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一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<30>四季レディースクリニック(東京都中央区) 江夏 亜希子

2017年09月 公開
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江夏 亜希子
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その30

自分の人生を自分らしく「生き抜く」



四季レディースクリニック(東京都中央区)

 江夏 亜希子



自分らしく「生き抜く」ために

 最近、学校性教育で使っている講演タイトルは、「生きる」ではなく「生き抜く」としているのがミソです。以前は「命のバトンを受け取ったあなたへ」でした。どんな生い立ちであろうが、命のバトンを「受け取った」ことには間違いありません。しかし、大切なのはこれからどう生き、そのバトンをどう「つなぐ」のか。そしてつなぐものは果たして「命」だけなのか?
 思春期という多感な時期に、そんなことをうっすらでも考える機会を持つことは、きっといつか意味を持つと信じて、講演に臨んでいます。


現場で感じる「差別と偏見」
 以前、本紙のリレーエッセー(2014年12月号)でも書いたように、私は、医師になる夢をかなえられなかった明治生まれの祖母の影響で医師になり、月経痛などに悩む「当事者」として最も興味を持った産婦人科を専門に選びました。
 そして、現場に出るとすぐに、この国における性差別は、自分が想像していたよりはるかに厳然と存在していることに気付かされました。
 現代は男女平等が広がり、私の祖母からすれば、きっとうらやましがったであろう時代です。それなのに、「子どもを産めるかどうか」は女性にとって重大な問題で、妊孕性に関わる婦人科疾患が、まるでその女性の価値をも左右するかのような印象を持っている人は少なくありません。そのため、婦人科は「気の毒な病気」の人が行くところという偏見が根強く残っており、これが産婦人科受診の大きなハードルとなっていることは否めないでしょう。婦人科の病気の多くは予防や早期発見が可能であるにもかかわらず、です。


転んでも起きればいい
 性教育において、避妊や性感染症の予防など、「転ばない方法」を教えることは当然大切ですが、それ以上に大切なのは、転んだときの受け身の取り方や、立ち上がり方を教えることではないかと思っています。
 思春期は「失敗」を過剰に恐れがちで、家庭や学校で、親や教師の期待に応えられないことが起これば「人生が終わった」ように思いつめてしまうことも多いでしょう。しかし、人生など失敗の連続です。転んでも立ち上がればいい。でもできれば、けがを最小限にして転びたいですよね。性にまつわる問題で、役立つ場所が産婦人科であることを伝えます。
 そして、世の中には「考えなくていい、自分の言う通りにしておけばいい」と甘い言葉で近づいてくる人がいます。これが実は「搾取」の第一歩、ということも少なくありません。
 結局、自分を守る最後のとりでは「知識」です。さまざまな選択肢があることを知っていて選ばないのと、知らなくて選べないのは大きく違います。
 「自分の頭で考え、自分の足で立とう!」それが一番伝えたいメッセージなのかもしれません。


「みんなちがって、みんないい。」
 性教育講演で必ず紹介するこの詩を書いた金子みすゞさんは、私の祖母と同世代。女性に選挙権も親権もなかった時代、詩を書くことを禁じるなど横暴だった夫との離婚に当たり、幼い娘の親権を求める遺書を残して自死を選びました。それから100年近くが過ぎ、現代は性別などにかかわらず「人権」が認められる世の中になりました。それなのに、個々の意識がそれについていっていないのは、とてももったいないことです。
 人間にとって、生物として子孫を残すことはもちろん大切かもしれません。しかし、我々はきっと、そのためだけに生まれてきたのではありません。一人一人が自分らしく幸せに生きられるために、長い歴史の中でせっかく獲得されてきた人権。自分の権利を守ると同時に他者の人権を侵さない。性教育は人権教育そのものだと感じています。


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江夏氏の性の健康教育講演会風景


【今月の人】 江夏 亜希子
宮崎県出身。1996年、鳥取大学医学部を卒業し同大学産科婦人科学教室入局。2002年同大学院修了。04年から東京大学教育学研究科身体教育学講座でスポーツ医学、健康医学を学び、10年4月東京都中央区日本橋人形町にて開業。

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