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一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<31>聖隷福祉事業団保健事業部 保健師 平野幸子

2016年09月 公開
職域保健の現場から 31

中小企業で働く人の仕事と育児の両立を支援する

聖隷福祉事業団保健事業部 保健師
平野 幸子


3人の子育てと仕事を両立するY子さん

 まずは、私が保健師として関わりのある、現在3人のお子さんを育てながら仕事をされている、Yさんのお話をご紹介したいと思います。
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 仕事中に、月1回は保育園から呼び出しの電話が入ります。電話が鳴るたびに、「また保育園? 子どもが発熱!?」と動揺します。
 子育て中の同僚とは、仕事でも精神面においても、お互いさまの精神で支え合っています。
 一方で、職場に迷惑をかけていることも事実です。急な勤務変更に伴う同僚からの不満の声が耳に入り、つらい気持ちになることがあります。仕事と育児と家事をこなしきれず、「もうやめたい、両立は無理だ」と思うこともあります。そのようなときは、自分の仕事にプライドを持つこと。また、手を抜けるところは上手に手を抜く勇気を持ち、決断するように心掛けています。
 親は遠方に住んでいるのですが、休日出勤の場合は協力を得ることもあります。大変ですが交流の機会と捉えています。
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 「職場に迷惑をかけている」と感じ、「不満の声が耳に入り、つらい」思いをされている。Yさんはそんな中でも力強く、育児と仕事を両立されています。しかし、このYさんのお話から見えるのは、やはり両立にはさまざまな社会的課題があるということです。


日本の子育ての現状
 安倍政権は「女性の持つ力には日本最大の可能性があり、その力を最大限発揮できる環境をつくる」といっています。
 中小企業でもワーク・ライフ・バランスを導入しているところは増えているようですが、いわゆるマタハラやパタハラ(パタニティーハラスメント。男性社員の育児休業取得が阻害されるなど、男性の育児参加する機会や権利を侵害する言動)問題のほか、育児休業や育児支援制度がうまく活用されていない現状も少なくないのではないでしょうか。
 妊娠・出産、子どもの入園入学、職場復帰と、親として不安になる出来事が次々にやってきます。「もうやめたい、両立は無理だ」と従業員に思わせないためには、休業・復帰に伴う本人への支援だけでなく、従業員への制度の周知および理解と協力を得る風土づくりがとても大切となります。


中小企業A社の現状 職場長の理解が重要
 私が定期的に健康相談に往訪している従業員数200人余りのA社の現状をお伝えします。
 A社では、妊娠が明らかになった時点で、職場の理解と協力を得るとともに、業務調整を計画的に行います。また、育児休業からの復帰を見守る体制づくりにも力を入れています。
 従業員は、親に見てもらえるか、無認可保育園を選択せざるを得ないかなど、復帰のために奔走しています。待機児童になってしまった場合は、育児休業を延長し、6か月の間に保育園を見つけなければなりません。通勤距離は遠くなっても、入園可能な市町村があるのであれば転居するケースもあります。
 休業後はもとの職場への復帰を基本とし、慣れた職場に復帰することでストレスをできるだけ軽減しています。
 育児・介護休業法どおり、育児休業は1年間、そして3歳までは育児短時間勤務を申し出ることができます。しかし、実際に育児短時間勤務を利用しているのは2人に1人です。取得した時間の給与は支給されません。経済的理由などから制度を利用せずに、フルタイム復帰して残業にも対応している人もいます。
 復帰後も、子どもの発熱などにより急な休みが度重なることがあり、若い従業員は有給休暇が少なく、欠勤となってしまうことがあります。子の看護休暇制度を利用しても足りないのです。そのため「有給休暇と同等の休暇制度があるとよい」といった声が上がっています。
 育児短時間勤務の場合は、終業時刻に声を掛け合うことで、気兼ねなく帰ることができます。職場の応援体制があることで、さまざまな状況を抱えながらも妊娠・出産のために退職する人は少ない状況となっています。
 その風土には、職場長の理解が最も必要です。会社が仕事と育児の両立支援を掲げ、男性の職場長へも理解を促進しています。


安心して両立できる職場風土づくりを目指して
 保育園に「慣らし保育」の期間があるように、職場にも、復帰する従業員に対して慣らし期間を設定するのも、一つの方法ではないでしょうか。
 入園後は病気をもらうことが多くなります。職場へ休む連絡を入れることは、本当に気が重いものです。出勤を優先すると、子どもは完治していないのに無理して登園させることで、病気を長引かせることになります。親も思い切って、しっかり休むことが大切です。
 また、小学校入学時には、登下校や学童保育のことなど、多くの心配があります。新入学児のいる従業員には、4月初旬、時間差での出退勤や3~4日程度の連続休暇を認めるなど、不安を十分に聴き取り、個々に見合った業務内容の調整などが理想的です。中小企業だからこそできる工夫があるのではないかと思います。
 中小企業の従業員は大企業と比較して、「仕事と育児を両立しやすい」と感じているという調査結果があります。中小企業ならではの柔軟性や創意工夫を持って、働き続けられる職場づくりを目指してほしいと思います。また、中小企業両立支援助成金(育休復帰支援プランコース)などの制度を上手に活用することもお勧めです。
 安心して仕事と育児を両立できる職場風土をつくり、女性がプライドを持って、いきいきと楽しく輝きながらキャリアアップできるような社会を望みます。

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