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一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<6>地域保健の中で、災害時の母子対応をどのように進めていくか、実践ノウハウ3つのヒント

2017年09月 公開

災害時の家族と健康<6>

地域保健の中で、災害時の母子対応をどのように進めていくか、実践ノウハウ3つのヒント



神奈川県立保健福祉大学 准教授

 吉田 穂波


最終回に当たり、お礼の言葉
 6回にわたる連載に、ずっとお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。考えたくない、可能な限り先延ばししたい、私には関係ない...と思う人が多い中で、「母子や災害というテーマは、地域保健や行政の中で働く全ての人に関わる問題」「備えておかなければ、いざというときには絶対に取りこぼされてしまう」と、正面から向き合う勇気をお持ちくださった読者の方々は、今の、この日本にとって大変貴重な存在と言えるでしょう。
 ここまでの5回では、自分の住む土地を守り受け継いでいく次世代のための災害対応について、必要性や現場の声をお伝えしてきましたが、ここで、現場ですぐに生かせるヒントを三つご提示して締めくくりたいと思います。


①年に一度は災害時要配慮者対応まで含めた災害研修を
 勉強熱心で、しかも忙しくて自分から情報や教材を集める時間のない自治体職員や地域の医療保健関係者が集まる学びの場をつくってあげましょう。
 災害時要配慮者をマネジメントする研修はたくさんありますが、その中でも、参加した誰もが、災害をわがこととして考えられ、地域における組織横断的な多職種連携を生み出すベースとなるのは静岡県が開発したHUG(避難所運営ゲーム:登録商標第5308380号)です。この開発者の倉野康彦氏のご尽力で、石巻市で実際に調査した避難母子の症例を応用し、これをもとに「HUG/災害時要配慮者バージョン」を作成し、研修の材料としています。
 保健福祉事務所で開催した研修は左記(表1)のような流れです。


HUGとは
 HUGは、避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれたカードを、避難所の体育館や教室に見立てた平面図にどれだけ適切に配置できるか、また避難所で起こるさまざまな出来事にどう対応していくかを模擬体験するゲームである。プレイヤーは、このゲームを通して災害時要援護者への配慮をしながら部屋割りを考え、また炊き出し場や仮設トイレの配置などの生活空間の確保、視察や取材対応といった出来事に対して、意見を出し合ったり、話し合ったりしながら避難所の運営を学ぶことができる(静岡県ホームページより)
HUGの事前準備
①各グループの机の上に、HUGの図面、避難者名簿等のツール、マジックペン、ホワイトボードシート、付箋をグループそれぞれにつき1セットずつ準備しておく。アイスブレークシート、振り返りシート、アンケート用紙を参加者1人1部ずつ配布しておく(ホワイトボードがグループ数ずつあれば、ホワイトボードシートは不要)
②要配慮者バージョンのHUGカードを、地域の実情に合わせて選び、セットしておく


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②自助力向上の手助けを
 自助・共助で助かりましょうと言っても、何をすればよいのか分からず、突き放されたと感じる住民もいるかもしれません。私が代表を務めた研究班では、全国どこの自治体でも活用できるような母子向けのブックレットを作成し、無償提供しています(平成25~27年度厚生労働科学研究費補助金 健康安全・危機管理対策総合研究事業「妊産婦・乳幼児を中心とした災害時要援護者の福祉避難所運営を含めた地域連携防災システム開発に関する研究」)。
 当事者感覚で、災害のために何を備えればよいのか、分かりやすく示し、自分自身で書き込むことでオリジナルの防災手帳ができる災害時母子救護啓発パンフレットは、左記のURLから、いつでも無料でダウンロードできます。
あかちゃんとママを守る防災ノート
https://cloud.niph.go.jp/s/fd/CZ474H0ed0ibCJmFjM72

受援力ノススメ
https://cloud.niph.go.jp/s/fd/xYPZfBxw2xQ23ZYedVTI
 保健師さん必携の心のケアに関する基礎知識はこちらが大変実用的で、おすすめです。

大災害と親子の心のケア―保健活動ロードマップ―」
https://cloud.niph.go.jp/s/fd/zyqrMgZAd4AembD0NuxC

避難所における母子アセスメントシート
https://www.niph.go.jp/soshiki/07shougai/assessment.pdf

避難所情報・避難所避難者の状況アセスメントシート
http://www.nacphn.jp/02/saigai.html


③自分の管轄の地域における災害時母子ニーズを数で把握しておき、地域の関係各所と共有しておく
 皆さんは、ご自身の活躍されている地域に、もし万が一大災害に見舞われたとしたら、その日1日でどのくらいの数の妊婦、産褥婦、乳幼児がダメージを受けるのか、ご存じですか。
 行動に支障を来す妊産婦、または誰かのサポートなしには生きられない乳幼児は、最も災害の影響を受けやすく、大きなダメージを受けます。左記(表3)のような計算式を参考に、一度、ご自身がお住まいの地域の年間分娩件数を基に、「もし災害が起こったら、何人の妊婦を、産後の褥婦、新生児、そして乳児を守らなくてはいけなくなるのだろう」「そのためには、どこと、誰と連携を取ればいいのだろう」とイメージを膨らませてみませんか。
 現在、さまざまな自治体で使われ、「これはうまく行った!」という実績がある災害時母子救護ツールについてまとめました。皆さま方の、日々のお仕事に役立つことを祈りつつ筆をおきます。ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。


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