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一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<7>遺伝カウンセリングの日米比較 認定遺伝カウンセラー 田村智英子

2015年10月 公開
シリーズ遺伝相談 総論編7

遺伝カウンセリングの日米比較



認定遺伝カウンセラー(米国、日本)、FMC東京クリニック/順天堂大学遺伝相談外来
田村 智英子


来談者の思いは日米共通

 現在米国では、3600人を超える非医師の遺伝カウンセラーが活躍している。筆者は、米国に留学して遺伝カウンセラーの資格を取り、研修生として200人を超える人々の遺伝カウンセリングを自ら行う経験をし、2003年に帰国してからは、日本で遺伝カウンセリングの臨床に携わっている。そうした経験を通じて筆者は、いろいろな疾患の患者や家族の思いは日米で非常によく似ていると感じている。病気の症状に対する苦痛、将来の不安、子どもに病気が遺伝することの心配などは、国や人種を超えて人々が同じように抱える悩みなのだと思う。


医療体制の大きな違い

 患者・家族の思いは共通しているが、一方で、遺伝カウンセリングを提供する医療側の仕組みは日米で大きく異なる。
 米国の遺伝カウンセリングは、通常の医療の中の標準的な行為として組み入れられており、出生前診断センターなどを中心とした産科領域、子どもの先天異常を扱う小児科領域、さらには、遺伝性腫瘍や神経難病その他さまざまな疾患領域それぞれにおいて、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングや臨床遺伝専門医による遺伝学的な診断および遺伝性疾患の診療が行われている。また、家庭医や各疾患の専門医も、疾患の遺伝学的側面を考慮しながら診療を行うことが当たり前になっている。
 標準診療と認められているため、遺伝カウンセリングや、遺伝学的視点から有用であると考えられる遺伝学的検査、疾患の予防策、遺伝的リスクのある症状に対する特殊な検診などは全て健康保険適応で、受診者負担はほとんどなく、健康保険に入っていない人々においても、医学的必要性が認められれば、公的予算で費用がカバーされる。
 これに対し日本では、ごく一部の疾患を除き、遺伝学的検査に健康保険適応がなく、遺伝カウンセリングも私費負担となることが多い。そして、疾患の遺伝性を考慮した医療は標準的ではないので、遺伝カウンセリング専門外来を利用する少数の患者以外は、普段の診療において疾患の遺伝学的側面について十分な説明を受けていないことも少なくない。
 臨床遺伝専門医は現在1263人いるが、臨床専門医資格を持っていても、病院に遺伝カウンセリング外来がなく、日常診療の短い時間では充実した遺伝カウンセリングを行うことができないでいる医師も多い。多くの診療科で遺伝子解析などが臨床に導入されつつあるが、日本の現状の遺伝カウンセリング外来では多くの人々に対応することが難しく、しかし疾患それぞれの診療科では遺伝学的検査前後の遺伝カウンセリングを行う体制が不十分であることを踏まえ、今後の体制の検討が必要であろう。


遺伝専門職の役割の違い

 専門職の役割も異なる。例えば、米国では非医師の遺伝カウンセラーが、独立して遺伝カウンセリングを行う専門職として充実したトレーニングを経て十分な知識や技術を持ち活躍している。これに対し、日本の遺伝カウンセリングの主たる担い手は臨床遺伝専門医であり、遺伝カウンセラーは臨床遺伝専門医の行う遺伝カウンセリングに同席、補佐する立場で働いていることが多い。
 さらには、長期間の研修と難関の試験を経て資格を取り、標準的な遺伝医療を行う米国の臨床遺伝専門医と異なり、日本の臨床遺伝専門医の知識や経験には幅があり、遺伝カウンセリングの流儀もさまざまで標準化されていない。
 また、米国では臨床遺伝専門医資格を持っていない各疾患領域の専門医も疾患の遺伝性を考慮した診療を行っており、遺伝医療が各科それぞれの診療の中で行われている。
 一方、日本の遺伝医療は、病院の中央診療部門的な位置付けで設置された遺伝子診療部などの部門にて行われていることが多く、少数の臨床遺伝専門医が自身の専門領域ではない疾患も含め、あらゆる診療科の疾患の遺伝カウンセリングを担当していることが多い。


高まる遺伝医療の重要性

 以上、日米の状況を比較した。何もかも米国の真似をする必要はないが、日米の人々に共通したニーズがあるのであれば、日本の体制の改善が望まれる点もあるであろう。
 米国では、オバマ大統領がゲノム遺伝学の臨床応用を目指したイニシアチブを提唱するなど、遺伝学的視点を医療に取り入れることは、将来の医療の発展に欠かせないとして、医療政策上も重要視されている。一方、日本の遺伝子解析研究は世界に伍するが、遺伝医療の臨床は課題が多い。
 今後、遺伝の専門家と他の疾患領域の専門医や他の専門職が連携しながら、日本においても遺伝医学研究の成果を臨床に生かし、患者・家族の充実した支援につなげる仕組みを考えていくことが求められている。

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