性教育の授業と相談活動

元公立中学校　養護教諭武田　憲子

　中学校で数十年養護教諭として勤務し、性教育の授業と相談活動に特に力を入れてきましたので、以下に紹介します。なおこれは、前の学習指導要領によります。

Ａ　授業
目標
　指導の全体の目標は、自己決定力をつけることと自尊感情をもたせることです。性の様々な場面においては、だれにも頼らず一人で決めなければならないことが多々あります。その時、安全で、肯定的で、健全な自己決定がなされるかどうかによって人生は大きく変わります。自己決定力をつけるための様々なスキル、知識、能力などを中学校の段階で身につけておかなければなりません。
　自尊感情は、自分を大切にし、また、相手をも大切にし、やわらかな豊かな相互の関係を築くために必要です。自尊感情があれば、何かつまずくようなことが起きても、前向きに生きていこうとすることができます。

授業の焦点
　本校では全校一斉に計画的に発達段階をふまえて授業を実施しています。焦点は子どもたちのもっている性の知識の上限と下限の中間よりやや上にあてます。性情報は高い方から低い方へ流れるからです。

年間計画
　授業の流れに沿って年間計画を立て、それぞれの項目の目的、内容などを書いた年間計画を四月の職員会議にかけます。例として二つ挙げておきます。
▽思春期の心と体
　二次性徴の発現とともに、心も身体も急速に成長する時期に自分や異性の心と体について理解を深める。　
▽素敵なふれあい
　性交の意義と目的について知り、自分や他人を大切にし、思いやる心を育てる。

性教育推進委員会
　これらの活動の中心になるのは、学年代表、保健主事、健康教育部長、養護教諭らによる性教育推進委員会です。
 

写真１　教材の一例

保護者の了解
　保護者の方には新入生説明会で「性教育を実施します」と了解を得ます。これで後になってトラブルになったことはありません。性教育授業計画（表１）というのを立てて実践に移します。たとえば、一年①「思春期の心と体」は一時間で、授業者は担任で、それぞれのクラスで実施します。１年②「生命誕生」は１時間、養護教諭が１年全体を集めて実施します。２年②「素敵なふれあい」は１時間ずつ、養護教諭が各クラスを回ってクラスごとに実施します。

副読本・指導案
　また子ども一人ひとりに配布する「ＭＹ　ＷＡＹ」という副読本（本校自作）を、各学年で制作しています。この流れに沿って指導案も作っています。

教材
　子宮、卵巣の実物大の断面図（写真１）、胎児の断面図、赤ちゃん人形や、性交で使うサケの放精、カエルの抱接、トラの交尾などのカラー写真などです。避妊では試験管より割れにくいので、制汗スプレーの缶を陰茎に見たててコンドームの指導に使います。教材は単純でわかりやすいことが一番大切です。

まとめ
　「科学的であること」「命と愛」「望まない妊娠とＳＴＩをさける」を指導します。

Ｂ　相談活動
　子どもの幸福を一番に考え、一人ひとりへの語りかけの実践を志して、活動してきました。保健室にいても来談者はいましたが、暇をみつけては校舎内をグルグルまわって、ちょっと気になる子には声をかけていきました。そうして心に悩みをもっている子を拾い上げるのです。

　遅刻、服装違反、朝食抜き、リストカット、保健室登校などもありますが、圧倒的に多いのが性に関する悩みです。心や体それ自体の悩みだけでなく、男女交際、性被害、性暴力、性行為、同性愛、近親相姦、妊娠、ＳＴＩなど、多種多様にわたってあります。

　なかには私が頭を抱え込んでしまうことなどもありました。まず、私だけで解決できるかどうか考えて対応しました。大きな問題は担任や管理職の協力を得なければなりません。日ごろの人間関係づくりも大切です。
　養護教諭は人生航路の水先案内人というべき立場にもあり、子どもたちが事実や現実に基づいて判断し、希望をもって生き抜いていけるよう指導、保護、援助し、心を通いあわせて相談にのっていくことが大切です。

〔お知らせ〕
平成22年度の思春期保健相談士学術研究大会は、６月５日（土）、東京の日本青年館ホテルで開催します。ぜひご参加ください。