思春期はいま 思春期保健相談士への期待<5>

教育学の視点で思春期セミナー


武田講師
〈略歴〉
千葉大医卒、千葉大院博士課程修了
思春期保健セミナー講師 武田 敏
千葉大学名誉教授

今号も、本会主催の「思春期保健セミナー」(七月から開催)の講師による講義内容の紹介と受講者へのメッセージを掲載します。

四つの健康の教育

 私は松本清一先生から思春期学の基本を学び、教育学カラーで発展させる研究に取り組んで来た。「婚前の性行為不可」式の過去の性道徳に対比し、価値の多様化時代にコンセンサスを得られる性教育理論は?「乱脈な思春期の性行動によって起こりうる心身のリスク」から性道徳を教えるのはよいが、脅し教育や単なる純潔教育に逆行するのでは若者を説得することはできない。そこで松本先生の御見解、「WHOの健康の精神で性を学ばせる」が上記の発問への回答となる。誰でもが希求するウエルビーイング「健康に生きることを可能にする性のあり方」を教育することである。私案として「四つの健康の教育」に発展させる構想をすすめている。
  WHOの定義は身体的、精神的、社会的健康と邦訳されている。Mental Health を Spiritual Healthと狭義のMental Healthに分けるのがよい、と思う。前者は安らかな、ゆたかな心、情緒の安定で主観的に幸せに感じられること。後者は「自分がどうすればよいか解ること」。状況を客観的に正しく判断し、知識を活用して行動の結果を考察し、意志決定、行動選択が可能なこと、である。Physical Health身体的健康に関しては人々の誤解が少ないが、Social Health は社会の健康ではなく、人間関係の健康を意味する。松本先生の御指導にある通りである。人と仲よくやっていけることがソシアルウエルビーイングである。相手の快を自分のよろこびとするのが、ソシアルヘルスである。これら四つのポイントから性行動のあり方を主体的にコントロールするモラルを学ぶ。
  ウエルビーイングに発する性モラルモチベーション教育に加え、第二としてサスティナビリティを提示する。地球環境保全のエコロジー教育として用いられているが、性教育でも重要な意味がある。二人の幸せな関係、ウエルビーイングが継続する保障があってはじめて、安心、心の健康が確保される。現時点の態度・行動選択が明日の自分の幸せを左右することを考え、セルフコントロールを動機づける。
  第三は認知的、性モラル教育で、異性や性行為をどう認知するかにより、性に関する態度・行動が左右されるとする視点である。今日のマスコミ性情報は性行為認知のスキーマがその「快楽性」や「愛情交換」を優先させ、「命を継ぐ生殖」のスキーマが性意識に欠落している。中学生の性教育で、胎児の頭が女性器から生まれて来るシーンを教材に使った教師が管理職から注意を受けた。「それは行き過ぎた性教育。女生徒だけに見せるのならよいが」と言われたという。私は逆だと思う。母性心理が未熟な段階では、性アイデンティティ形成に支障となり、女生徒に「生々しい出産像」を見せることには、問題がある。男子生徒がポルノ映像で女性の外性器を知るのではなく、生命誕生として見る方が、「性を真面目に認知するスキーマ」形成に資するものである。自分を産んでくれた母親に感謝の気持を持つ点でも評価される。次に、学習者の認知を変容させ、適応行動を可能にするための教育技法例を示す。(A)「自由」の認知を、「自分勝手なことをする」→「将来に向かって、より多くの選択肢を確保する」、(B)「規範、ルール」を「行動の制約」→「公正、安全のための約束ごと」、(C)責任をもたされる、追求される」→「相手も自分も行動に責任をもつから、互いに安心して、やってゆける」等。

セミナー講義内容

 私の担当する講義はコース・で、学校性教育のすすめ方、特に私の開発した性教育の新しい展開技法や脳科学の進歩を導入した性教育について解説する。コース・では三つの課題を講義する。(A)医学領域の私のテーマ、思春期の性感染症全般について、と最新情報として、子宮頸癌に関わるHPV感染、若年の子宮頸癌増加、早期にHPVワクチン接種等、(B)IT時代に「思春期の誤認知やリスク行動を招く」不良マスコミ情報にどう対処し予防するか、思春期とバーチャルリアリティ、(C)コーチング技法として、傾聴と「思考を引き出す発問」、話しあいによる洞察促進により来談者のモチベーションを喚起し、本人が望む目標に向かうよう支援するスキルを学ぶ。コース・は今まで学んで来た相談の諸技法を系統的に総括するカウンセリング総論で、日常の思春期支援活動をブラッシュアップすることを目ざしている。

 

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