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編集帖 ▼一九四八年(昭和23年)に優生保護法(母体保護法)が制定され、半世紀以上が経過した。当時は敗戦による人口過剰や貧困など、国民の生活は極度の困窮を強いられた。そのため望まない妊娠は、止むを得ず人工妊娠中絶をすることも多く、母体への健康に大きな影響を与えた。こうした社会的背景の元、賛否の世論を受けながらこの優生保護法が制定され、現在は一応その役割を果たしたと言える。
この法律の制定後一九四九年に「経済的理由による妊娠中絶の許可」、五二年「受胎調節実地指導員(以下指導員)制度の発足」、五五年「指導員に避妊薬の販売を認める」、そして九六年「母体保護法に名称変更」等幾度となく改正があり、現在に至っている。中でも五二年の指導員制度発足は、わが国の家族計画事業の推進に大きな貢献をした。▼日本家族計画連盟(二〇〇二年3月に解散、本会が事業を引き継ぐ)は六三年から家族計画の啓発普及のため指導員講習会を開催し、現在までに約7千5百名もの指導員を養成、そのニーズの高さに改めて事業の重要さを痛感する。しかし、内容をみると「総論、受胎調節の基礎・指導、実習、討論、考査」に分かれ、総時間数は実に40時間である。
問題はペッサリーの実習で、10時間というのは現実離れも甚だしい。現在ペッサリーの製造は1社だけで、その使用者も激減し、近い将来姿を消すことは目に見えている。本会はペッサリーの存続に永年努力をしてきたが、大変厳しいのが現状である。▼ペッサリー実習が出来なければ指導員養成は不可能となり、指導員制度の存続も危ぶまれる。実習が無くとも科目の「受胎調節の指導」の中で充分に行えるはずである。受胎調節を実行し、望まない妊娠を防止することはリプロダクティブ・ヘルスの基本テーマであり、これを推進する指導員養成は大変重要で、早急の対策が必要である。
さらに、時代に即応した新しいカリキュラムの構築も急がれる。例えば、近年10代の人工妊娠中絶の増加とともに性感染症の蔓延が社会問題となっているが、それらをも含めて幅広い内容が必要となっている。
また、指導員の資格対象は保健師・助産師・看護師に制限されているが、教育関係者やコメディカル等も検討する時代になってきた。8月の酷暑の中、第88回受胎調節実地指導員認定講習会が、5日間120名の参加で開催される。今後の活躍に期待したい。(S)
思春期のセクシャルヘルス推進をめざし 日本家族計画協会創立50周年記念事業思春期保健相談員学術研究大会
本紙前号で既報の通り、去る6月20日に本会創立50周年記念「思春期保健相談員学術研究大会」が開催された。大会では記念講演・海外招聘講演の2題のほか、一般演題報告が3つのセッションに分けて11題発表された。さらに、シンポジウム「ピアカウンセリングの推進」が自治医科大学看護学部・高村寿子教授を座長に進められ、ピアカウンセリングに携わる4名の担当者が、市の立場・保健所の立場・県の行政の立場、そしてピアカウンセラー(若者)の立場から、それぞれ詳しい説明を行った。本面では、以上の中から特に講演2題及び一般演題について、その概要を簡単に紹介することとする。(文責・本紙編集部)
記念講演 「思春期健康教育の展開」
松本会長
日本家族計画協会会長 松本清一北西ヨーロッパでは一九八〇年代から10代の妊娠中絶が顕著な減少を示し、その対策の有効性が認められた。その中心が北欧型解決と呼ばれるもので、それは性の健康に対する若者へのサービスと教育の促進であった。
中でも、多数の思春期クリニックの設置や仲間カウンセリングの活動など、若者に対するプログラムの企画・運営・評価などへの若者自身の参加が、効果的であったと評価することができる。
一九八八年に、WHOによって提唱されたリプロダクティブ・ヘルスについて、これが一九九四年国連の国際人口開発会議で採択され、行動計画の中に盛られて以来、若者が責任のある決断を下すために、リプロダクティブ・ヘルスに関する情報やサービスの提供を受ける権利を有するということが認められた。
また、性の権利宣言が一九九九年の世界性科学学会で発表され、「人間が有する性の権利は、あらゆる人間が有する生まれながらの自由、尊厳、平等に基づく普遍的人権である」とし、その必要なこととの一つとして包括的セクシュアリティ教育を受ける権利を挙げている。
包括的性教育
大会には三百名もの相談員が参集
(挨拶する近理事長)包括的セクシュアリティ教育とは、セクシュアリティのあらゆる面に関する知識、態度、スキル、ならびに価値観を供給し、かつ受容させるもので、それはセクシュアリティに対して肯定的な態度を醸成させること、自分自身が性的な存在であることを確認・受容すること、自己尊重と保健の要因として身体の知識を高めること、自由で責任のある性行動を育てること、などである。
つまり、性の健康な社会をつくるために、広くすべての人々に提供することが必要であり、ことに学校での包括的セクシュアリティ教育が、個人の生涯にわたる性の健康にとって、建物の礎石のような役割を果たす重要なものとされているのである。
質の高いセクシュアリティ教育のプログラムは、まず知識を増す。価値観を明確にする、親子のコミュニケーションを増す、思春期の早期を対象にした場合には性交の開始を遅らせる、避妊やコンドームの使用率を高め、一方において、若者たちに性交の開始を進めたり、性交の態度を増させたりしないということが認められている。
アメリカの新保守主義
高石昌弘座長のもと、講演する松本会長 ところが、米国のブッシュ政権の新保守主義が、中絶禁止を強く主張するプロライフとも提携し、国連人口基金など、中絶を容認する機関や施設への拠金をすべて打ち切って、多額な予算を使い若者に「結婚まで禁欲のみ教育のプログラム」を推奨している。
結婚まで禁欲のみの性教育と、包括的セクシュアリティ教育との特徴を比較すると、包括的性教育では「セクシュアリティは自然で普通な、健康な人生の一部分である」と教えているのに対し、禁欲のみ性教育では「結婚前の性行動は社会的心理的身体的悪影響を招く」と教えている。
包括的性教育では「性交しないことが妊娠や性感染症の予防に最も効果的」と教えているのに対して、禁欲のみ性教育では「結婚まで性交しないことが唯一の正しい行動」と教えているのである。
性と生殖に関しては「自ら判断し、決定し、相互に尊重する」ことが特に重要である。このため、自分や相手の体について正確な情報を入手し、自分で判断し、自ら健康管理できるように、学校や地域における性教育や健康教育を一層充実させるように努める必要がある。それに必要な行動変容のスキルの獲得を目指すためにも、包括的セクシュアリティ教育を広めることが大切と考えるのである。
海外招聘講演 「オランダにおける思春期のリプロダクティブ・ヘルス」
国際家族計画連盟 ドーチェ・ブラーケン
オランダは他の西洋諸国に比べて、望まない妊娠率が非常に低い。また、15歳から19歳の女子千人に対する中絶率は 4・5件。一九八六年のデータに比べて半減している。ところが、初交年齢はかなり高く、平均年齢は17歳である。妊娠率や中絶率が低いのは、避妊方法が普及しているためで、データによると若者の85%が初交時に避妊具を利用している。
ブラーケンさん
第2次大戦後、オランダでは経済が急速に発達し、福祉国家が設立された。社会保障制度が人々に付与され、同時にオランダ全土に民主的な体制が敷かれ、教会の果たす役割も徐々に減少し、人々にセックスについての教育が普及していった。
オランダでは、非常に強い女権運動がある。また基盤のしっかりとした家族計画制度があり、現在では20万人が会員になっている。性と生殖に関する健康も、草の根から徐々に盛り上がり、それが福祉国家の設立につながったわけである。積極的な家族計画政策
そして、一九六〇年代の末にはファミリードクターや開業医が、家族計画制度を患者に教えるが許されるようになり、一九六一年には経口避妊薬ピルが導入された。一九七一年には、いわゆる避妊法が国民健康保険制度の中に組み込まれ、一九八四年には中絶が合法化された。
このために、政府はできる限り中絶を廃絶するよう努力し、避妊法には資金も投資するなど、あらゆる援助を惜しまなかった。その結果、セックスについての問題をオープンに話し合う雰囲気が生まれたわけである。
オランダにおいて画期的なことは、12歳を性交の同意年齢と認めたことである。このことで、われわれが払う努力は、思春期の若者がより安全なセックスを持ち、そして彼らが自信を持って性行為を行う雰囲気を作るようにすることである。すなわち、若者たちに責任感を培う機会を与えることである。
オランダの両親は子どものセックスについて、非常に肯定的な態度を持っている。両親は子どもが安全なセックスを持ち、そしてそのセックスに対して責任を持つことを期待している。最近の調査では、50%の両親が愛や男女間の関係や生殖について、その指針を子どもに提供している。「ハリネズミ」のキャンペーン
オランダではクリニックをハウスと呼んでいる。一九六九年に初めて設立されたが、設立に当たって、オランダの家族計画協会はハリネズミを使ったキャンペーンを行った。「2匹のハリネズミが、どういう形で交尾するか。彼らが交尾するときには、非常に慎重。だから皆さんも、性行為をするに当たっては慎重さが大切です。問題があれば訪ねて来てください。」と。
若者は性的に非常に活発である。だからセックスの問題については、非常に率直に話し合うことである。それは家庭でも、社会でも、学校でも、またマスメディアでも同じである。若者は自分たちの人生や生活に対して、非常に大きな責任感を持たなければならない。また、公平さも重要である。同性愛も異性愛も同じレベルで扱わなければならないのである。
つまり、オランダにおいて重要にされていることは「愛」「尊敬」「寛容さ」「公平さ」、そして「責任」、この5つの要素である。これがオランダの基本になっている。
生徒自らが「性と生」を仲間に伝えてあげたいと 栃木県下保健所で実施のピアカウンセリング
「とちぎ思春期研究会」は、平成十四年度、栃木県からピアカウンセラーの養成及び思春期相談センター運営の委託を受け、ピアカウンセラーの活動を支援している。ピアカウンセラーの養成は、とちぎ思春期研究会員である自治医科大学看護学部高村教授が四日間に渡り「セクシャリティの基本概念や理解及びピアカウンセリング」の講義・演習を行った。(自治医科大学看護学部・篠澤俔子) 自己決定ができるよう
養成講座で学生たちは、性に関する正しい知識を学び、自己決定能力を高めていくことや、ピアカウンセリングのスキルを学び、ボランティア活動で学んだことを活かすことが大切だと受けとめて、ピアカウンセラーとなる。ピアカウンセラー一五三名は、思春期相談センター「ピアルーム」において、とちぎ思春期研究会員の支援のもと、ボランティア活動を十四年十月から開始した。
また、高校生が性に関する正しい知識をもとに、望ましい意思決定や行動選択のための自己決定ができるよう、県教育委員会と保健福祉部の共同体制により、県内六地区の健康福祉センター・保健所において、すべての高校生を対象に集団方式によるピアカウンセリングを実施した。今回は、栃木県で実施したこのピアカウンセリングについて、報告する。とちぎ思春期研究会の会員が支援をして
栃木県のピアカウンセリングは2回に分けて実施された。パート1では、自己決定能力の向上に向け、自分を見つめ直し自分を大切にする性と正しく向き合い、自己決定できることを目標とした。パート2では、価値観の多様性を容認出来ることとして、他者の存在を知り大切にして、他者と信頼し合う関係がつくれることを目標とした。
ピアカウンセリングは、広域健康福祉センター・保健所管内で行うため、ピアカウンセラーは居住地域をもとにそれぞれの地域に振り分けられた。居住地から時間を賭けて通い、夜遅くまで準備するピアカウンセラーを支えたのは、とちぎ思春期研究会員でもある保健師等であった。
ピアカウンセリングは、地域の保健師等の支援を受けながら地域の実情に応じて、企画、シナリオ作成、教材の工夫などの準備を行い、リハーサルを積んで実施された。参加高校は約七十校
ピアカウンセリングパート1(1回目)は、参加した高校生達が、心を開き、自分を見つめ直し、自分を発見できるように行った。次に自分らしく生きるために「生」と「性」について考え、避妊、性感染症、エイズ等の正しい知識が得られるよう展開した。
パート2(2回目)では、パート1の受講生たちによる評価結果を踏まえ、前回実施した内容を補足し、新たに相手との人間関係のとり方について学び、今まで学んだことを振り返り、ピアカウンセリングの目標が達成できるよう全力で実施した。上表は、ピアカウンセリングの参加状況である。
県内参加高校は約七十校、健康福祉センター・保健所保健師や幹事校の養護教諭がピアカウンセラーを支え(大部分の方がとちぎ思春期研究会員である)、市町村保健師が協力し、すべての参加高校の教員や養護教諭が生徒たちの学びの状況を見守った。「自分をもっと大切にしたい」
実施後にピアカウンセラーが受講生に対して、ピアカウンセリング(パート2)についての意見をアンケートしたので、一部を紹介する。
『自分の中で何が変わったか』という質問に対して、ある地区では、六七%の受講生が自分の中で何かが変わったと答えている。
また、ある地区では、変わった点は、「自分の生き方四四・九%」「性に対する意識一八・三%」「自分を大切にすること一六・三%」などをあげていた。
具体的には、「周りの人のことを考えるようになった」「自分をもっと大切にする」「セックスについてもっと責任をもつ」「自分に自信が持てた」「自分のことを皆の前で出せた」「自分を見直した」「友達に教えてあげられる」などであった。
ピアカウンセリング受講生の変化に関する調査は、栃木県教育委員会のサポートを受け現在実施しておりまとまり次第報告する予定である。「伝えたい」との熱い思い
今年の三月、ピアカウンセリングを受けた生徒が、同じ学校の生徒に伝えたいと「ディアリスト〜今の私、そして未来の私〜」と題して、一時間二十分の性教育を実施した。受けた生徒から好評を得たとの報告がなされている。
この高校で授業が実現できたのは、「性に対する考え方を他の生徒に伝えたい」という受講した生徒たちの熱い思いと、それを行動に結びつけた養護教諭、担任、周囲の教員の協力や指導であった。
こうした取り組みを各所で行うには、あらゆる職場、様々な職種が時には主となりに、時には潤滑油となって、若者や行政と協働して取り組んでいけば、思春期の問題や悩みを解決する道が拓かれていくものと確信している。
Copyright(C), 社団法人 日本家族計画協会, 2001