機関紙

<3>私たちが今から準備しておくべきこと

2017年06月 公開

災害時の家族と健康<3>

私たちが今から準備しておくべきこと



神奈川県立保健福祉大学 准教授

 吉田 穂波


上乗せした支援を準備


 6年前の東日本大震災では、それまで災害支援をしたことがなかった私が妊産婦支援プロジェクトを立ち上げ、多くの医師や助産師を現地に派遣し、妊産婦さんに顔の見える支援をしてきました。その中から、「妊婦さん、そして産後のお母さん、乳児にはケアが必要なのだ、と言うだけではいけない。守るべき存在なのだということを強く訴えていかなくては」と痛感しました。少子化の原因も、守られるべき母親が守られていない、そこにあるかもしれないと思ったのです。その後、どのような研究や調査をすればよいのか、模索している中で、あちこちの自治体の災害時母子支援事業のお手伝いをする機会がありました。
 災害は無作為に人々に影響をもたらすかというと、そうではありません。健常人よりも心身に支障のある人、脆弱性の高いグループ、特に子どもや妊産婦、高齢者等へのダメージが大きいのです。つまり、弱い人ほど災害による影響や被害が大きい。この認識を自治体に勤務する方々と共有するところから、災害対応へのプロセスが始まりました。公平性、公益性を重んじる行政的な感覚からすれば、住民に均一なサービスを提供することが当たり前です。しかし、経済的に困窮していなくても、福祉対象者ではなくても、心身のハンディキャップを持つ人に、より上乗せした支援を準備することへの抵抗をなくし、「全人口のうち最も数が少ないマイノリティーで支援が行き届きにくい妊産婦や乳幼児」「復興後の地域を支えていく世代」「低体温や脱水など避難生活が健康に害を与えやすい世代」への支援を真っ先に考える必要性を理解することができれば、その自治体の災害時要配慮者対策に弾みがつきます。


母子支援は世界標準
 私をはじめ、災害時に母子を守る必要性を感じた仲間たちは「災害時妊産婦・乳幼児救護所」を自治体事業にする際、さまざまな文献や研究結果を集め、理論の裏付けをしました。例えば、世界中で災害対応や人道支援のバイブルとされている「The Sphere Handbook」には、子ども、女性、HIV感染患者、高齢者、身体障害者が災害弱者として挙げられており、災害弱者の声を聴くことの困難さについても言及しています。具体的に、女性が安全に使えるトイレや授乳場所の確保、妊娠中の低栄養を回避するためのサプリメントの配布、性暴力に対する性感染症予防やカウンセリングなどの対応といった目標が記されています。また、災害の種類によって、罹患と死亡のパターンが大きく異なることが示されていますので、災害に合わせ、重点を置くべきポイントがどこなのか、私たちが動く際の目安になればと思います()。

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 米国の州や地域の防災計画のための指標として作成された、「A Toolkit for State and Local Planning and Response」には、災害弱者として特に小児への対応が詳細に示されています。この文献によると、災害発生が日中であれば被災児が親と離れている可能性があり、それだけでもリスクになります。また、小児は状況の理解ができないためにストレスを受けやすく、それは年齢(月齢)によって身体的にも精神的にも大きく異なるので、それぞれ個別の対応を準備する必要があります。
 ここにお示ししたものは、数ある文献の中のほんの一部にすぎません。人道支援分野では世界的に妊産婦や小児は災害弱者として広く認識されており、対応するための詳細なガイドラインはたくさんつくられています。
 日本は特に、東日本大震災という大きな災害を乗り越えつつあり、その経験を生かし防災計画やガイドラインが再検討されているところが多いと思います。皆さんの足元から、災害時要援護者支援のグローバルスタンダードを踏まえ、本当に役に立つマニュアルを作成していく必要があると思います。


自治体における災害時の母子への備え
 東京都福祉保健局が作成した「妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン」に災害弱者としての妊産婦、乳幼児への対応が詳しくまとめられています。このガイドラインは東日本大震災時、子どもがうるさいと言われ避難所を出ていかざるを得なかった家族や物資がなかなか届かなかった妊産婦の声を拾い上げて作成されたもので、妊産婦、授乳婦への特別なケアが必要であると最初に明記され、そのために準備するべき具体的な物品が挙げられています。もちろん準備するのは物資だけではなく、メンタルケアも必要であると記されています。
 また、同じく東京都福祉保健局が作成した「避難所管理運営の指針(区市町村向け)」(資料編)の47ページ以降では文京区でつくった備蓄リスト等が載っております。世田谷区では、妊婦さん向けの災害時の備えを啓発パンフレット(妊産婦・乳幼児のための災害マニュアル)として広め、救護所の整備を進めています。
 いずれもインターネットで閲覧できますので、ご参考までにぜひ一度ご覧ください。


***


*セミナーのご案内
 本会では、吉田穂波先生を講師に、セミナー「災害時の妊産婦支援のために私たちが備えておきたいもの」を開催します。詳しい内容やお申し込みは、本会HPをご覧ください。
【日時】7月20日㈭14時30分~16時
【会場】保健会館新館(東京都新宿区)

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