する文献の収集など、その作業は甚大であった。協力いただいた関係各位に紙面を通じて心から感謝申し上げたい。本会クリニックには常勤2名(所長である筆者と事務系職員)に過ぎず、その他泌尿器科医、精神科医、助産師、相談員など大勢の非常勤スタッフによって支えられていることをまずもってご報告したい。しかし、取組の内容は多岐にわたっており、診療、各種電話相談、面接相談に加えて、外に向けては指導者を対象としたセミナーの開催、性の健康教育、メディア対応、各種審議会・委員会への出席、研究活動などが行われている。すべてを漏れなく報告することは困難であるので、平成17年度の主なる活動概要の紹介にとどめることとしたい。
 

(本会常務理事・クリニック所長 北村邦夫)

 

経口避妊薬(OC)関連相談の年齢階級別相談内容(上位十傑)

わが国のピル、新しい時代の幕開け

 米国に遅れること40年、1999年9月に発売された低用量経口避妊薬(Low-dose Oral Contraceptives : 以下「OC」)は、私どもが2004年度に実施した「男女の生活と意識に関する調査」によれば生殖可能年齢女性の1・9%が服用しているに過ぎない。発売から6年を経過した時点での普及率として、この数値をどう評価するか議論の分かれるところではあるが、避妊法の選択に影響を及ぼす教師や保健師、処方する医師、服薬指導に当たる薬剤師やコメディカル、OCの評価に大きな影響力を有するメディア、そして何よりも服用する側に立つ女性達の歯車がうまく噛み合っている印象は乏しい。
 OCの普及を阻害している要因としては、・副作用情報の氾濫、・OC服用に必要な経費が高いとのイメージ、・医療機関で受診する煩わしさ、・日本人のセックス観・中絶観、・ホルモン剤への偏見と誤解、など種々考えられるが、1999年OC発売当初に示されたガイドラインが使い勝手を悪くしていたとの批判が臨床現場では渦巻いていた。省みれば、OCが承認されるとエイズが蔓延する、少子化が進行するなど言われなき理由によって承認が先延ばしされていたことは事実であった。ガイドラインの中でクラミジア、淋病にとどまらず梅毒、HIV、B型肝炎など性感染症検査が求められたのも、当時のOCへの批判をかわし、承認を前に進めるためにはやむを得なかったともいえる。
 2004年8月26日、厚生労働省医薬食品局安全対策課からの招集を受けたのは本会をはじめ日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本不妊学会、日本エイズ学会、日本性感染症学会の6団体。時代に即応した新しいガイドラインの改訂に向けた作業がスタートした。それから1年半近くを要したものの、06年2月1日、(社)日本産科婦人科学会は、「低用量経口避妊薬(OC)の使用に関するガイドライン」の改訂版を発表した。本会クリニックがこのガイドラインの改訂作業に大きな役割を果たしたことは衆目の認めるところとなっている。
 改訂ガイドラインの特徴は、・処方前に課されていた煩雑な検査が簡素化された、・OCの服用開始のタイミング、飲み忘れに関する指導を明確に記載した、・OC処方手順をEBMグレード区分に基づいて解説されるようになった、・WHOの医学的適用基準のうち、カテゴリー3(利益を上回るリスク)、カテゴリー4(容認できない健康上のリスク)が明確に提示されるようになった、・OCの避妊以外の利点(副効用)に関する項目が追記された。EBM(証拠に基づく医療)を重視し、煩雑であったOC処方前の諸検査を簡素化するだけでなく服薬指導法についても具体的な基準を示し、これをもってOC処方は漸く世界の仲間入りができたとも言える。
 私どもの調査によれば、調査対象となった16歳から49歳のうち国民男女のうち1・9%の女性がOCを「既に使っている」と回答している。これを生殖可能年齢の女性人口で試算すると54万6千人となる。この一年間に「いつも避妊している」(43・8%)、「避妊したりしなかったりしている」(18・0%)と回答した女性のうち1・3%が避妊を主目的にOCを使用していることを考慮すると、およそ58%は月経周期の調節、過多月経・月経痛や子宮内膜症に伴う諸症状の改善、にきびの治療、貧血の予防など「避妊以外の利点」を期待してOCを服用していることになる。しかも、「現在は使っていないが、ぜひ使いたい」7・2%、「将来は使いたいが、今は使えない」9・9%までを加えると、将来は542万8千人がOCを使う計算になる。このような国民のニーズに応えるためには、服用を希望する女性が安心してOCを使用できるよう、OCに関わるすべての指導者がEBMに基づく処方・指導姿勢を貫く必要がある。自分の価値観を押し付け、誤った情報によって日本人女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を脅かしてはならない。
 

思春期・FTPホットライン職業別主訴

(男 性)
全体
小学生
中学生
高校生
専門校生
予備校生
大学生
家事専業
社会人
フリーター
その他
合 計 3745 52 498 1545 162 30 720 9 445 180 69
包 茎 20.4 5.8 13.1 21.3 22.2 33.3 31.3 33.3 11.7 15.0 13.0
自 慰 17.0 9.6 19.1 20.6 21.0 16.7 13.2 11.1 8.5 15.6 17.4
射 精 10.5 11.5 24.9 7.2 11.1 13.3 7.4 11.1 10.6 9.4 11.6
性 器 8.2 17.3 8.2 8.7 4.9 13.3 6.4 0 8.3 6.7 14.5
性 欲 7.3 3.8 8.4 8.2 13.6 6.7 4.7 0 5.4 8.3 5.8
性 交 4.8 0 3 4.2 4.3 0 5.6 11.1 8.3 7.8 0
STD 3.6 0 1 2.1 2.5 0 6.1 0 8.3 5.6 2.9
近親姦 3.6 0 4.4 5.9 1.2 0 0.7 0 1.6 2.2 2.9
病 気 2.7 5.8 1.8 2.5 2.5 0 3.8 0 2.5 3.9 1.4
問題行動 2.5 9.6 3.4 1.9 3.1 6.7 2.4 0 2.7 1.7 2.9
精神・心 2.2 3.8 1.4 2.9 3.7 0 1.3 0 2 0.6 5.8
妊 娠 2.1 0 0.2 1.3 1.2 0 1.9 11.1 6.5 5 1.4
避 妊 1.9 0 1 1.5 1.2 0 1.9 0 4.5 3.3 0
夫婦問題 0.3 0 0 0 0 0 0 0 2.5 0 0
不 妊 0.1 0 0 0.1 0 0 0 11.1 0.2 0 0
中 絶 0.1 0 0 0.1 0 0 0 0 0.2 0 0
その他性知識 3.4 11.5 3.8 2.6 1.2 3.3 4 0 3.8 5 2.9
男女交際 1.3 3.8 1.4 1 1.2 0 1.3 0 1.6 2.8 1.4
エイズ 0.2 0 0 0.3 0.6 0 0.1 0 0 0.6 0
その他 7.9 17.3 4.8 7.7 4.3 3.3 8.1 11.1 10.8 6.7 15.9

(女 性)
全体
小学生
中学生
高校生
専門校生
予備校生
大学生
家事専業
社会人
フリーター
その他
合計 3219 110 154 352 47 9 602 513 1158 79 160
緊急避妊 37.0 1.8 7.1 37.8 53.2 22.2 53.3 19.3 45.3 40.5 16.9
妊娠不安 6.9 0 5.2 12.5 12.8 22.2 10.1 3.7 4.8 13.9 8.1
病気 7.9 14.5 4.5 3.4 4.3 0 4 17.2 6.6 3.8 14.4
月経 6.8 29.1 27.9 11.4 6.4 0 4.7 3.3 3.1 5.1 7.5
妊娠 5.5 0 4.5 2.8 4.3 22.2 3.3 11.1 4.8 8.9 8.1
避妊 4.1 1.8 0.6 2.3 0 0 5 4.3 5.1 3.8 2.5
精神・心 3.1 1.8 5.2 3.1 2.1 11.1 1.7 5.3 1.7 3.8 10
STD 2.3 0 0.6 4.3 4.3 0 2.3 1.6 2.5 3.8 1.3
自慰 1.1 2.7 6.5 2.6 0 11.1 0.8 0.2 0.5 0 0
中絶 1.1 0 0 0.9 2.1 0 0.5 1.2 1.2 6.3 1.9
更年期 0.8 0 0.6 0 0 0 0.2 2.9 0.5 0 1.3
性交 0.7 0 1.9 0.9 0 0 0.8 0.8 0.5 0 1.9
不妊 0.7 0 0 0 0 0 0 2.1 0.9 0 0.6
夫婦問題 0.7 0 0 0 0 0 0 2.5 0.4 0 1.3
性器 0.6 2.7 2.6 0.9 0 0 1.2 0.2 0.2 0 0
問題行動 0.5 3.6 1.3 0.6 0 0 0 0.6 0.2 1.3 0.6
性欲 0.1 0 0.6 0.3 0 0 0.2 0 0.1 0 0
近親姦 0.1 0.9 0 0 0 0 0 0 0.1 0 0.6
その他性知識 1.5 4.5 7.1 1.7 2.1 0 0 1.4 1.4 0 1.9
男女交際 1 0.9 3.9 3.7 2.1 0 0.7 0.2 0.5 0 0.6
エイズ 0.1 0 0 0 2.1 0 0.2 0 0.2 0 0
その他 17.4 35.5 19.5 11.1 4.3 11.1 11.1 22.2 19.3 8.9 20.6

OC啓発セミナーに千470人が参加

 改訂ガイドラインの作成に先駆けて、「第一線の産婦人科医とコメディカルのためのOC啓発セミナー」が全国10カ所で開催された。このセミナーは日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の後援を受け、日本シエーリングと共催したもので、東京(2回)、大阪(2回)、仙台、新潟、福岡、札幌、広島、名古屋の10会場で行われた。また、OC処方現場からの強い要請を受けてガイドラインの改訂が進んだといっても過言ではない。本年3月からは、改訂ガイドラインの解説をテーマとしたセミナーも始まっている。

OC関連相談は年間4千129件

 本会クリニックでは、OC企業の協力のもと「OCサポートコール」(2千6件)「ピルサポートデスク」(2千123件)という2つのOC関連電話相談を実施している。一年間の受付相談件数は、実に4千129件に上っている。これら二つの相談は多少趣旨が異なっているので、一概にまとめることはできないが、共通項目について集計すると、相談主訴のトップは服用方法(18・6%)となっている。

避妊と性感染症予防セミナーに千732人が参加

 本会クリニックが中心となって開催しているセミナーには「避妊と性感染症予防」をテーマにしたものもある。同様趣旨のセミナーは既に6年間継続開催されており、05年度は、「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー~学校と地域との連携を考える~」として、「避妊と性感染症予防の基礎知識」「学校で教える避妊と性感染症予防」「地域の指導者による避妊と性感染症予防教育」「まとめ・討論」の4つのテーマをもって実施された。⑳日本助産師会、全国助産師教育協議会との共催、あすか⑭、ジェックス⑭、⑭そーせい、⑭ツムラ、日本オルガノン⑭、日本シエーリング⑭、持田製薬⑭、ワイス⑭など8企業の事業協賛セミナーとなっている。

電話相談は既に23年を数え

 本会が思春期の子どもを対象に「性」の悩み相談を始めたのが1982年9月。既に23年間が経過し、わが国にあって「思春期」相談としては最も定着した電話相談となっている。筆者が本会に赴任したのが88年度からであり、以来相談活動、診療録のすべてがデータベース化され保存されているが、「思春期」相談については10万千190件(男性6万3千877件、女性3万7千313件)を数えている。従来からおおよそ男性6割、女性4割が続いていたが、05年度は総数6千964件(男性3千745件、女性3千219件)と性別割合が拮抗している。
 その理由としては、「東京都・女性のための健康ホットライン」が加わったこと、緊急避妊処方施設の紹介が急増していることなどが挙げられる。
 東京都から委託されて行っている「東京都・女性のための健康ホットライン」には634件の相談が寄せられている。

東京都・不妊ホットラインは555件

 1997年1月にスタートした「東京都・不妊ホットライン」は、既に10年を経過した。この間受けた相談件数は8千829件。2000年度に千176件と過去最多を記録したものの、以降やや相談件数が伸び悩み05年度は555件に留まっている。
 開設当初は全国に先駆けた当事者相談として注目を集めたが、その後不妊カウンセリングへの関心が高まる中、不妊治療施設、行政、NPOなど全国各地で相談への取り組みが始まったことなどによって、相談者が分散しているものと思われる。相談内容をみると、トップは「治療への迷い」25・9%、「自分自身のこと」23・2%、「不妊への不安」15・3%、「夫とのこと」11・0%、「病院情報」10・3%、「病院への不満」9・7%と続く。

クリニックは思春期から避妊外来へ

 毎週火曜日、金曜日と第二土曜日に開設しているクリニックは、84年7月に開設当初はまさに「思春期婦人科外来」としての役割を果たしていた。
 しかし、21年を経た今、05年度には延べ2千234人が受診しているものの、当クリニックで初めて診療録を作成した274人の受診理由について見ると、緊急避妊106人、緊急避妊以外の避妊(OCやIUD)52人、無月経23人、月経の異常22人などというように、避妊関連が半数以上を占め避妊外来の様相を呈している。受診者の年齢分布は、15~19歳が110人でトップではあるが、次いで20~24歳70人、25~29歳29人と続き、20歳以上が5割を占めている。

参議院少子高齢社会に関する調査会に出席

 5月11日、参議院少子高齢社会に関する調査会に、筆者が参考人として招致され、わが国の少子化対策に対する提言を求められた。
 また自由民主党「過激性教育・ジェンダー教育調査プロジェクトチーム」(座長安倍晋三当時幹事長代理)が実施しているインターネット調査での調査内容の誤りを指摘し、調査内容の修正あるいは中止を求める要望書を本会、日本産婦人科医会、日本助産師会、家族計画国際協力財団と連名で提出。筆者が5月24日、安倍晋三氏を幹事長室に訪ねた。その3日後、5月27日自由民主党では、この要望を受け入れて誤りの箇所を修正した。

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